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28 ヤカサルの村 その一

 少年を背負ったまま走り続けていると、遠くに村を囲む木でできた塀が見えてきた。こちらは右横になるはずだから、左に迂回すれば入り口に行ける。


 少し速度を落として駆け足になる。ここまで来れば大丈夫だろう、とテトに声をかけ影に入ってもらう。一応周りに魔物の気配がないか確認してもらってからだ。

 ムツキは少年の頭が乗っていない方の肩へ、マリアは服の中に滑り込んできた。素肌と服の間に、だ。


 やめて‼くすっぐったいなんてもんじゃないから‼


 服に前足と頭を乗せているので落ちる心配はないだろうけれど、口元がくすっぐったさにふるふる震える。笑い出さないように必死だった。





 村の入り口には騎士が寝泊まりするためのものだろう、テントが沢山建っていたが、半分以上が焼かれたり崩れたりしていた。大きくない村だから、騎士が全員は村の中で寝泊まりできる場所を確保出来なかったんだろう。だから村の外にテントを張ったんだろうが、フレアレックスに襲われてこの有り様だ。

 村の入り口に行く前に、マリアとムツキに〔従魔の首飾り〕をアイテムボックスから取り出して渡す。しっかり首に掛けたのを確認してから入り口に近づいていくと、騎士が気付き腰に差してした剣を抜いて瑠華に切っ先を向ける。



 襲われたばかりで警戒しているのは分かるけれど、いきなり剣を向けられてちょっとイラっとしてしまった。

 いけないいけない。


 「な、何者だ‼」

 「只の冒険者です。怪我人(治ってるけど)がいるので村の中に入りたいのですが?」

 「ぼ、冒険者か………………ふぅ、そうか。大変だったな。今村は大変な状態でどこも騒がしいと思うが、ゆっくり休んでくれ」

 「ありがとうございます」


 騎士が肩に乗っているムツキをチラリと見るが、〔従魔の首飾り〕をしているのでなにも言わなかった。騎士に礼を言い村の中に入った。



 確かに村は騒がしかった。村人や騎士が動き回っている。

 入り口付近には地面に布が敷かれ、その上に傷ついた騎士が横たわっていた。そのほとんどがろくな治療もされていない様子で、苦しそうに呻いていた。

 その光景が村の奥まで続いている。



 この状態では宿屋にも怪我人が溢れてそうだな。無駄になるかもしれないが、一応行ってみよう。


 「……………おい………」


 騎士団が常駐するくらいだから、物資はちゃんとあるはず。


 「……おい」


 それが行き届いていない?予想以上に怪我人が多かったってことかな?


 「おい」


 でも騎士団なら、回復魔法を扱える魔法使いをそれなりの数揃えているはずなのに……………。


 「おい‼」

 「ぁ゛あ゛?」

 「ひぃ‼」


 先程から後ろでなにやら声が聞こえていたが、僕ではない、と思ったのでシカトしていた。

 それが気に入らなかったのか、後ろの声が一際大きく響き、恐らく騎士だと思われる人物の鎧の手甲つきの手が右腕に触れ、振り向かせようと手に力が入ったのでその時点でキレた。


 後ろを振り返り、僕キレちゃってます!、と伝わるようにピンポイントでその人物だけに殺気と威圧を込めた目を向ける。


 「うるっせぇんだよ、さっきから。おいじゃ誰呼んでんだか分からねぇだろうが。名前で呼べよ。名前が分からない、そもそも初対面の相手だったらそれ相応の礼儀ってもんがあんだろうが。この能無し。

 それになに自分の方に振り向かせようとしてんだよ。腕とられてバランス崩して少年落としたらどう責任とってくれんだよ、つーか僕に触れるんじゃねぇよ、この下劣。

 てめえも国に支える騎士なら、それぐらいのこと言われなくても最初からやれよ、この頭空っぽの唐変木が」


 声を荒げずあくまで淡々と。

 声に感情は乗せず、視線にのみ殺気と威圧を込めて相手を見つめる。

 相手の騎士は端から見て可哀想になるくらい青ざめ、全身を震わせていた。瞳は恐怖で染まっていて、まともに息継ぎできていなかった。



 あらら、本性が出ちゃったよ。

 いつも被っている特大の化け猫が剥がれ落ちて、足下で寛いでいる幻覚が見えるんだけど。

 最近我慢ばっかりしていたからなぁ。もうちょっと穏やかに言うつもりだったのに、頭で考えていたのと全然違うことが口から出てしまった。取り敢えず面倒事になる前に(もう遅い気もするけれど)、殺気と威圧は消しておこう。



 殺気と威圧を消すと、騎士は息を吹き返したように荒い息をして後ずさる。もうこの場を去りたくて仕方なかったが、それはそれで更に面倒なことになりそうなので、騎士が落ち着くのを待ってあげた。


 「き、きさまは」

 「僕は只の冒険者です」

 「……な、何故この村に?」

 「……………………てめえは馬鹿か?」


 あら?


 「そこでなにをしている?」


 落ち着かせたはずの口調が出てしまったことに、首を傾げて特大の化け猫を被り直す。


 おいしょっと。


 「だ、団長…………」

 「ん?」


 横から現れた人物にこの時になって気付いたが、なんとなく黙ったまま目の前の騎士を見ていた。



 それよりいい加減に少年をどこかに寝かせたい。疲れた。精神的に。なんで男(子供だけど)をいつまでも背負っていなくちゃいけないんだ?

 これがもふっとした癒される存在なら、喜んで背負っているけれど。


 「ここでなにをしているのか聞いている」

 「そ、それはこいつが………」

 「その人が騎士にあるまじき行為をしたので、抗議をしただけです」


 何故か現れた人物にも怯えた騎士が、なにか面倒そうなことを言いそうだったので、瑠華は怯えた騎士の言葉を遮り言葉を挟む。怯えた騎士が驚愕の表情で瑠華を見た。

 嘘ではない、事実だ。ちょっと言葉がアレだっただけで。


 ここで漸く現れた人物に視線を向ける。



 あれ?この男―――



 「……………クルシャード・ノルディ?」

 「おや?私を知っているのですか?」


 ああ、やっぱり。


 クルシャード・ノルディ。

 彼には一度だけ逢ったことがある。二年前の邪神との決戦の時に。


 シェシカルの街の図書館で調べたことだけど、邪神との決戦は今では“オールドディレイの邪神戦争”と呼ばれているらしい。

 これはオールドディレイの地で行われたからそう呼ばれている。過去三度の邪神戦争の名も、それぞれ決戦が行われた地とともに伝えられている。


 決戦の時、勇者一行を邪神との闘いに向かわせる為、世界中から騎士や冒険者が集まった。

 勿論ここトシュッゲル王国からも騎士達が参加した。トシュッゲル王国の騎士達は三部隊にわかれており彼、クルシャード・ノルディは第二騎士団の騎士団長を務めていた男だ。

 勇者と共に一度だけ顔を合わせたことがある。


 出会ったのはその時だけで挨拶程度だけだったけれど。彼のように印象深い騎士は覚えている。


 そうか、生き残っていたのか。


 「二年前の邪神戦争に参加していましたよね?」

 「ああ、もしや君も?」

 「ええ」


 邪神戦争には多くの冒険者も参加していた。言っても大丈夫だろう。


 「そうか。お互い生きていることに感謝しないとな。勇者様と英雄様に」


 いや、そこは勇者だけでいいと思うよ?


 当たり前だけど、僕の真実は世には広まっていない。勇者一行の中で唯一死んだ者としてだけではなく、邪神に穢された大地などの自然を浄化し癒した者として、何故か凄い美化されて色々な本に書かれていた。なんというか、いたたまれなくなって本を閉じた。


 僕があの最期の時に放った魔術は、それまでの旅の間に準備していた魔術陣と共鳴し、世界を覆うように光の雨を降らせた。

 そうなるように仕掛けた魔術陣だったからそうなるのは当たり前なだけれど、まさかそのせいであんな風に捉えられるとは思ってもみなかった。

 誰もが思い描く“心が美しく綺麗な聖人”そのもののような……………うっ……吐き気が………。

 兎も角、誰だお前、ってな感じに本に書かれていた。

 ちょっぴり死んでて良かったな、と思ってしまった。



 本の内容からも感じたけれど、ほとんどの者が勇者と英雄を一対に思っているようで、勇者と共に英雄にも同じ敬意を払っているらしい。

 まぁ、それは邪神を倒す前、旅をしていた時からだったけれど。そもそもの話、(自分で言うと笑えてくるが)僕は有名だったからね。


 「ところで背中の子は大丈夫かい?」

 「ああ、そうでした。何処か休ませる所はありませんか?」

 「私には分からないな。あの家に村長がいるはずだから訪ねるといい」


 クルシャードは、村の一番奥にある周りと比べて少し大きい家を示す。


 「分かりました。訪ねてみます。ありがとうございました」

 「いや、こちらこそ我が騎士団の者が失礼をした」


 そう言って頭を下げたクルシャードに、もう一度礼を言い教わった家を目指して歩き出す。



 やっと休めそう……。


 

 


 

読んで頂いてありがとうございました。

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