幕間 マレッティへ
シン視点です。
ルカさん達と別れ、リトと共にヴァルザ火山を下ってルッシャート王国に向かう。
「そういえば、このローブだけでも返した方が良かったんじゃないかな?」
自分が着ている〔穏やかな風〕のローブを摘まんで示し、リトに見せながら問いかける。
「あら、別にいいんじゃないかしら?主もなにも言わなかったのだから。きっと忘れていたのね」
「あはは」
俺から言うべきでしたね。すみません、ルカさん。
俺はヤカサルの村で目覚めてからの、不思議な出来事に思いを馳せる。
ヤカサルの村で目が覚めて初めて見たあの人は、紺のローブのフードを目深に被り顔が見えなかった。その事にいつもなら警戒心を抱くけれど、あの時の俺はそんなことを気にしている余裕はなかった。
ヴァルザ火山に行って炎晶石を手に入れる、それだけが頭の中を占めていた。
だから助けてもらったらしいあの人に簡単な礼だけをして、ヴァルザ火山にもう一度向かおうとした。
そしたらあの人に止められたんだよなぁ。あの時は本当に怖かった。本気で殺されるかと思ったくらいだから。
その後、ルカさんがヴァルザ火山に行くのを知ってお願いしたんだよな。最初はやんわり断られたけど、粘ってお願いしたら同行を許してくれた。
その時にルカさんが「解析」スキル持ちだって教えてくれたけど、良かったのかな?普通は隠すものだよね?
尤もあの人なら、他にも驚くことばかりだから気にならないのかもしれないけれど。
そして朝起きてルカさんの従魔達を紹介されて、特殊効果が付与された装備品をぽんっと出して簡単に俺に貸して、見たことない程の凄い剣技と魔法を操って、見える人は限りなく少ない精霊様が見えて、貴重な魔道具沢山持ってて………。
うん、「解析」スキルがどうでもよくなってきたな。
そういえば俺が着てた服、ルカさんに預けたままだ。まぁ、いいか。大分ボロボロになってたし、ルカさんも捨てるだろう。
そしてルカさんのお陰で、ヴァルザ火山で炎晶石を見つけて手に入れることが出来た。
本当に、心から感謝してもしたりない。
腕の中にある布に包まれた炎晶石を、もう一度存在を確かめるように強く抱き締める。
「シン、もうすぐ入り口が見えてくるわ。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。リトはこのまま一緒にいて、兵士になにか言われませんか?」
「大丈夫よ。街の中なら兎も角、外ならなにも言われないわよ。驚かれるとは思うけどね。それに、こんなところで貴方一人の方が確実に色々言われると思うわ」
確かに。それはそうだろう。二つの国の関係性と、今のヴァルザ火山の状態を考えると。
炎晶石は、魔法袋にしまっておいておいた方がいいかな。
そのままリトを伴って、入り口まで歩いて行く。すると入り口に立っていた騎士(兵士ではない。騎士の身分を表す鎧を着ている)が俺達に気付き、剣を向けて警戒している。
俺よりリトを警戒するよね。だってリトとテトって見た目ちょっと怖いもんね。かなり大きいし。
よくルカさんは可愛いなんて言えるよな。それもあの人らしいけど。
「そこで止まれ!」
言われた通り、騎士から少し離れた位置で止まる。
「冒険者か?身分証を見せてもらおう」
「どうぞ。でも俺は冒険者ではなく、見習いの商人です」
警戒してリトに剣を向けつつ近付いてきた騎士に、マレッティの街の身分証を渡す。リトが騎士に剣を向けられて、若干苛ついているのが気配で伝わってくる。
「見習いの商人が、一人でこんなところでなにをしている?今のヴァルザ火山は危険地帯だぞ?それに、その魔物はお前の従魔ではないのか?」
矢継ぎ早に質問しないでほしいな。いや、分かりますよ?明らかに怪しいですもんね、俺達。
「サピセスの街に炎晶石を求めに。途中まで冒険者の方と一緒でしたが、事情があり別れました。この子は、その方の従魔です」
「お前の従魔ではないだと?ちゃんと躾はなっているんだろうな⁉」
「心配せずとも人間ごときに興味はないわ。私は我が主の命でこの坊やの護衛をしているだけ。分かったらさっさと通しなさい」
高圧的で煩い騎士に、リトが怒ってしまった。俺もちょっとイラっとしたから止められないけど、そもそも俺の言うことなんて聞いてくれないだろうし。
それにしても“坊や”って………。
騎士達は、言葉を話したリトに驚愕していた。
それはそうか。言葉を理解し話すのは、大体Sランク以上の魔物か幻獣だ。そこいらにいる騎士や冒険者では、まず相手にならない。
「そ、そうか。だが分かっていると思うが、その魔物が問題を起こしたら、責任はその冒険者かお前が問われるんだからな‼」
「はい、分かっています」
リトの威圧に当てられたように、後ずさりながら騎士が言った。リトは問題なんか起こさないよ。俺よりしっかりしてるんだから。
騎士の横を通り、ヴァルザ火山を出る。何事もなくすんなり通れて(?)良かった。後はマレッティに帰るだけだ。
待っててくれ、サラ!もうすぐ迎えに行くから!
リトの首に掛かっていた〔万年雪の雫〕を外して、魔法袋に入れておく。
目の前に広がる街道と草原を見つめる。
「さて、ここからマレッティの街までどれくらいかかるかしら?」
「馬車で三日程ですね」
「そう。それなら、私が本気で走れば半日くらいで着くわね。でももう日が傾き始めているから、着くのは夜中近くになってしまうわ。途中の街で休みましょう」
リトがそう提案してくれたけど、俺は早くマレッティの街に帰りたい。でも、リトに無理はさせられない。
「シン、私は貴方の心配をしているのよ」
「え?」
「私は半日程度本気で走っても大丈夫だけど、貴方はそうじゃないでしょ?人間なんだもの、休息が必要だわ。ここまで、かなり強行軍だったことだし。だから途中の街で休むの」
主じゃあるまいしね、というリトの呟きはさておき。俺は早く帰りたいけど、リトの言う通りだ。足手纏いにだけはなっちゃいけない。
「なら、コッシュトーの街がちょうどいい位置にありますよ」
「コッシュトーの街ね。場所は知っているわ。じゃあ行きましょう」
リトに跨がり揺られて少し、空が茜色に染まり始める前に小さな街が見えてきた。ここでリトが減速し、立ち止まる。
「どうしたんですか?リト」
「私は、ここまでにした方がいいわね」
リトの言葉を聞き、背から降りる。
「門の兵士や街の人に見られたら、騒ぎになりますからね。俺なら、一人でも大丈夫です。この街は、知っている街ですから」
「そう?ならいいわ。私は貴方の影に入るから、一人になってしまうけど気をつけるのよ?」
リトが心配そうに言ってくれた。思えば彼女にも、ずっと守ってもらっている。今はなにも返せないけれど、いつかきちんと返したい。
「まだマリアが、俺の影にかけた魔法は発動したままなんですか?」
「ええ、マリアが解かない限り解けたりしないわ。本当はずっと側にいたいけど、〔従魔の首飾り〕をしてないから貴方の従魔だと誤魔化せないもの。でも大丈夫よ。なにかあったら、私が必ず守るからね」
「はい、ありがとうございます」
ルカさんがしていたように、感謝を込めてゆっくりとリトの体を撫でた。
リトが影に入り、いよいよ一人になった。心が一気に不安に包まれたけれど、ここでつまづいてちゃいけない。
俺は一つ深呼吸をして気合いを入れると、コッシュトーの街へ歩いていった。
読んで頂いてありがとうございました。
次回も引き続きシンの視点の話です。




