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23 サピセスの街 その三

 商店街の方角に足を進めていくと、直ぐに客引きの声が聞こえてきた。


 「あっ、そこのフード被ったローブの人!宿が決まってないならうちにしない?」


 12、3歳の薄い茶色の髪を後ろで一本に縛った女の子が、元気に声をかけてきた。

 彼女の後ろには二階建ての品の良さそうな宿屋があった。瑠華は彼女に近づき聞いてみる。


 「お風呂ってついてる?」

 「お風呂?共同風呂でいいならあるよ」


 共同かぁ。まぁ、お風呂があるならいいか。彼方の世界の者として、やっぱりお風呂はなくちゃダメだよね。


 「じゃあ、一泊いいかな?」

 「ありがとうございます!宿の中にどうぞ!」


 彼女の後について宿屋に入る。宿屋の中も清潔に保たれていて綺麗だった。この宿は当たりかもしれない。

 彼女は、食堂でテーブルを拭いている女性に大きな声で話しかける。


 「お母さーん!金づる連れてきたー‼」


 金づる⁉前言撤回‼なんてこと言うのっ⁉


 「アーシャ!お客様になんてこと言うの⁉」

 「えー、だって本当のことじゃん!」


 良かった。母親の方はまともそうだ。

 娘の方が普通だったら、即行で出ようと思ったよ。


 「申し訳ありません、お客様。娘にはきちんと言い聞かせますので。お泊まりは何日でしょうか?」

 「………一泊でお願いします」

 「はい、銀貨一枚になります。お食事はいかがいたしますか?別途料金は頂きますが」

 「では夕食だけ」

 「はい、鉄貨五枚になります」


 (アイテムボックス)から鉄貨と銀貨をそれぞれ取り出し、母親へと手渡す。


 「はい、確かに」

 「また少し出てきますので」

 「分かりました。お戻りになりましたら部屋の鍵をお渡ししますね」


 笑顔で頭を下げた母親に一つ頷いて扉から出ようとした時、後ろから母子の会話が聞こえてきた。


 「お客様の前であんなこと言ってはダメよ?」

 「だって本当のことでしょう?」

 「本当のことだからダメなのよ。陰で言いなさい」


 ちょっとお母さん⁉聞こえてますよ⁉





 母子の会話に脱力しながら通りに出て門を目指す。

 その途中、ふと視界に入った雑貨屋の店先に、【カイン】の時に使っていた、腰に付けるタイプのカバンと似たデザインの物が目に入る。

 黒に近い焦げ茶の四角い変わったデザインのもので、見た目は薄いが容量はそれなりに入りそう。カバンの前側に留め具が二本長く垂れているのもなんだか良い。動く度にチャラチャラいうのが良い。

 銀貨三枚だし、買ってしまおう!


 雑貨屋の中にいた店主にお金を支払い、ローブの下の腰に着ける。これでアイテムボックスを誤魔化せるだろう。このようなカバンを使った魔法袋も存在する。

 今更な気がするけど、アイテムボックスは隠した方がいいと思うから誤魔化す為のものを持っておきたい。本当に今更な気がするけれど。



 衝動買いだったけれど、良い買い物が出来て少し浮かれながら瑠華は門まで歩く。少し混雑している門に辿り着き、兵士にギルドカードを見せて街を出る。

 門から少し離れたところでテトが影から出てくるが、テトは瑠華の顔をじっと見つめていた。その目は面白そうに、愉快そうに細まっていた。


 「なに?」

 「いや、あの母子がなかなか愉快な人間だったからな」

 「ああ、確かにあそこまでキッパリ言われれば逆に清々しいよね。接客業としてはどうかと思うけれど」


 テトはおかしそうに体を震わす。フードの中で丸まっていたマリアとムツキは、フードから出て肩にお座りして澄んだ空気を吸っていた。

 そんな従魔達を順番に一撫でし、気持ちを切り替える。


 「テト、魔物の様子が見たい。近くでいいからいたら教えて」

 「分かった………ふむ、あちらの方に気配を感じるな。それなりに強い気配が、あちらこちらに存在している」


 テトが示したのは、やはりヴァルザ火山の方角だった。

 テトに跨がり、魔物の気配へとゆっくりと草原を駆けていく。少し遠くで他の冒険者が魔物と戦闘している様子が見えたが、危うげなく見えたので放っておく。




 冒険者ギルドには、冒険者に課せられる規律(ルール)がある。

 その中の一つは、戦闘について。

 基本的に、冒険者が戦闘している時は手を出さないのが規律(ルール)になり、冒険者ギルドに登録する際に説明される。当たり前のことだと笑うかもしれないが、その当たり前が分からない、出来ないという者達がいる。

 既に戦っている冒険者と魔物の間に勝手に割り込み、魔物を倒す。その行為を非難されれば、「危なそうだから助けた」と宣う。そして倒したのだから、と魔物の素材を横取りしてしまう。

 こういったようなことが過去に何度もあり、そのような行為をする冒険者が問題になって、その度にギルドが対処していたそうだ。その為、登録時に態々懇切丁寧にしつこいくらいに言及、もとい説明しているというのに、年に何度かギルドに報告され問題になっているらしい。

 ギルド側としてもとても頭の痛い話だ、とジルトニア皇国の皇都にある冒険者ギルドのギルマスがよく愚痴っていた。


 他の冒険者の戦闘には手を出さないのが規律(ルール)だが、「助けを求められたら助けなければならない」というのも規律(ルール)としてある。

 ただしこの規律(ルール)、絶対に守らなければならないといわれると実はそうではない。

 だったらなんでそんな規律(ルール)があるんだ、という声も上がるけれど、ギルド側としても冒険者に強制出来ないからだ。

 冒険者ギルドとしては、同じ冒険者なのだから協力して助け合ってほしい、という気持ちがある。

 魔物と戦うことは命懸けのことだから、助け合えば死ぬ確率は減るだろう、と。

 だが冒険者から見れば、そんなことは決してないのである。確かに助け合えば死ぬ確率は減るだろう。けれどそれは、僅かな一面でしかない。

 悲しき哉、人というのは本質的に自分本意であるからだ。それは咄嗟の時、それも自分の命がかかった場合、それは顕著に顕れる。

 それを、人の性、という者もいるだろう。

 だがこれもまた、人が持つ一面でしかない。

 何故なら、世界には自分の命を(なげう)ってでも誰かの命を守る者も、確かに存在しているのだから。


 それは兎も角として、冒険者は自らの身体と武器がなによりも大事だ。それがなくては冒険者などやっていられない。

 もし規律(ルール)を守り助けに入って、身体や武器が損傷などしたら誰が責任を取るのか、誰が弁償してくれるのか、と言われてしまったら、ギルド側は強制なんてできはしない。できるはずがない。


 故に規律(ルール)があっても、実際にこの規律(ルール)を守っている者は少ない。

 助けを求められて助けることを選ぶ冒険者は、実力があり、様々なものに余裕がある者くらいだろう。

 不条理かもしれないが、常に死と隣り合わせのこの世界では仕方がないのかもしれない。


 ちなみに【カイン】は助けを求められたら状況次第では助けるが、報酬や素材など貰うものはキッチリ貰っていた。

 無償で、などということをやっても良いことなど皆無であることを知っているからだ。


 ついでに冒険者同士の戦闘に関してだが、基本的に当人同士の問題であり、ギルドであろうと第三者の介入は認められていない。

 だだし、当事者に求められた場合、ギルドが仲介役をすることもある。そしてもう一つ、冒険者同士の問題がギルド内で行われた場合も、ギルド側は介入出来る。

 シェシカルの街で、瑠華が冒険者ギルドで起こした騒動については、本来はギルド側の者、ギルドマスターが仲裁に入ってくるものだっただろう。場所はギルド内だったのだし、更に二回も問題を起こしたのだから。けれど当のギルマスの判断で、ことなきを得たということである。

 他にも状況や場所によって色々あるけれど、基本的には当人同士の問題である。


 閑話休題。



 魔物と戦っている冒険者達から視線を外し、遠くに悠然と聳えるヴァルザ火山を見てから、その少し手前に位置するヤカサルの村を思い浮かべる。


 その時テトに呼ばれて視線を前方に向ければ、魔物がこちらに向かってくるのが見えた。


 「テト、止まって」


 テトが止まり魔物が近づくのを見据えながら、瑠華は「完全解析」のスキルを使う。



 ファイアーファング

 レベル13 狼種(ウルフタイプ) 属性 火

 HP E(緑)  MP E(青)

 スキル 遠吠え 噛み付き 爪術

 魔法 火魔法下級



 ファイアーファングはこの辺一帯で見かける一般的な魔物だ。ファイアーファングの他にも、この辺りはヴァルザ火山の影響で火属性の魔物が多く、使う魔法も火属性ばかり。

 その為トシュッゲル王国の冒険者には水と海、或いは氷の魔法を扱う者が大半だ。

 水海氷の魔石や魔法石も需要が高い。


 サピセスの街の周りに広がる、草原の魔物の基本レベルは10。レベル13くらいなら普通だ。

 スキルの「遠吠え」は仲間を呼ぶもの。「噛み付き」と「爪術」はその攻撃の威力を増すもの。

 MPがEの青だから2、3回しかスキルも魔法も使えないだろう。



 テトから降りて目の前に迫るファイアーファング三体を見つめたまま、腰に差していたミスリルの長剣を右手で無造作に抜き放つ。両足に“気”を巡らせて力を入れ、跳躍して一歩でファイアーファングに迫り、すれ違いざまに三体全ての首をはねる。


 斬られた首から血が吹き出し、ファイアーファングの体が倒れる。アイテムボックスから地の魔石を取り出して地面に穴を開け、ファイアーファングの体の血抜きをしてから穴を塞いでおく。

 ファイアーファングは焼いて塩を振って食べると美味しいので、体はアイテムボックスにしまっておく。

 側でじっとお座りして待っていたテトに、瑠華は視線を向けて尋ねる。


 「テト、まだ近くに魔物はいる?」

 「ああ、ちらほらと」

 「ふんむ、夕方の鐘まで時間あるし狩っとくか」


 再びテトに跨がり、魔物がいる方に向かってもらう。魔物がどれ程ダンジョンの影響を受けているのかも、調べる為にも狩っておこう。







読んで頂いてありがとうございました。

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