35 ヴァルザ火山へ
白銀に変わった世界を前にして、瑠華は一人佇む。
寒っ‼心が‼
はぁ……最近沸点が低いなぁ。【カイン】の時も彼方の世界でも、もっと落ち着いていられたと思うんだけどな。
“瑠華”の心が、突然に異世界に来たから情緒不安定なのかな?まだ?
ふっ……そんな繊細な神経、前世からしてねぇし。
と自ら心の中でノリ突っ込みをしていたら、後ろから気配が近づいてきた。テト、リト、シンの三人だ。マリアとムツキも瑠華のフードから顔を出し、瞳をきらきらさせて周りを見回していた。
「また、随分派手にやったな」
「相変わらず、主はキレると危ない人よね」
「良かったぁ。これがルカさんの“普通”だったら、付き合いを考えなおそうかと思いました」
三人の会話が聞こえたけど、スルーさせてもらった。
それとシン、君は結構いい度胸をしているね?
それは口に出していいことではないよ?
「シン、ヒカエルから鱗を剥がしてきてくれ。無理そうなら捨て置いて構わないよ」
「……………ここに商人の敵がいる…………」
シンはなにかを小さく呟き、リトと共に走っていった。瑠華はテトを伴い、離れた場所で座り込んでいる五人の冒険者達に歩み寄る。なんとか助かったことと瑠華の魔法を見て、呆然としているようだ。
剣士の男が瑠華に気付き、いずまいを正す。
「……助けてくれてありがとう。本当に助かった」
「……死ぬかと思った」
「体調が万全ならあんなカエルなんかに遅れをとらなかったのに」
「異常種と連続で遭遇するなんて、ついてない」
彼等は口々になにかを言っていたが(一人は疲れ過ぎて話しすらできないらしい)、彼等のことなんかどうでもいい、と瑠華は聞き流した。けれどその中で気になる言葉が聞こえた。
「あのカエルの前に別の異常種を見たんですか?」
「ああ、レッドビーの異常種だよ。この先の林で遭遇したんだ。そちらはどうにか倒すことが出来たんだが、夜も大分遅くなってしまってから、日が昇るまで林で身を隠しながら休んでいたんだ。そして村に帰ろうと此処に来たらあのカエルに出会ってしまったんだよ」
カエルだけに?
「本当に助かったよ。ありがとう」
「いえ、こちらとしても情報を助かりました。異常種については懸念していたんです。しかしあちらのお仲間はあのままでよろしいので?」
「…………仕方あるまい。連れて帰りたいが………」
今いる場所からは遠い所に、一人倒れていた。身体は丸焦げで遠目で見ても死んでいるのが分かるほどだ。今は氷に埋まっているが。
彼等の仲間だろうと思ったので瑠華が一応聞いてみると、辛そうに顔を伏せて答えた。
彼等は動けるようになったら、ヤカサルの村に帰るそうだ。
彼等から離れ、ヒカエルの鱗剥がしを手伝おうと一番面倒くさそうなデカガエルの死体に向かう。
「これもシンに押し付けていいかな?」
「デカガエルだけでもやってやれ」
確かにあのデカさだと、鱗も大きいだろう。しかも今は氷に埋まってしまっている。
瑠華はアイテムボックスから小指の先程の小さな焔の魔石を取り出し、地面に叩きつけて割る。すると高温の炎が立ち上ぼり、みるみる氷を溶かしていく。
「思うんだが、主は魔法が使えるのだから自らの魔法でやったらどうだ?」
「めんどい」
「……………」
氷は数分で溶け、デカガエルの巨体が目の前に現れる。
デっカ‼カエルデっカ‼やっぱりデカいよ!そしてキモいよ‼
「間近で見ると凄い迫力だな」
「う~ん、これには触りたくないねぇ」
改めて見た異常なデカさについ心の中で突っ込んでしまった。そしてその気持ち悪さに辟易する。
その時、このデカガエルの体の色をはっきりと見て、唐突に閃いた。これがなんであんな名前なのか。
「そうか、分かったよ。このヒカエル、キャタピーエンペラーの要素が進化で表れたんだね」
キャタピーエンペラーとは、芋虫種の最終進化体の一つとして知られている魔物で、主に古い森や人があまり立ち寄らない高原などで目撃されている。
ここ“地大陸”でも存在が確認されていた。
体は進化したてで三メル、成長すれば八メルにはなるだろう。そして体の色は濃い緑。
このデカガエルも顔と体の前面は赤紫色なのに、背中が赤、紫、緑が混ざった気色悪い色をしていた。
体のデカさ、色、そして名前。間違いない!
確認の為に「完全解析」で見てみたら、しっかり書いてあった。いつも必要な所しか見ないから、分からなかった。
「確かに言われてみれば、そうだな。また面倒くさい進化をしたもんだ」
「それに、確かキャタピーエンペラーにも「同種族支配」と「能力向上」のスキルがあった筈だからね」
キャタピーエンペラーは敵に遭遇した時、近くにいる同種族を支配下に置いて集め、敵と戦わせている間に逃げる、という卑怯極まりない魔物である。
どうやらヒカエルには、この性質は出なかったようであるが。
瑠華は話しながら鱗を剥がしていた。普通のヒカエルの鱗が数セルなのに、デカガエルは一メル程もある。剥がすにも苦労するというもの。
ギルドに報告したら騒がれそうか。言わなきゃ分からないかな?いや、あの冒険者達がいるから駄目だ。
仕方ない。報告したら直ぐに街を出ればいいか。
遠くで休んでいる冒険者達を見て、瑠華は諦めた。
周りに転がっているヒカエルは、剥がすのが面倒だったのでテトに頼んで集めてもらい、まとめてアイテムボックスに入れる。後で暇な時にでもやればいい、と従魔達が聞いたら冷めた目で見られそうなことを考えていた。それを見抜いているのかいないのか、今でさえテトはじと目で瑠華を見ていた。
一先ず作業が終わると、シンとリトが近づいてきた。
「ルカさん、こちらは終わりました。この辺りにいたヒカエルは?」
「面倒だからアイテムボックスに入れたよ」
シンがデカガエルに対して、気持ち悪そうにして見ないようにしていた。苦手なのかもしれない。
「じゃあ、もう行くんですか?あの冒険者達はどうするんでしょうか?」
「彼等も冒険者だ。自分達のことは自分達でやるだろう。僕達はこのままヴァルザ火山に行くよ」
シンが頷いたので、テトとリトにそれぞれ跨がり林を目指して駆け出した。
ちなみに氷については、まぁ、時間がなんとかするだろう。
ヒカエルの生息域抜けて林に入り、ヴァルザ火山に飛び移れる場所に向かって進んでいく。その間にも魔物の気配がしたり、横合いから飛び掛かってくるものもいたが、全て素通りした。
テト達の速さにはついてこれまい。
漸く飛び移れる場所に着き、テトから降りる。後ろにいたシンを振り返ると、リトに乗ったまま口を抑えていた。
「……………大丈夫か?」
「大丈夫じゃありません……うぅっ……」
どうやらテト達が速すぎて酔ったようである。
瑠華は最初から平気だったが、常人には堪える速さらしい。
速さ的には彼方の世界でいう車の五十キロ程度だが、魔物を避けるために左右に避けたり木の枝から枝に飛び移ったり、只でさえ林はほとんど人も通らない獣道なので当たり前だが整備もされていないから、平地を走っていても揺れるのだ。
これで酔うなというほうが酷だろう。
「少し休む?」
「少しだけお願いします」
シンが本気でダメそうなので仕方なく、体感的に十分ほど休むことにした。その間魔物が集まってきそうなので、魔物が嫌う匂いを放つ果実を林に向かって投げておいた。
ポップンパルという拳くらいの大きさの赤い果実で、食べれば生でも甘くて美味しいのだが、少々匂いがキツい。
そして大体の魔物がこの匂いを嫌う。
だから簡易的な魔物避けになる。
テトから降りて、アイテムボックスに入っていた果汁の飲み物を出し、全員に配る。
「でも本当に、こんなところにヴァルザ火山に行ける場所があったんですね。ヤカサルの村で聞いた時は半信半疑だったんですけど。まぁ、普通の方法じゃ飛び移れないでしょうけど」
「風魔法か、僕のように便りになる従魔さん達がいれば行けなくはないだろうけどね」
「良かったです。ルカさんに逢えて。ヴァルザ火山の入り口にいた騎士が入れてくれなかった時はどうしようかと………」
シンは地面に座り、その隣にぺたんと体を伏せて休んでいるリトの体を撫でながら呟いた。
「入り口に行ったのか?」
「はい、何度も入れてほしいって頼んだんですが、結局追い返されてしまいました」
「……………入り口の騎士達が不機嫌そうだったのは君のせいか?」
「はい?」
やれやれ、まぁ、僕が行っても止められただろうし、結果は変わらなかっただろうから別にいいけれどね。
その後シンの体調が落ち着ついたので、またそれぞれテト達に跨がる。あちら側までの谷の幅は十メル強。テトとリトなら余裕だろうけど、乗っているシンには、恐怖だろう。
「シン、怖かったら目を瞑ってリトにしがみついていなさい」
「そうします!」
「大丈夫よ。落としたりしないから、しっかり捕まっていなさい」
シンは怖さから青ざめて小さく震えていたので、リトが優しく落ち着かせるように言った。
「じゃあ、テトお願い」
「任せろ」
テトが力強く踏み込んで跳躍し、ヴァルザ火山の側面にある細い道に着地する。
後ろを振り返りリトを見て頷くと、リトが駆け出して跳躍し瑠華達の横に着地する。
「シン、もういいよ」
「はぁ、怖かった…………」
シンはリトにしがみついていた身体を起こし、谷間を見た。直ぐに怖くなって首を振り顔を逸らす。
「さて、行きますか」
「はい」
取り敢えずは火山の火口を目指して歩き出した。
読んで頂いてありがとうございました。
風の谷のオームって何メートルあるんでしょうか。




