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小話 整理ってむつかしいね

ヤカサルの村を出発する前夜のちょっとした話です。



ではどうぞ。

 「さて、皆、手伝って」


 シンが寝ている納屋の奥から離れた入り口の扉の手前で、テト、マリア、ムツキ、リトを一列に並べて瑠華は真向かいで仁王立ちで言い放つ。

 その言葉の返事は、呆れたようなため息、不思議そうな視線とそれぞれの言葉だった。


 「全く、(あるじ)は本当に突然だな」

 「なにを手伝うの?」

 「主は相変わらずなのね」

 「きゅう?」

 「うん。個性が分かる返事と視線をありがとう」


 ふふふ、と瑠華は心底楽しそうに笑っている。それを見ながら、一番冷めた視線を送るテトが続きを促す。


 「で、なにを手伝えばいいのだ?」

 「うん。これを」


 瑠華はアイテムボックスから大きな袋を五つ取り出し、地面にどさどさっと置いた。その袋を見た従魔達の視線の温度が、数度下がった、気がした。


 「ふむ、やることは分かった。だが、敢えて聞こう。これはなんだ?」

 「やだなぁ、分かっているなら聞かないでよぉ」

 「分かってても聞かなければならないのよ。いいから、言いなさい」

 「色々な物が入った袋だよ」

 「分かっとるわぁ‼そんなこと‼」


 瑠華の答えに、とうとうテトが怒りを表した。その場で跳躍し、少し離れて立っていた瑠華の顔面目掛けて尻尾を振る。瑠華はしゃがんで避けて、そのままの体勢で話を続ける。


 「この前、レンデルの村でアイテムボックスの中身を調べた時に気づいてね?一人だとめんど………大変だから、皆に手伝ってもらおうと思ってたんだ」


 えへ、と悪びれもなく小首を傾げて笑う瑠華を見て、従魔達は四頭ともため息を吐いた。


 「本当に………どうして主は………」

 「駄目よ、テト。主の“これ”は誰がなにを言っても治らなかったんだもの。きっとこの病気は治らないのよ」

 「主の“これ”は不治の病よね」

 「きゅ!」


 可愛い従魔達のそんな会話は、さらっとスルーする。だって仕方ないじゃない?


 「面倒くさいんだもの」

 「……心の声が漏れているぞ」

 「おぉっと」

 「ふぅ……まぁ、いいわ。早く終わらせてしまいましょう」


 そう言って、リトが袋の縛りを前足で器用に解いていく。瑠華も他の袋の結びを解き広げる。五つの袋の中身が全て見えるようになった。


 「大体、いつのものだ?これは」

 「多分、邪神との決戦の少し前だと思う」




 この袋はなんなのか?


 答えは、戦利品である。


 【カイン】は本当によく襲われた。特に盗賊や奴隷狩りに。一人で旅をしていた時も、旅の仲間が出来ても、《紫紺の太陽》として活動をしていても、勇者一行と旅をしていても。

 いつもいつも【カイン】は襲われていた。


 本当に呪われているんじゃないかってくらいに。


 襲われる度に返り討ちにし、その者達が持っていた物を失敬していた。

 この行為は決して咎められることはない。盗賊や奴隷狩りが所有していた物は全て、捕縛或いは討伐した者に所有権が発生するからだ。元の所有者より優先される。もし元の所有者が返却を申し出た場合は、話し合いで解決するしかない。そういう時は、大体冒険者ギルドが仲介する。

 【カイン】は捕まっている者や奴隷は解放したり、そのまま旅の仲間にしたりしていたが、物資に関しては適当に袋に突っ込み、そのままアイテムボックスに入れてしまう。そしてそれを忘れるのだ。意図的に(何故かは聞かないで)。

 だから時折アイテムボックスの中身を確認した時などに思い出し、仲間を巻き込んで一気に整理する、ということになる。


 ひとえに【カイン】の病的なまでの面倒くさがりが原因である。



 そして今回の戦利品の袋は、先程も言ったように邪神との決戦の少し前のもので。勇者と仲間と共に襲われた時のものだろう。後で分けようと袋に詰めて、綺麗に記憶から消えたのだ。

 でもこればかりは自分だけの責任ではない、と瑠華は主張したい。

 何故なら、勇者を初め他の仲間も忘れたのだから。



 まぁ、その襲われた直ぐ後に邪神がいる地が判明し、世界規模で慌ただしくなったのだから、忘れてしまっても仕方がないことだと思うけれど。




 結びを解いた五つの袋の中身を全員で分けていく。


 「ふむ、流石に食材などはないか」

 「僕だってそれぐらいは分けるよ」

 「一人旅の時は分けていなかったであろう?」

 「僕は、過去は振り返らない主義だ」


 言った瞬間に、テトが投げた鉱石の塊が飛んできたので、空中で掴み脇に置く。


 「全く、なんでもかんでも同じ袋に入れるのだから。せめて装備品と魔物の死体は分けましょうよ」

 「これ、剣がそのまま刺さってる……」

 「あは、面白いね。なにかの飾りみたいだ」


 へらっと笑ったら、リトが投げた小刀が飛んできたので、空中で人指し指と中指で挟んで掴み、他の武器と一緒の場所に置く。


 「あっ、見て、主!」

 「へぇ、また随分と貴重な物が出てきたね」


 マリアが瑠華に見えるように掲げた“それ”は、確かに世間一般的に珍しい部類に入るものだった。


 それは魔法袋であった。


 以前にも説明した通り、一言に魔法袋といっても、袋に刻まれている術式によって入る容量は異なる。

 マリアが見つけた魔法袋を見れば、彼方の世界でいうなら学校の体育館くらいの容量だろうか。普通に買ったら金貨五十枚はするだろう。かなり貴重で高級品である。


 なんでそんな貴重品を盗賊が持っていたのかは大体察しがつく。だって“盗賊”なのだから。


 ちなみに瑠華が持つアイテムボックスの容量は、瑠華も知らない。恐らくアイテムボックスを使っていた歴代のフィンランディ家の者達も、知らないのではないだろうか?

 今現在でもかなりの量が入っているのに、まだまだ余裕なのだから無尽蔵なのかもしれない。


 なにはともあれ、良い発見だと言えるだろう。


 「魔法袋か。丁度いい、シンに持たせよう。万が一の時の為に」

 「そうね。ダンジョンではなにがあるか分からないものね」


 マリアから受け取った魔法袋に、瑠華はアイテムボックスから出した回復薬と魔石、魔法石、お金、ついでに今分けたもので必要そうなものもギリギリまで詰める。

 更についでにと、シンに着せる服をアイテムボックスの中に入っている装備品を思い出しながら選び、魔法袋と一緒に置いた。


 「よし。これでいいだろう」

 「ふむ、結果的に良かったな」


 一人と四頭でやれば、五つもあった袋の中身は綺麗に分類された。それを使える物を一つずつアイテムボックスに入れ、使えない、いらない物は袋に詰めて一つにしてアイテムボックスに入れる。後で雑貨屋にでも売ろう(忘れなかったら)。


 「ふぅ、皆、ありがとう。助かったよ」

 「よいか?これからは溜めるなよ?直ぐに処理するんだぞ?」

 「善処するよ」

 「それは「やらない」のと同意語ね」


 またもや、四頭の従魔達はため息を吐いた。


 それを見て、瑠華は楽しそうに笑っていた。






読んで頂いてありがとうございました。

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