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38 炎獄のダンジョン その二

 ダンジョンとは、摩訶不思議な場所である。


 なにが起こるか分からない、予測不可能な場所でもある。


 一度通った階層でも次に訪れた時には以前とは全く違うことが起こる、既に攻略したダンジョンであろうともう一度一階層から入ると新たな発見がある、などといった現象が起こる。

 故にダンジョン探索を専門とする探索者などがいるのであろう。


 “ダンジョンは生きているモノである”と言う研究者の言葉も、あながち間違っていないのかもしれない。


 瑠華は【カイン】の時に、世界中のダンジョンを巡った。片っ端から入っていたとも言う。

 先に言った通り、それは探索目的でも攻略目的でもなく、ただ単に魔物を求めていたからであった。故に、機会があれば既に攻略したダンジョンにも入ることがあった。

 だからダンジョンが“そういうもの”であることも、勿論知っていたし理解していた。世界中のダンジョンを巡っていただけあって、経験値だけは並の探索者より上であろうと思う。

 なにがあっても動じないだろう、と思ってもいた。

 けれど目の前の光景に対して、少なからず驚き、脱力してしまった。


 そのことに関して言わせてもらえば、相手が悪い、である。この部屋に辿り着くまで大変だったのだ。どの階層にも魔物が溢れ、戦い続けてきた。囲まれぬよう上手く立ち回り、気を張り動き続けた。“Sランクになっている”というセラからの前情報の通り、一階層からそれなりの強さを持つ魔物がいた。


 だから………そう、だからボスも“それなり”だと思っても仕方のないことなのだ。



 なにが言いたいかと言うと、なんのことはない、只の負け惜しみである。




 「う~ん……」

 「どうする?(あるじ)よ」


 腕を組んで唸りながら頭を捻る瑠華の傍らにお座りしながら、テトが問いかける。


 「………う~ん………」

 「ルカさん、どうするんですか?」


 瑠華とテトから離れた後方にいるシンも困惑していた。


 「……………う~ん……………」

 「どうするの?主?」


 シンと共に後方にいるリトが、若干呆れたような声で聞く。


 「…………………う~ん……………………」

 「いい加減にやれ‼」


 瑠華の態度を見かねたテトが、跳躍し背中に飛び蹴りをかます。瑠華は少しバランスを崩しかけたが直ぐに立て直し、悪びれもせず前方にいる敵に視線を向ける。


 「いや、悪い。ちょっとやり取りが楽しかったの」

 「「そんなことだろうと思ったよ‼」」


 テトとシンが同時に突っ込みを入れる。



 仲が良くてなによりです。とまぁ、冗談はさておき、なんとなくやる気を無くしてしまっている。原因は目の前の敵。


 肩透かし感が半端ない。




 ボス部屋のボスは、なんと体長十セル程の赤色の小さな蜘蛛だった。

 勿論見た目で判断するような愚かなことなどせず、警戒とともにスキル「完全解析」で敵の情報を調べた。



 フレアスパイダー

 レベル51  蜘蛛種(スパイダータイプ)  属性 焔

 HP B(青)  MP C(赤)

 スキル 糸攻しこう術 

 魔法 焔属性下級



 ダンジョン内のボス部屋のボスにしては、おかしなステータスをしている。ちょっとどころではなく。

 ボスとして合っているのはレベルと属性くらいで、他は弱過ぎなんてもんじゃない。


 見えている敵は囮だと思い、警戒しつつ部屋全体を見回した。けれど隠れている敵などいなかった。


 しかも赤蜘蛛(フレアスパイダー)も瑠華達が入ってきたのは分かっているはずなのに、それでも瑠華達に向かってこようとせずに同じ場所でじっとしている。


 なにがしたいんだ、と石を投げつけてやりたい衝動に駆られても仕方ないというものだ。



 気を抜いてしまったことについては、ちょっとだけだったので許してほしい………。














 再度敵の有無を確認してから、シンに声を掛ける。


 「では、この部屋で休むとしよう」

 「はい、分かりました」



 取り敢えず、ボスについて結果だけを言うならなにもなかった。本当になにも。



 ちょびっとだけ気を抜いてしまったが、横から“怒気”という名の威圧を感じ、直ぐに引き締めさせて頂きました。


 おっかないんですよ、うちの可愛いもふもふ従魔さんは。



 フレアスパイダーは全く動く気配を見せないので、仕方なく瑠華はミスリルの長剣を右手に持ち、ゆっくりと近づいていく。

 後残り十歩程になった時、フレアスパイダーは瑠華の顔を目掛けて弾丸のように突っ込んできた。

 それに対し瑠華は、目を細めてミスリルの長剣を真上に突き刺すように上げた。顔の目の前で、少々気持ち悪い音を立てて、フレアスパイダーは剣の先端に突き刺さり絶命する。

 そのまま暫し周囲を警戒していたけれど、やはりなにも起こらなかった。

 瑠華は小さくため息を吐き、後ろを振り返る。


 「終わり、ですか?」

 「そのようだな」

 「呆気ないにも程があるわね」


 シン、テト、リトの言葉に、瑠華は苦笑いを浮かべる。ここにいる全員が、ボスが意外すぎて拍子抜けしてしまったらしい。


 瑠華はフレアスパイダーが刺さったままのミスリルの長剣を横に一振りして死体を地面に落とし、フレアスパイダーの死体に小さな火の魔石を投げて砕き後始末をする。砕けた魔石から火が立ち上ぼり、フレアスパイダーの死体を炭に変えて直ぐに消えてしまう。



 そんなこんなで、ここボス部屋で休むことになった。





読んで頂いてありがとうございました。

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