22 サピセスの街 その二
受付嬢からの返答に、瑠華は一つ目の目的地を再認識した。
更に詳しい情報を得ようと、続けざまに問いかける。
「立ち入り禁止というのは全てのランクに対しての発令なんですね?例外なく?」
「はい。領主様からは、調査が終わるまで冒険者は誰も入れるな、と」
調査、ねぇ。
「なにがあったのかくらいは教えてもらえますか?」
「はい、それくらいなら。一年程前から、ヴァルザ火山からサピセスの街の周辺の魔物に変化が表れました。最初は魔物の数が増え始めて、次に希少種と異常種が発見されました。これらのことを鑑み、近くにダンジョンが出来たのではないかと推測され、領主様が半年前からこの辺り一帯の調査を始めたのです。一番著しい変化が見られ、魔物の推奨レベルが上がってしまったヴァルザ火山は立ち入り禁止になりました」
ふんむ、ダンジョンが出来た時の典型的な変化だな。さて、どうすべきだろうか。
このトシュッゲル王国には、ダンジョンは存在しない。
元々“地大陸”にダンジョンは少なく、シェンドゥーラとルッシャートに一つずつあるだけだ。
ダンジョンが存在すると、商人や冒険者が集まる。人が集まれば経済の動きが活発になり、活発化が続けば様々な部分が豊かになり国が潤う。だからダンジョンが出現したのなら、国としては喜ばしいことである。
本来なら。
しかし、今回は場所が悪い。ヴァルザ火山は推奨ランクがB以上、それは魔物が強力だということ。
これが簡単に人が出入りできるような場所なら、魔物を間引いてダンジョンの成長を止められ、周りへの影響も抑えられる。
だが何度も言うが、本当に場所が悪い。
トシュッゲル王国には悪いとは思うが、今回は破壊の方が濃厚となるだろう。
そして先程の説明に出てきた希少種と異常種。
希少種とは、種の中で環境などの影響を受けて、普通は成長しても持ち得ない要素や素質を持つ魔物のことだ。
分かりやすいところで言うと、ゴブリンが知能がなく種族として素質がない筈の魔法を扱う、など。
異常種とは、種の中で決してあり得ない進化を遂げた魔物のことだ。
例えば兎種が、熊種の姿と能力を持った魔物に進化した、など。
ちなみにこの魔物は、【カイン】の時実際に見た魔物で姿はグロかった、とだけ言っておこう。
そして名前が“ラビットグリズリー”という、お前ふざけてんのか、と怒鳴ってやりたくなった魔物だ。
しかもその魔物の鳴き声が「ぴょーん」だったんだよ……………勿論、全力で蹴りを入れてやったよ?
希少種も異常種も普通に成長、進化した魔物より強く、下手したら種として最弱の弱さを誇るゴブリンでさえ、ランクSSの強さを持つこともある。
故に希少種と異常種を見かけたら、先ず逃げろ、生きて帰って情報を伝えろ、というのが冒険者の常識になる。
討伐するにはしっかり準備し、十数人で油断なく挑まなければならない魔物ということだ。
ダンジョンが出現すると、その影響で希少種と異常種の魔物の出現もまた、顕著になる。
「発見された希少種と異常種は討伐されたんですか?」
「希少種は二体発見されたのですが、一体は騎士団と冒険者が協力して討伐しました。もう一体は一度発見された後、目撃情報がありません。異常種は一体発見され、騎士団と冒険者の約二十人で討伐に行きましたが、二人が生きて戻りましたが、他の方達は全滅してしまい、討伐も出来なかったそうです」
受付嬢が痛ましそうに目を閉じる。
発見されて討伐されていない希少種と異常種が一体ずつ。
「発見された場所とかは分かりますか?」
「ヴァルザ火山付近だと聞いております」
成る程。その二種に遭遇する率は高そうかな。
それにしても二十人で行って討伐出来なかったとは、余程強い進化を遂げたということか。
その二十人がどれ程のレベルなのかは知らないけれど、討伐隊に選ばれるぐらいなのだから、実力はあるのだろうし。
「領主がしているという調査は、どれくらいで終わるとか分かりますか?」
「今は調査はしておりません」
ん?
「予想より騎士団の被害が酷く、今現在調査は中断されております。冒険者などが入らないよう、ヴァルザ火山の入り口には見張りは立っているらしいのですが」
へぇ、今がチャンスということか。
「ヤカサルの村は今、どんな状況か知っていますか?」
「ヤカサルの村は騎士団が常駐し、警備を固めています」
うわぁ……なんか面倒くさそうな予感。ヤカサルの村には寄らなくてもいいかな。
「……………もしやヴァルザ火山に行かれるのですか?」
内心でちょっとうんざりしていたら、受付嬢が眉根を寄せて瑠華に尋ねた。これだけ情報を欲しがれば、疑問に思われても仕方ないだろう。
その問いに瑠華は、口元に笑みを作り答える。
「いいえ、行きませんよ。だいたい僕はまだランクGですから、入る資格すらもっていません」
「……………………は?」
じゃあ、なんで聞いたの?という怪訝な顔をされたが、そこは綺麗にスルーしておく。
取り敢えず、欲しい情報は得られたので、瑠華は小さく頭を下げた。
「ありがとうございました。依頼ボードを見てきます」
受付嬢の痛い視線を背中に感じつつ、依頼ボードから五つの依頼を剥がし、受付嬢にギルドカードと共に渡す。
すると依頼書を見た受付嬢は小さく驚き、困惑気に瑠華を見つめた。
「あの、こちらのランクXの依頼は………」
「大丈夫です。達成出来ますから」
「……理解して受けて頂けるなら、ぜひお願いしたいのですが」
瑠華がしっかりと断言しても、受付嬢はまだ困惑を隠せない。
まぁ、本来ならランクGに受けさせていい依頼ではないからね。というか僕も、まさか本当に受けられるとは思わなかったよ。
「………はい、手続き終了致しました。現在街周辺の魔物のレベルが上がっていますのでくれぐれも、くれぐれも!気をつけて下さい」
……………なんで二度言ったの?ランクGだから?野次馬根性丸出しに見えるから?
「……………ありがとうございます」
「それとこちらのランクXの依頼についてですが、もう一度言います。受けて頂いたのなら、内容も危険度も十分分かっているとは思いますが、本当に気を付けて下さいね?」
受付嬢が更に念を押してきた。いや、この依頼内容なら仕方ないとは思うけれど。
「本来ならランクGの方に受理される依頼ではないのですが………本当に困っているんです。本当に!気をつけて下さいね‼」
僕としては都合がいいけれど、ギルド側としては苦渋の選択っぽい………というのは分かるけど、しつこいよ?
受付嬢の鬼気迫るような念押しに、もう一度頷いてからもう一つの目的について質問した。
「ところで魔物の売却をしたいのですが?」
「それでしたら右奥のカウンターにどうぞ」
右奥のカウンターに向かうと、大人しそうな男性がカウンターで書類を書いていた。
「すみません、魔物の売却をお願いします」
「はい、こちらにどうぞ」
「量が多いのですが」
「では、裏の倉庫の方でお願いします」
男性についていくと、普段から魔物の解体に使っている倉庫のようで、色々なものが混じった臭いがする。正直に言うと、キツい。
瑠華の左右の肩に顔を乗せて微睡んでいたマリアとムツキが、フードの奥に引っ込み丸くなってしまった。
人より嗅覚が鋭い魔物と幻獣には、かなり堪えるらしい。
さっさと終わらせてあげよう。
「こちらの台の上に置いてください」
男性が示した、巨大な魚の解体ショーが出来るくらい大きな木の台に、アイテムボックスに溜まりに溜まった魔物の死体をこれでもかと出していく。
ランクE~Gの魔物に限ってだから、売却値もポイントもそれなりばかりだ。先程受けた依頼の魔物は勿論出さないし、更にこの辺りに生息しているか、世界中何処にでもいるような魔物しか出していない。
一気にランクが上がるのは楽でいいけれど、別の面倒が起こることがあるから。
程々にしたので大丈夫だろう。多分。
ランクがAやSなんかの魔物の素材もアイテムボックスに沢山入っているから早く売っぱらいたいけど、当分は眠っていてもらおう。
「……お、多いですね」
「ええ、お願いできますか?素材は全てギルドに売却で構いませんので」
「分かりました。しかし量が多いので時間がかかります。明日また来て頂けますか?」
「それでは明日、またこの時間に来ます」
男性に軽く挨拶し倉庫からギルド内に戻り、正面の扉から通りに出る。
人が居なかったから当たり前だけど、絡まれなかったな。基本的に冒険者ギルドには、何時だって冒険者がいるんだよねぇ。先程のように、冒険者がいないなんてことは滅多にない。
それ故に、いつも絡まれる。
冒険者が少ないであろう時間を狙っても、絡まれる。
嫌な事実だなぁ………。
まぁ、いいか。
まだ夕方の鐘には時間があるから、と瑠華は宿屋を見つけてからちょっと街の外を見に行こうと思い立つ。
ここまでの道中はテトに乗っていたから魔物なんてほぼ素通り状態だったし、テトから降りて歩いていても会わなかったから、魔物がどれ程なのか確認してみる必要がある。
先ずは宿を探しに、と瑠華は商店街の方へと歩を進めた。
読んで頂いてありがとうございました。




