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26 稀少種

 瑠華が人を掻き分けて進みギルドの前まで来ると、ざわめきが一際大きくなった。


 ギルドの扉は開け放たれ、中からは大きな声、というか怒鳴り声が飛び交っているのが聞こえる。

 瑠華は扉の(はし)からそっと中を覗き見る。(はた)から見たらかなり怪しい人物だが、どうせ誰も気にしないだろう。それほど街はバタバタしていた。


 ギルドの中には冒険者達とギルド職員の制服を着た人達、そして甲冑に身を包んだ騎士達が、険しい顔で話をしていた。



 漏れ聞こえる会話を整理すると、

 ・夜明け前にヤカサルの村が希少種(レアタイプ)に襲われた。

 ・希少種(レアタイプ)はヤカサルの村に駐屯していた騎士団と交戦し、討伐こそ出来なかったが追い返したこと。

 ・希少種(レアタイプ)との交戦で騎士団の3分の2程の死傷者が出たこと。

 ・その為、ヤカサルの村から援軍要請があったこと。

 ・ヤカサルの村に騎士団とギルド所属の冒険者が援軍として行き、それに伴い街への人の出入りを制限し、残った冒険者に警備についてもらうこと。




 こんなところか。

 それにしても困ったな。人の出入りを制限するってことは、下手したら街から出られなくなるかもしれないってことだ。

 直ぐに街を出ようと思うが、その前に丁度前を通りすぎていった、昨日話をした受付嬢がいたので呼び止める。そういえば名前を聞いていない。


 「すみません!」

 「は、はい‼」


 周りが煩いので瑠華が若干強めに呼んだら、飛び上がらんばかりに驚かれてしまった。


 「えっと、失礼?」

 「あっ、貴方は昨日の?」


 良かった。覚えててくれたみたい。

 フードを目深に被ったローブ男なんて、そうそういないせいだろうけれど。


 「希少種(レアタイプ)が現れたって聞いたんですが?」

 「はい、そのせいでギルドも対応に追われていまして…………」

 「すみませんが希少種(レアタイプ)、ついでに異常種(アンノウンタイプ)について分かってることだけでいいので、情報を教えて頂けますか?」

 「え?あ、はい。ヤカサルの村を襲ったのは、ファイアーレックスの希少種(レアタイプ)だそうです。体長は三メル以上あり、水魔法耐性を持っているみたいです。

 異常種(アンノウンタイプ)はレッドビーの進化体で体長は五十セル程、蝙蝠種(バットタイプ)のような羽が生えており、スキル「火体」を持っているらしいです」


 うわぁ、聞いただけで面倒くさくなっちゃった。スルーしたいなぁ…………駄目かな?…………きっと無理なんだろうなぁ。


 だって(フラグ)の幻覚が見えちゃってるんだもの。


 「あの、それでなにかご用でしょうか?」

 「ああ、そうでした。通常の依頼の手続きは、一時停止ということになりますか?」

 「はい」

 「なら通常の依頼の完了手続きについても、魔物の売却の受け取りも、後日でいいってことですよね?」


 受付嬢がしっかり頷くのを確認して、口元に笑みを浮かべる。


 「そうですか、引き止めてすみません。ありがとうございました」


 瑠華は小さく頭を下げて礼を言い、扉から離れて急いで門へと向かう。通りにも人が溢れて騒いでいるので、大分難儀したが。



 蹴散らしてやりたい。



 人の多さに辟易して物騒な考えが過るが、瑠華は気持ちを抑えて突き進む。途中何度も他人の足を踏んでしまったが、ご愛敬(あいきょう)ということで許してもらおう。


 門には、騎士が張り付いていたって言ったら失礼になるが、瑠華の気持ち的にはそう見えた。

 厳しい顔で周囲を警戒し目を光らせていた。



 まぁ、希少種(レアタイプ)が来るかもしれないってことだから?不安恐怖緊張といろいろあるのは分かるんだけれど…………あそこに行くの嫌になるから、睨み付けるように通行人を見るの止めてくれないかな?



 はぁ、とため息を吐き、瑠華は門の左右に立つ騎士達の中で、比較的話しやすそうな人物に声をかける。


 「失礼、街を出たいのですがいいですか?」

 「今、街の外に出るのは危険です。ファイアーレックスの希少種(レアタイプ)が、この街の近くにいるかもしれないのです」

 「ご忠告は有り難いのですが、どうしても街を出たいのです」

 「………………分かりました。十分に気を付けて下さい」


 ふぅ……話を聞いてくれる人で助かった。




 瑠華は門から出て、ヤカサルの村の方角に軽く走りながら向かった。門から離れて、騎士の目が届かなくなった辺りでテトを影から呼ぶ。影から出てきたテトが、何故かじと目で瑠華を見ていた。

 瑠華は小首を傾げてテトを見つめ返す。


 「………忘れるなよ?」

 「大丈夫だよ」

 「……面倒くさがるなよ?」


 そっと視線を遠くへと逸らす。


 「はぁ……今回はギルド側の決定だから仕方ない。もう一度戻ってくることになるが、絶対面倒くさがるなよ?」


 瑠華はにっこり笑顔で答える。テトは冷めた一瞥を送り、背中を向ける。瑠華はテトの背に跨がりながら、周囲を見回す。


 「風に流れて血の匂いが漂っているね」

 「本当にこちらに向かってるのかもしれないな」


 サピセスの街からヤカサルの村まで馬車で一日。テトならちょっと本気で走れば二、三時間で着く距離。

 でもファイアーレックスは愚鈍で足が遅い。夜明け前に村を襲って傷付いた体で走ったならば、まだ半日以上の距離があるはず。

 このまま進めば必ず出会う。


 瑠華は右手をテトの首に添わしながら、左手に一振りの剣をアイテムボックスから取り出す。



 銘を〔細雪〕という。

 普通の鉄剣と氷の精霊石、そして“万年雪の雫”という貴重の中の貴重、超貴重な素材を使って打たれた精霊剣。

 柄と鞘は水色で、刀身は“万年雪の雫”の効果で白銀に光っており、絶対零度の凍気(とうき)を放っている。

 刀身は素手で触れると、触れた箇所が凍ってしまう。身体は勿論、少しかすった服なども容赦なく凍らせてしまう、ちょっぴり扱いに困っちゃう剣でもある。鞘にしまってあれば触れることはできる。

 だから魔物、特に火属性の魔物には絶対的に強い。

 ただし氷耐性を持つ敵には効果は薄い。元が普通の鉄剣なので剣自体の攻撃力は低く、氷の効果が薄いと心許ない上に、本当に貴重な“万年雪の雫”を使っているので勿体無いどころではない。

 硬い魔物とかにも勘弁だ。

 本当はミスリルあたりと合わせたかったが、何故か拒絶反応が起きるので、仕方なく普通の鉄剣になった。


 鍛冶を頼んだ、元旅の仲間のドワーフと泣く泣くだ。


 そういうことで使う場面を選ぶ剣だが、火属性のファイアーレックスなら効果は絶大だと思われる。ステータスを解析してみないと絶対とは言えないけれど、傷ついた相手なのだから大丈夫だろう。






 血の匂いを探り進んでいくと、前方にファイアーレックスによく似た姿をした魔物が見えた。

 その姿は満身創痍に近く、街を襲いに行くというより、騎士団から逃げてきたと言った方が正しい気がする。

 魔物の姿が見えたので、スキル「完全解析」を使う。



 フレアレックス 

 レベル58 竜種(ドラゴンタイプ) 属性 焔 ファイアーレックスの希少種(レアタイプ)

 HP E(赤) MP D(青)

 スキル 焔のブレス 体当たり 尻尾殴打

 魔法 焔魔法下級


 状態 瀕死



 HPがEの赤。もうギリギリというところだろう。状態が“瀕死”になっているくらいなのだから、放っておいても死にそうである。

 懸念していた氷耐性は持っていない。



 それにしても、スキルの「尻尾殴打」ってだっさい名前だね。





 瑠華は左手に〔細雪〕を握りしめて、走っているテトに一声かけてから飛び降りる。

 体勢を低くし、居合い斬りの構えをして踏み込み、フレアレックスとのすれ違い様に抜刀する。

 胸から首を深く斬り上げ、致命傷を負わせる。



 流石、下級でも竜種(ドラゴンタイプ)。体を真っ二つにする気で斬ったのに、出来なかった。

 剣を折りたくない一心だったから、力を抜きすぎてしまったみたい。



 フレアレックスの体は斬られた部分が凍りつき、キラキラと光っている。重い音をたてて倒れ、その場でもがいていたが直ぐに動かなくなる。

 瑠華は剣を鞘にしまい、アイテムボックスに入れて一息吐く。フードの中に隠れていたマリアとムツキが顔を出して、甘えるように顔を擦り付けてきたので、ゆっくり撫でながら笑みを溢す。


 「随分簡単だったな」


 少し遠くに離れていたテトが近づきながら言った。


 「ヤカサルの村にいる騎士団が頑張ったんでしょ。あのまま放っといても死んでいたよ、きっと」


 フレアレックスの遺体をアイテムボックスに入れておく。後でヤカサルの村にいる騎士団に報告しなければいけないだろう。

 一つ息を吐き、ヤカサルの村の方向を見つめる。


 「テト、ヴァルザ火山の入り口に行って」

 「ヤカサルの村には行かないのか?」

 「ヴァルザ火山の入り口を確認しときたい。ギルドの受付嬢がヴァルザ火山に人が入らないよう、騎士が見張っていると言っていたから、別の場所から入らなくちゃいけないかもしれない。

 ヤカサルの村には特に用はないから、寄らなくてもいいと想うし」

 「成る程」


 テトは納得したように頷き、背中を向ける。

 瑠華が背中に跨がると、テトはヴァルザ火山に向けて駆け出した。






 

読んで頂いてありがとうございました。

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