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34 ヒカエル?

 「………ねぇ、シン?」

 「………なんでしょうか?ルカさん」

 「………あれ、なにに見える?」

 「………ヒカエル、でしょうか?」


 だよねぇ。


 どう見てもヒカエルだよね。

 見た目は。



 「助けてくれぇぇぇぇ‼」

 「グガアァァァァァァァア‼」



 鳴き声がカエルじゃないんですけど⁉どっから声だしてんの⁉






 時間は少しだけ遡る。



 ヴァルザ火山の右側に広がる林を目指し、ヤカサルの村を出た瑠華達だが、駆け出して直ぐに立ち止まることになる。


 瑠華、テト、リトが険しい雰囲気を醸し出し前方を睨んでいた。その様子を首を傾げながら見て、シンは瑠華に問いかける。


 「ルカさん、どうかしたんですか?」

 「……この先に、昨日は感じなかった気配がしているんだよ。丁度ヒカエルの生息域のど真ん中で。かなり強い気配なんだよねぇ」


 そう、瑠華と従魔達はかなり危険を(はら)んでいそうな気配を感じ取っていた。昨日、シンを見つけたのは今いる場所よりもう少し先になるけれど、その時はこんな気配は感じなかった。

 だからこそ余計に警戒心を刺激された。


 瑠華と従魔達だけならなにも気にせずに行くけれど、今はシンがいるから慎重に考えていた。その先に目的の地がある以上、行かないという選択肢が取れないのだから慎重にならざるを得ない。

 瑠華はシンを振り返り、再度注意を込めて命じる。


 「シン、もう一度だけ言っておく。絶対にリトから離れるな、っていうか降りないように」

 「…………分かりました」


 瑠華の雰囲気が伝わったように、シンも真剣な顔で頷いた。



 本当は通らないのが一番なんだけど。というか通りたくないんだけどね。






 シンには朝、アイテムボックスに入っていた一般的な冒険者の服と、防御に特化した装備を渡した。


 〔輝ける白き光〕

 聖魔法の最上級防御結界、『白き光』と同じ効果が付与された薄いクリーム色の上着。同じ最上級の魔法だと若干のダメージを喰らってしまうが、上級魔法ならほぼ無傷で防げる。


 〔死神の衣〕

 名前は非常に物騒だが、状態異常と精神系異常をある程度防いでくれる淡い黒のローブ。


 名前はないが、鋼鉱石で造られた鈍器にもなる(ロッド)


 後は食料、予備の武器、回復薬を含む各種の薬、水と氷を中心にした魔石と魔法石などを入れた、昨日見つけた魔法袋を渡してある。

 これでもし離れてしまっても、なんとか大丈夫だろう。






 警戒しつつ再び駆け出し、ヒカエルの生息域に近づいていく。危険な気配が邪魔をしているが、他にも魔物の気配ともしかしなくても人間の気配も混じっている。


 「テト、人間の気配がしない?」

 「うむ、五人程いるな。例の魔物に追われているみたいだぞ?こちらに近づいてくる」


 もう僕の耳にも聞こえ始めていた。叫ぶような悲鳴のような声。男女数人分。


 「シン、どうやら先着者がいるようだ。こちらに向かってきている。魔物と一緒に」

 「襲われているってことですか?」

 「まぁ、そうだろうねぇ」

 「助けるんですか?」

 「求められればね」


 おやっと思い、シンを見つめる。

 少し意外だったからだ。

 シンは間髪(かんはつ)を入れずに助けてあげてほしいって言うのかと思った。職業通り、商人寄りの考えなのかな?



 人間の気配はこちらに向かってきていて、瑠華達も駆けているので直ぐにお互いが見える距離まで来た。

 既にヒカエルの生息域には入っている。


 「うわぁぁぁぁぁ‼」

 「きゃぁぁぁぁぁ‼」


 こちらに向かってきている冒険者?達は無我夢中、脇目も振らずにって言葉そのものの体で、元気に走っていた。怪我などはしていないようではある。

 冒険者達が見えるということは、彼等を追っている魔物も見えるというわけで。


 いや、実は彼等より先に見えていたんだが、見ないようにしていただけである。


 「…………なんというか言葉がないな」

 「ちょっと表現に困りますね」


 その魔物を見て、思わず立ち止まってしまったテトとリトが、近寄りたくない、という風に後ずさる。


 「助けてくれ‼」


 先頭にいた剣士が瑠華達に気付き、助けを求める。瑠華は心から見捨てたくなってしまったが、助けるしかなかった。

 あの魔物は恐らく、瑠華達まで獲物と捉えただろうから。

 改めて前方を見る。あれが間違いなく危険な気配の正体だろう。

 冒険者達の後方十数メル先、無数の火の玉が跳んでいた。



 まぁ、それはいい。ヒカエルがスキル「火体」を使って炎を纏い跳んでいるだけだから。

 問題はその後ろ、ちょっと跳ぶ度にどしんっと地響きがする(その度に冒険者達が転びそうになっている)、悠然と聳える小山?と見間違う程の大きさをもつ、ヒカエルの姿がそこにあった。

 十メル以上はありそうだな。



 いくらなんでも、デカ過ぎじゃね⁉







 エンペラーフレアガエルキング

 レベル70 蛙種(フォッグタイプ) 属性 焔 フレアガエルキングの異常種(アンノウンタイプ)

 HP A(赤)  MP D(赤)

 スキル 同種族支配 能力向上 火体

 魔法 無し


 状態 愉悦




 名前に突っ込みてぇ‼


 皇帝(エンペラー)なの⁉王様(キング)なの⁉どうしてそうなった‼


 大分距離も近づいてきたので、スキル「完全解析」で見たら脱力してしまった。しかも異常種(アンノウンタイプ)って……………ギルドの受付嬢に聞いていた異常種(アンノウンタイプ)と違うから、未発見の魔物ということになる。


 でも流石の蛙種(フォッグタイプ)、魔力が低い。スキルの「同種族支配」はそのままの意味だから、ここにいるヒカエルはアイツの支配化にあるということ。「能力向上」もそのままだろう。


 状態の愉悦ってこの状況、冒険者達を追いかけて殺すのを楽しんでいるってことだよね?

 性格、悪いね!



 「シン、君はここにいなさい。リト、シンを頼んだよ」

 「はい」「ええ」

 「じゃあ、テト、行こうか」

 「………………」


 テトに声をかけたが、返事がなかった。

 この間にも、冒険者も魔物も近づいてきている。

 どうしたのか、とテトの顔を覗き見ようと背中から降りる。するとテトは前方を見据えたまま、重い声を発した。


 「(あるじ)よ、一人で行ってくれ」

 「ん?」

 「我はあれに近づきたくない。だから、一人で行ってくれ」

 「…………………」


 瑠華は無言で、ついでに(フードで見えないが)無表情で冒険者達の方に走り出す。

 大きく息を吸って、


 「薄情者――‼」


 心からの叫びを上げながら。







 その声に冒険者達が顔を引きつらせ立ち止まりそうになったが、助けてくれそうな雰囲気だったのでそのまま走り続け、瑠華の横を通っていった。


 瑠華はそのタイミングで、アイテムボックスから出していた水の中級魔法が込められている魔法石を、視界一面に跳び交っているヒカエルに向かって投げる。


 魔法石が割れ、瑠華の前方に水属性中級魔法『ウォーターウェイブ』が発生してヒカエルを呑み込む。


 「これで雑魚は死ん…………………でないしぃ」


 スキル「火体」の炎は消せたようだが、ヒカエルは生きていた。体制を立て直し、向かってこようとしている。



 もしかしてエンペラーフレアガエルキング(名前が長い‼)の、スキル「能力向上」って支配化においた魔物に対してのものなの⁉













 なんなの?

 お前、なんなの?

 ヒカエルの進化体のくせして…………。

 デカいし、皇帝だか王様だか分かんないし、蛙だし、ぶよぶよだし、気持ち悪いし、可愛い従魔は自由だし、デカいし………。



 瑠華は前方を見据えたまま魔力を練り、詠唱を始める。


 『荒ぶる氷雪の乙女達よ。汝らの意義を示せ。汝らの心を叫べ。汝らの存在を世界に知らしめよ。汝らの心の赴くままに力を振るい、世界の全てを白銀へと(いざな)え』


 少し遠くにどっしりと佇むデカガエルを見据え、八つ当たり的な怒りを込めて魔力を解放する。



 「名前がなげぇんだよ‼ブリザード‼」


 瞬間、周囲に恐ろしい音をたてて、氷の嵐が吹き荒れた。


 それは瑠華が過剰過ぎる程(意図的に)魔力を込めた為の結果だった。



 数分にも及ぶ氷の嵐は、次第におさまり消えていった。

 後には傷付き凍り付いて絶命したデカガエルの氷刻が転がり、文字通りの白銀の世界が広がっていた。




 よし‼これぞ、チート‼










 すみません。てへ♪







 


 

読んで頂いてありがとうございました。

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