↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/98

幕間 成すべきこと

本日二話目です。


時は少し遡りまして、静葉視点になります。


ではどうぞ。

 薄暗かった空に徐々に陽が昇り始め、周囲を暖かく明るく照らしていく。太陽を背にするように座っている私の視界は、光と闇にくっきりと分けられていた。


 まるで今の私の心みたいだ、とそんな風に思い、思わず苦笑が出てしまった。




 瑠華が消えたあの時から、随分と長い時が流れたような感覚だけど、実際には五日程しか経っていない。


 私達を保護してくれたあの人は、この国を治める皇家の人だった。その人に連れられて馬車に乗り、そのまま一緒にここ、皇宮に連れて来られて、広くてきらびやかな謁見の間という場所に案内された。そこで皇帝陛下に逢って色々なことを聞かれて、また私達も問いかけた。


 沢山話をして、改めて理解し分かったことがある。


 本当に此処は私達が住んでいた世界ではない。


 此方の世界では神様を感じられて、お伽噺に出てくるような精霊や妖精が当たり前に存在してて、彼方の世界では漫画や小説の中にしかいなかった、獣の耳と尻尾を持つ獣人族(ひとたち)がいて、誰もが魔法を扱うことが出来る世界。


 彼方の、私達の世界では当たり前のものが存在しない世界。


 常識や価値観すら違うことがある世界。


 そればかりを思い知る五日間だった。




 一番違いを感じ戸惑ったのは、日の数え方。


 この世界では一ヶ月が二十八日、(よう)(いん)にそれぞれ、茶、青、赤、黄、白、黒、緑、藍、橙、紫、黄金、黒銀、白銀の一四日ずつに分けられている。そして月は一四ヶ月あり、地水火風光闇森海焔雷聖月氷無と数える。ということは一年は三九二日あるということ。

 言い方として地の月、陽の茶、と言うらしい。


 凄く混乱する数え方、というのが正直な感想だった。慣れるまで時間がかかりそう。言われてもいつのことなのか、咄嗟には分からない。


 でも彼方の世界に帰るまで、此方の世界で生きていかなくてはならないのだから、慣れるしかない。



 そして次に違和感と共に戸惑ったのは、武器の存在。


 どんなに当たり前なのだと、持っていなくてはいけないものなのだと、頭で解ろうとしても、視界に入れば心と身体が反応してしまう。

 明らかに“怯えている”と分かる反応。


 こちらもまた、慣れるしかない。



 本当に、戸惑うばかりの五日間だった。






 明るい陽射しの中、自分の伸びた影を見つめながら合わせた膝の上に顎を乗せて呟く。


 「逢いたい………」


 願いが音になって響いていく。


 「逢いたいよ………瑠華(るか)………」


 いつも当たり前に傍にあった暖かさが蘇り、視界が歪む。更にきつく抱えた膝に顔を押し付け、声を上げないように唇を噛み締める。



 その時、後ろから綺麗な澄んだ声が聞こえた。


 「そこのあなた、どうかなさいましたの?」


 誰もいないだろうと思っていた場所に聞こえた声に驚き、慌てて振り返る。そこには三人の人物がいた。


 「あなたは……シズハさん?」

 「あっ……レミーディア皇女様?」


 三人の内真ん中に立っていた女性、レミーディア皇女様が可愛らしく小首を傾げて私を見ていた。皇女様から一歩後ろに下がった左右には、彼女を守るように男性が二人立っていた。

 確か私達を保護してくれたグレン様の弟のキース様と、その専属護衛騎士のカミラさん。

 二人は無表情で私を見ていた。


 急いで立ち上がり、頭を下げて挨拶をする。



 「………なにかありましたか?」


 挨拶を返してくれた後の皇女様のその言葉を不思議に思って首を傾げたけれど、自分の頬が冷たいことに気づき、慌てて両手で拭う。


 「す、すみません!これは、えっと………」

 「大丈夫ですよ。わたくしはなにも見ておりませんから」


 優しく静かに笑う皇女様に、少し恥ずかしくなってしまった。きっと私の顔は赤く染まっているだろう。そのまま俯いてしまう。


 「……姉上、そろそろ」

 「ええ、そうですわね」


 そんな声が聞こえて少しだけ顔を上げると、皇女様が胸に抱えている花に気付いた。数本の可愛らしい花がついた小さな花束だけど、どれも綺麗に咲いていて美しかった。

 私の視線に気づいた皇女様が、胸に抱えていた花束を見て小さく笑う。


 「これは、わたくしの大切な方に贈るものなんですの」


 そう言って笑みを深めた皇女様だったけど、その笑みには深い悲しみが見えた気がして、私はそれ以上なにも聞けなかった。


 「では、わたくし達はこれで」

 「あっ、はい」


 小さく頭を下げて、レミーディア皇女様はキース様とカミラさんを伴って去っていった。

 私はその背を見送ってから、自分に与えられた部屋へと向かった。









 「静葉(しずは)!」

 「櫻花(おうか)


 与えられた部屋に向かって廊下を歩いていると、前から櫻花が小走りで近づいてきた。櫻花が大きな声で私の名を呼んだことで声が辺りに響き、廊下に剣や槍を持って佇んでいた兵士さんが一瞬反応したけど、私達の姿を確認すると直ぐに視線を外した。


 「起きたらいないから心配したよ、静葉」

 「ごめんね、櫻花。ちょっと早く目が覚めてしまったから、散歩してたの」

 「………大丈夫か?今日の予定は明日にしてもらおうか?」

 「………ううん、大丈夫だよ」


 体調が悪いわけではなく気持ちが沈んでいるだけだから、心配かけないよう櫻花に笑いかけた。




 今日は城下街に下りて、冒険者ギルドに皆と一緒に行く予定。


 この国、ジルトニア皇国の皇子様のグレン様に保護されて、私達は皇宮に部屋を与えられた。保護ということで最低限のことは保証されているみたいだけど、それ以上はなにも求められていない。そして行動も制限されていない。

 だから私達は、これからどうするのか、どうするべきなのかを皆で話し合った。


 私達の目的は瑠華を探すこと。

 瑠華が何処にいるのかは分からない。だから必然的に世界を旅することになる。

 けれど、それはあまりに危険なことだ、と誰もが理解していた。

 私達が目覚めたあの場所、カーウェン鍾乳洞は精霊が支配している場所だから魔物が弱った、らしい。

 その証拠に、カーウェン鍾乳洞を出てから出会った魔物は、見た目も力も恐ろしかった。私達は全員、騎士達が戦うのを離れた場所から、守られた場所から見ていることしか出来なかった。戦うことなんて許されなかったのもあるけれど、私達自身の身体が動かなかった。

 あんな魔物が当たり前に存在する世界を旅するなんて、考えただけでも震えてくる。


 でも……そんな世界に、瑠華は一人で放り出されてしまった。今、この時にも危ない目に遭っているかもしれない。“死”を感じているかもしれない。


 そう思うと震えてなんかいられない。魔物を恐れてなんかいられない。立ち止まってなんかいられない。



 前に一歩でも進まなくちゃ。



 そう思って、皆で話し合って、皇子様や皇女様に相談して、私達は冒険者ギルドに登録することを決めた。


 冒険者になると、ギルドカードというものが貰えてそれが身分証の代わりになるみたい。しかもギルドカードは世界共通で使える通行証にもなる。

 冒険者が受ける依頼には危険なものもあるけれど、初めは訓練も兼ねて街中で出来るものや街からそれほど離れないで済むものから始めるから、危険は少ないという話。

 魔物との戦い方や武器の扱い方などを、少しづつ学んでいく。

 それでも絶対なんてないから、なにが起こるか分からない世界だから、油断などは決してしてはいけない、と皇子様達に教えられた。


 更に冒険者は、冒険者仲間と情報交換が出来る。

 冒険者にとって情報は大切なものらしく、その土地のこと、環境、魔物の種類、ダンジョンの有無、冒険者ギルドの内情などあらゆることを知っておかなければならない。その情報が、自分の命に繋がるから。

 だから冒険者同士の情報交換がされている。中には真実味のない、噂でしかない話もあるけど、その中に瑠華に関する話があるかもしれない。


 色んな意味で、冒険者は都合が良かった。




 装備に関しては、皇帝陛下の温情で一般冒険者と遜色ない装備が、私達全員に与えられた。

 なにも持たない私達は受け取らせて頂いた。ご恩は必ずお返しする、と誓って。




 今日これから私達は、冒険者ギルドに行って冒険者となる。


 私一人だったら、怖くて布団の中で震えていたかもしれないけど、私には皆がいてくれる。

 逢いたい人がいる。


 だから私は武器を取る。





 私の心からの願いを叶える為に。







読んで頂いてありがとうございました。


これからも時折小話を挟んでいきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。