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33 ヤカサルの村 その五

 納屋から出て、取り敢えずクルシャードを探すことにする。

 薬を渡すなら彼だろうな、と当たりを付ける。恐らくここの騎士団の責任者は彼だと思われる。先程の無礼な騎士が、団長、と呼んでいたので間違いないだろう。



 騎士団の者が多くいた入り口付近を目指す。村は相変わらず騒がしく落ち着きがない。

 騎士や村人達が忙しなく走り回る道を歩きながら、クルシャードを探して周りを見回す。

 すると左の方に見える礼拝堂のような建物から出てくるのが見えた。扉が開いた時隙間から中が見えたが、やはりここも怪我人が所狭しと寝かされていた。


 村の入り口の方に向かおうとする彼を呼び止める。


 「ノルディさん」

 「ん?」


 クルシャードと、彼に付き従っていた二人の騎士が振り向いた。


 「おや、君は先程の冒険者か」

 「唐突に失礼ですが、治療が間に合っていないようですね?」

 「うむ………」


 クルシャードは厳しい顔で礼拝堂を仰ぎ見る。


 「突然襲撃されたこともあって怪我人が多くてな。我が騎士団の者だけではなく、村人にも死傷者は多い。ファイアーレックスの希少種(レアタイプ)も逃がしてしまうし、最悪な状況だ」

 「成る程。ところで話があるのですが、少しこちらによろしいですか?取引がしたいのです」

 「取引?」


 人目が少ない辺りを視線で示しながら言えば、クルシャードは訝しげに見てきた。だが話の流れで内容が気になるのか、了承するように頷く。ただ警戒はしているようだ。


 クルシャードのみを伴い、礼拝堂の裏手になる木陰に行き、話を始める。


 「僕は薬と治療の魔法石を持っていますので、騎士団にお譲りします。対価はファイアーレックスの希少種(レアタイプ)の素材で構いません」

 「……薬と治療の魔法石は有り難いが、ファイアーレックスの希少種(レアタイプ)はまだ討伐できていないし、何処にいるかも定かではない」

 「それなら僕が持っています。ここに来る道中に拾いました」

 「拾った?どこに……………もしや魔法袋か?」


 クルシャードは視線をさ迷わせてから、瑠華を見た。


 「そうです。経緯はどうあれ、僕が拾ったものなので権利を主張できますが、後でめんどくせ……………ケホン、騎士団と揉めたくはないので対価として頂きます。まさか報告しないわけにはいきませんから」

 「………そうか、報告してくれて助かる。だが確実に討伐したという証明の為に、牙を一つくれないか?」

 「そうですね、分かりました」


 瑠華は腰のカバンから出したように見せる為(ちょっと無理があるが気にする)、カバンに手を入れてアイテムボックスからフレアレックスの死体を取り出す。


 「ああ、確かにファイアーレックスの希少種(レアタイプ)だ。ん?この傷は?」


 あっ、余計なことに気付くんじゃない!


 誰もが見て気付くだろう、胸から首にかけて凍っている〔細雪〕の斬り傷に気付かれ、クルシャードを睨み付けそうになってしまったが、チラリと視線を向けられたので人畜無害な笑顔を浮かべる(フードで見えないと思うけれど)。

 クルシャードは暫くじっと見つめていたが、一つ息を吐くとフレアレックスの口から牙を折ってその手に納めた。



 わぁお、バカ力!


 「確認した、もういいぞ。ではこれは薬の対価として君に譲ろう。報告、感謝する。これで後は異常種(アンノウンタイプ)のみということか」

 「ありがとうございます」


 フレアレックスの死体を、腰のカバンに入れるふりをしてアイテムボックスに入れる。

 そしてアイテムボックスから、フレアレックスの素材を売った時の金額を計算し、それと相応の薬と治療の魔法石を取り出す。



 別大陸に、一年を通して冬のような寒さの地域がある。当然そこに住む魔物は水と氷属性ばかりだ。

 その地域に焔属性のフレアレックスの素材を持ちいれば、高値で取引される。

 フレアレックスの素材を武器に加工すれば、焔或いは火属性の付いた武器を作ることができる。

 丸一頭あるから金貨五十枚くらいはいくだろう。といっても二年以上前の売却値だから、今は違うかもしれないけれど。

 これ以上高かったらすみません、と瑠華は心で謝っておく。


 クルシャードも渡された薬と治療の魔法石を確認して、異論が無さそうなのでよしとしよう。異論が無いというか、不思議そうな顔で目を二度瞬かせてから一つ頷いた。

 なんというか、深く考えようとせずに自分を納得させたような雰囲気である。


 「では僕はこれで」

 「………ああ、本当にありがとう」


 クルシャードが深く頭を下げたので、瑠華も会釈で返しておいた。







 クルシャードと別れ納屋に戻って扉を開ける。奥ではシンが横になり、その傍らにリトが丸くなっていた。

 テトが瑠華の影から出てきて、広げてあった布の上で寝そべる。そのテトの体の上にマリアとムツキが移動して寝そべった。


 癒しのもふもふ空間に、抱きつきたい衝動にかられるが我慢する。騒いだらシンが起きてしまうだろう。


 「お帰りなさい」

 「ただいま、リト。シンは寝たみたいだね」

 「ええ、ずっと気を張っていたみたいだから。食事をして直ぐに寝たわ」


 シンを見れば、嫌な夢でも見ているのか顔をしかめ少し苦しそうだ。


 「……それで主、説明はしてくれるのかしら?」

 「ああ、そうだったね」


 瑠華はリトにこれまでの経緯を説明する。


 「………成る程。異世界召喚、ね。また厄介なことが起こりそうな感じっていうか、もう起こっているのね」

 「そうなんだよ、イヤんなっちゃう。でも僕は此方の世界に帰ってこれたことだけは純粋に嬉しいよ」

 「そうね、私もまた主に逢えて嬉しいわ」


 心からの笑顔を浮かべ、リトをゆっくり撫でる。


 それからまだ日が落ちるまで時間があったので、瑠華は軽く、マリアとムツキはお腹一杯に食事をしてから、剣以外の装備を外して納屋の裏手にあった広めの場所で鍛練をした。


 集中しすぎていたらしく暗くなっていることにすら気付かず、日が沈んで大分経ってから、テトに飛び蹴りを食らって気付いた。


 危ないな‼思わず斬りかかったらどうすんのさ‼






 その場で服を脱いで行水し(誰も来なかったよ)、寝間着の簡素な服を着て納屋の中に戻る。

 アイテムボックスからカンテラの魔道具を取り出し、光の魔石を中の台に置く。納屋の中が仄かな明かりに照らし出される。

 シンは余程疲れていたらしく、あれから目覚めていないらしい。


 皆で食事をしてから、アイテムボックスから厚手の布団を三枚取り出し、二枚を敷く。一枚は掛け布団。

 シンが夜中に目を覚ましてもいいように、シンの頭の上に眩しくないようにカンテラを置き、その横に冷めても食べられる食事を出して布をかけておく。


 リトはシンの身体の横に丸くなり、マリアとムツキが布団に入りテトは瑠華の身体に添うように寝そべる。瑠華は眼鏡を外してから、夜の祈りを捧げて横になり目を瞑った。





 翌朝日が昇り始めの薄暗い中、瑠華は目を覚ます。

 皆に小さくおはようを言い、上半身を起こして朝の祈りを捧げる。シンを見るとまだ寝ていたが、夜中に起きた気配がして食事もしていたようなので、今日出発しても問題無さそうである。顔色も大分よくなっている。


 眼鏡をかけてから納屋を出て、昨日と同じ場所で鍛練をする。

 

 一通り終え、その場で服を脱いで(ちゃんと誰も来ないか確認したよ)、水の魔石を使って顔を洗って汗を拭いて、いつもの服と装備を身に着ける。

 昨日と今日の鍛練で着ていた服に、『清潔(クリーン)』をかけてアイテムボックスにしまう。


 納屋に入ると、シンが目を覚ましていた。


 「おはようございます」

 「おはよう、昨日より顔色は良いね」

 「はい、体調も気分も大丈夫です。薬、本当にありがとうございました。今日からよろしくお願いいたします」


 そう言って、シンは座ったまま深くお辞儀をした。

 瑠華はシンに歩み寄って、横に着替えと簡単な食事を出した。


 「うん、よろしくね。それと、服はこれに着替えてね」

 「えっと、これって魔道具じゃ………」

 「深くは追求しない方が、君の為だよ?」


 と瑠華がにっこり笑顔で言えば、シンは若干頬を引きつらせて視線を逸らした。

 特にそれを気にせず、瑠華も離れた位置に腰掛け、皆で食事をした。





 全員の準備が整い、納屋を出る。

 テトは瑠華の影に入りマリアとムツキは定位置に、リトはシンの影に入れるようにマリアに魔法をかけてもらい入ってもらった。


 日が昇り、村の中には村人や騎士がちらほら動き始めているのが見える。そこかしこに寝かされていた怪我人は、昨日より遥かに減っている。どうやら渡した薬や治療の魔法石が早速役に立ったようだ。なにはともあれ、これでここは大丈夫だろう。

 村の様子を観察しつつ入り口に向かうと、右側に控える騎士が話しかけてきた。


 「外に行くのか?希少種(レアタイプ)はもういないらしいが、まだ異常種(アンノウンタイプ)がいる筈だ。気をつけろよ」

 「ありがとうございます」


 忠告してくれた騎士に礼を言い、シンを伴って村を出る。入り口から見えない位置まで来ると、テトとリトが影から出てきた。


 「シン、約束はちゃんと覚えているね?」

 「はい、分かってます」


 しっかりした答えに頷き、瑠華はテトに、シンはリトに跨がり、ヴァルザ火山の右側に広がる林を目指して駆け出した。




 その前に、面倒くささ満載な感じのヒカエルの生息域があるけどね!






読んで頂いてありがとうございました。

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