27 一つの出逢い
ヤカサルの村を素通りし、ヴァルザ火山の入り口を目指す。
途中直径一シメルに渡り焼け野原になっている場所があった。他にも焦げた跡が所々に見える。村の目と鼻の先だったから、恐らくあそこがフレアレックスとの戦闘の場所だろう。
遠くからだが、村の方にもいくつか煙があがってるのが見えた。夜明け前なら村人も騎士も見張り以外は寝ていたはずだから、騎士団だけではなく、村人にも被害が出ていそうである。
村を通り過ぎて少し駆けて行くと、ヴァルザ火山の入り口が見えてくる。近くには寄らずに少し遠くでテトから降りる。火山にぽっかりと開いている入り口にいるであろう騎士から、こちらが見えない位置に隠れてそっと覗き見てみる。
入り口にはトシュッゲル王国の鎧に身を包んだ騎士が四人。武器は剣が二人、槍が二人ずついるようだ。その騎士達の様子がなんというかピリピリといった、苛立っている空気を醸し出している。
「………入れてくれそうな雰囲気ではないねぇ」
「そうだな。あの様子ではな。けれどどのちみち禁止令が出ているのだから、無理であろう。どうやって入るつもりだ?」
「あの騎士達をボコって……………冗談だよ。前足振り上げないで」
テトがもふっとした前足を静かに上げたので、急いで否定しておく。上げられた前足は、そっと握って握手をしておいた。
相変わらず癒しのもふさ加減だ。
「そんなことするわけないじゃない。面倒事にしかならないのは目に見えているのに」
「それもそうだな。主は面倒が嫌いなのだから」
そこで納得するんだねぇ………。
「ヴァルザ火山の右に広がる森に、一ヶ所だけ飛び移れる場所があったはず。そこから行く」
「分かった」
確か森には、ヴァルザ火山に飛び移れる場所がある。ただし十メルくらい離れているので、常人には無理であろうけれど、僕なら問題はない。
ただそこに行くまでに大回りに迂回しなければならないし、森の手前には問題になっていると推察されるヒカエルの生息域が広がっていて、そこを突っ切るしか道はない。
かなり面倒くさいが仕方ないだろう。
どうせもう旗は立っているのだから。
騎士に見つからないようにその場をそっと離れて、再びテトに跨がり草原を駆ける。このままヴァルザ火山に入ってもいいけれど、取り敢えず今日は入らずにざっと見ておこう、と、遠回りしてヤカサルの村に行こうと思い、テトにお願いした。
そしてヴァルザ火山の入り口からいくらも離れていない場所に来た時、瑠華は一つの気配を感じた。
「テト」
「ああ、主も気付いたか?」
「人の気配がするね」
別に普通の時ならおかしなことではないが、今は魔物が強くなっているし、瑠華が倒したけれど希少種が、まだいるかもしれない異常種が発見されるような地域だ。冒険者かもしれないけれど気配は一つだけ。無謀すぎるだろう。
瑠華は自分の事は棚の上に丸投げして、その気配について考える。
方向的に人の気配がする方へと向かっていくと、ファイアーファングが五体、こちらに背を向けていた。その向こうに一三、四歳くらいの少年が見えた。
「子供?」
少年は右手に鉄剣を握りファイアーファングと対峙しているが、左肩に噛まれたのか酷い傷があり、力なく下がった左腕を伝って地面に赤い染みを作っていた。
少年の目には、強い意思があり生きようとする思いが見えるけれど、どうみても劣勢で勝てる見込みはほぼない。
無謀にもこんなところに一人で来たのだから、自業自得な気がするけれど見てしまったのなら仕方ない。
通り道にいるし排除しておこう、と瑠華はアイテムボックスからミスリルの長剣を取り出し、右手に握る。
「テト」
テトの名を呼べば心得てるように一つ頷き、ファイアーファングに向かって力強く鳴きこちらに注意を向けさせる。
ファイアーファングはテトに気付いて振り向き、威嚇するように各々が唸り声を上げる。
少年はこちらを見て、安堵したのか集中が途切れたのか、崩れるようにその場で倒れ気を失った。
「ふぅ、やれやれ………テト、左二体任せた」
「うむ」
瑠華はテトから降りて、右の三体を視界に入れる。ファイアーファングならミスリルの長剣で十分だ。
初めに飛び出してきた一頭は抜刀の勢いで首を切断し、後ろにいた二頭もそのままの勢いで同様に首を切断する。
呆気ない終わりに肩を竦める。ファイアーファングの死体をアイテムボックスに入れてからテトを見ると、あちらも既に終わっていてお座りしていた。テトに近づき頭を撫でて、こちらの死体も入れておく。
辺りを見回して、他の魔物の気配がしないか確認したが、どうやら近くにはいないようだ。
そうしてから瑠華は、少年に近づき様子を見る為仰向けにする。
少年は苦しそうに荒い息をしていた。怪我をしている左肩の部分の服を破り傷を診れば、かなり深く噛みつかれたようで牙の後がくっきりと残っていた。よく食いちぎられなかったもんだ、と瑠華は感心した。
アイテムボックスから上級傷回復薬を取り出し左肩の傷口にかければ、十秒程で傷は塞がり綺麗な肌になった。
この世界の回復薬には傷、体力、魔力、状態といった種類がある。それぞれその名の通りの効果がある。
これ以外にも存在するけれど、主要はこの四つ。
傷回復薬‥‥傷を治す。包丁の切り傷から裂傷、噛み傷に魔物の爪による傷などを癒せる。この薬は体内なら飲んで、外傷ならかけて使う。
ただし傷が腐っている、壊死していると治せない。
体力回復薬‥‥体力を回復する。ただし直ぐにではなく徐々にである。回復する速度は薬の質により変化する。
魔力回復薬‥‥魔力を回復する。ただし直ぐにではなく徐々にである。回復する速度は薬の質により変化する。
状態回復薬‥‥状態異常を治す。ただし精神系は治せない。腐っている、壊死しかけている状態も治せる。完全な壊死は治せない。
回復薬には下級(銅貨一枚以下)、中級(銅貨一枚から五枚前後)、上級(金貨一枚以上)、最上級(金貨三十枚以上)とある。
大体の傷は中級の回復薬で癒せる。一言に中級と言っても、質により回復の効果は変わる為、ピンからキリまである。上級に近い効果をもつものは銀貨数枚することもある。銅貨五枚というのは、最低額である。
上級は冒険者で言うならBランク以上、最上級を持っているのは冒険者で言うなら世間に名を馳せる一流か、貴族や王族くらいだ。
上級の市場価格が跳ね上がるのは、上級になると珍しい薬草を使用するからである。
街の中で普通に暮らしている分には下級回復薬があれば十分で、一般家庭にも常備されている。
閑話休題。
この少年の傷はかなり抉られていたので、上級傷回復薬を使った。
瑠華のアイテムボックスには、ありとあらゆる大量の薬が入っている。何故ならスキルの『調合』を極めようと、アホみたいに自重などしないで作っていたからだ。
素材は店で買ったりもしていたが、ほとんど自分で調達していたのでお金はそれほどかかっていない。同時に依頼をこなせば一石二鳥にもなる。
流石に最上級の回復薬は、素材が希少であまり揃わなかったこともあり数はそれほどないが、それでも今あるものを売れば小さい国なら潤うんじゃないかなってくらいのお金にはなるだろう。
そのおかけでスキル『調合』は極められたので良しとしよう。
回復薬の効力で少年の呼吸は大分落ち着いたが、顔色は血の気を失って青白い。
傷は塞がっても失った体力と血はそのままだからだ。体力は体力回復薬、血は増血剤(一応あります)でいいとして、気を失っているから起きてから飲ませた方がいい。
だけど少年はちょっと直ぐには起きそうにはない。
あわよくば、このままヒカエルの生息域に入ってちょっぴり様子でも見ようと思っていたけれど、今どうなってるのか未知数だから、このままの少年を連れていくわけにもいかない。
捨てておきたい思いにかられるが、そんなことはしない。しちゃいけない気がするのでしないのだ。
仕方ない。もうこのままヤカサルの村に行こう。
村には入るのも出るのも面倒な事になりそうな予感がするけれど、本当に仕方ないから諦めよう。
「テト」
「断る」
「…………まだなにも言っていないんだけど?」
瑠華が少年を診てる間、横でじっとお座りをしていたテトの名を呼んだら断られてしまう。
少年を背中に乗せてほしかったんだけれど。まぁ、断られるのは予想してたからいいんですけどね。
「言わなくても分かる。だから断る」
「そんなに嫌?」
「我は主以外、背に乗せない」
その断固たる想いが伝わる言葉に、思わず苦笑いが零れる。
その言葉も想いも以前から全く変わらない。嬉しい気持ちが込み上げるが、今のような状況では少し悩みの種となる。
「はぁ、分かったよ。僕が背負っていくから魔物は任せたよ?テト」
「うむ、任せろ」
少年を背負うと潰れてしまいそうになるので、フードの中にいたマリアとムツキには出てもらい、テトの背に移ってもらった。
そんなに速く走らないから振り落とされないだろう。
少年を落とさないようしっかり背負い、テトの先導で村へと駆け出した。
読んで頂いてありがとうございました。




