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10 気づいてしまった虚しい事実

 オリウェンヒス霊山から一番近くの街まで、馬車で三日程かかる。少しズレるけれど間に小さな村があるが、そこまで行くのにも一日はかかる。


 取り敢えずその村まで全速力で走ろう、と瑠華は決めた。野宿をしてもいいのだが、いい加減身体的にも精神的にも疲れてきていた。


 なにせ召喚されてから、カーウェン鍾乳洞とオリウェンヒス霊山、二つの場所を歩き回っているのだ。

 その間戦闘はほとんどしなかったが、疲れるものは疲れる。しかも胸糞悪い思いもしているのだから余計だ。


 本当にいい加減に、屋根のある家でベッドでゆっくり休みたい。


 空を見れば(あかね)色に染まり始めたばかり。まだ確認はしていないが、セラフィミリムが【カイン】としてのステータスにしてくれたなら、村までは五時間もかからずに着けるだろう。



 なりふり構ってなんかいられない。

 僕は休みたいんだ。



 足を集中的にして身体全体に“気”を巡らせ、身体強化する。足に力を乗せて踏み込み、一気に加速する。

 木々の合間を走り、枝から枝に飛び崖を飛び越える。回り道などしない、文字通り一直線に駆け抜ける。

 村までの道程(みちのり)にある森にも草原にも魔物が蔓延(はびこ)っているが無視する。

 ムシムシム―――――シ‼






 「はぁ…はぁ…はぁぁぁぁふぅぅぅぅ」


 全力疾走のせいで激しく鳴る心臓を落ち着かせる為に、大きく深呼吸をする。左手の薬指で眼鏡を上げつつ、息を整えながら前方を見る。

 辺りはすっかり暗くなり、月と星の光りが降り注ぐ殺風景な草原が広がっている。夜の(とばり)の中、周りに意識を集中すればそこかしこに魔物の気配を感じる。


 夜は彼等の支配する時。

 人が長居してはいけない。




 遠くにうっすらと人の営みの光が見える。既に門は閉じられ見張りが目を凝らしている時だろう。

 そんな時に、夜の闇に溶け込むような黒一色のローブで顔を隠した者が現れれば、要らぬ騒ぎを招いてしまうことは分かりきっている………いるのだが。


 「怪しさ満点の格好をしている自覚は、あるんだよねぇ」


 昼でも、黒一色のローブでフードを目深に被っていれば、人目を引くことは置いておく。


 「ここに突っ立っていても仕方ない。行くか!」


 足早に歩いて門に近づく。瑠華の目には既に、門の内側にある見張り台に大人二人が立っているのが見えるが、あちらはまだ気づいていない。


 「声でもかけてみるか?」


 口には出してみたものの、そんなことをすれば騒ぎが大きくなりそうなのでやめておく。すると(ようや)く見張りの片方が瑠華(こちら)に気づいたようで慌てている。


 「気づいてもらって良かった」


 このまま村まで進んでいく。

 門まで後五百メル程近づいたところで、門が少しだけ開き中から男が二人出てきた。鎧など身に付けておらず、一目で村人だと分かる簡素な服。彼方の世界では見ることのなかったその出で立ちを見て、瑠華は懐かしさに少し感動して目を細めた。その手にはそれぞれ使い古された剣と槍が握られている。


 「そこで止まれ!」


 言われた通りにその場で止まる。片方の男が警戒心を(あらわ)に近づいてきた。村人にしては屈強な男だ。この村の警備のリーダーのような感じだろうか。


 「この村になんの用だ?」

 「僕は只の旅人です。この先のシェシカルの街に行こうとしています。この村には宿を求めて立ち寄ったまで」



 この村、レンデルには宿はない。それは知っていたが、最後に訪れたのは四年前くらいだから、その間に出来たかもしれないし、こんな怪しさ満点ローブ男が、村の宿屋の有無を知っていたら警戒心を煽るかも?と思ったので一応聞いておく。


 「この村に宿屋はない。旅人や冒険者は空き家か村長の家に泊まるのが常だ」

 「成る程。ではそうさせていただけませんか?もう夜も遅いし、疲れていて早く休みたいので」

 「………………」


 男は警戒しているが、村に入れるか迷っているらしい。まぁ、当然の反応ではある。


 「………いいだろう、ただし妙な真似をすれば即刻捕らえる。分かったな?」

 「ええ、勿論」


 “殺す”って言わないあたりがこの村だな。それともこの男の性格だろうか?



 男についてこいと言われ、村の中に入る。門から近い空き家に案内された。


 「この家を使ってくれ。村長には俺から言っておくが、あんたも明日起きたら挨拶に言ってくれよ」

 「ああ、分かった。案内をありがとう」


 お礼を言ったら奇妙な顔をされた。こんな些細なことで礼など言わないのだろう、普通の冒険者は。というか、この国の冒険者と言うべきか。


 男が去り、家の中に入ろうとドアを開けた瞬間に顔をしかめる。(おもむろ)に瑠華はアイテムボックスから風の魔石を取り出し地面に叩きつける。魔石から風が生まれ、家の中に溜まっていた埃を窓を開け放ち外に追い出した。


 その間止めていた息を吐き出す。埃が凄すぎてとてもではないが家に入れなかった。空き家なら仕方ないとは思うが、もう少しマシな家にしてほしかった、と思うのは我が儘だろうか。


 眼鏡を上げつつ、ため息を吐いて家に入る。部屋は二つしかなく、台所兼居間と寝室のみ。寝室のベッドには、触るのも恐ろしい薄汚れた布が乱雑に置いてあった。


 「……………あり得ないほど汚いんですけど」


 瑠華はその布をぺいっと剥いで部屋の隅に置き、アイテムボックスから清潔な大きな布を四枚、毛布を一枚出す。大きな布を三枚敷き布一枚と毛布を掛け布団にする。

 贅沢だ。


 アイテムボックス様々である。


 ローブ、制服を脱ぎ眼鏡を外す。制服は彼方の世界で生まれ育った確かなる証だ。もう彼方の世界には帰ることは出来ないから、大切にしたい。

 瑠華は制服を丁寧に畳み、アイテムボックスにしまう。そして寝間着代わりにもう一度ローブを羽織る。

 この日はそのままベッドに入り、既に身体にしみついた習慣である夜の祈りを捧げてから横になる。


 「おやすみ………」







 翌日、日も大分高くなってから目が覚めた。窓の隙間から日が射し込んでいる。恐らく後一、二時間もすればお昼頃だろう。


 先ずはゆっくりと朝の祈りを捧げてからアイテムボックスから水の魔石、木のタライ、軽い食事を取り出す。顔を洗ってから、昨日外して枕元に置いておいた眼鏡をかける。

 次いではむはむと食事をする。


 「う~ん…………ふっっつーにアイテムボックス使っているけど、中身の確認しないとなぁ…………後ステータスもか………でもその前に、村長の所に挨拶に行かないとなぁ…………あー、面倒い」


 寝起きの頭のままで思ったことを口に出す。


 「静葉達は大丈夫だろうか…………突然消えたかたちになってしまったから心配してるだろうなぁ………でもセラが大丈夫って言っていたから大丈夫なんだよなぁ………カーウェン鍾乳洞なら皇都から近いし、ジルトニアの騎士団に発見されたなら、陛下が保護してくれるだろうし。うん、皆のことは安心できるねぇ………アカやマナもいるだろうしなぁ…………………………はっ⁉」


 ここまでつらつらと頭をふらふらさせながら呟いていたら、唐突に気づいてしまった。昨日からの自分の行動を顧みて、ある事実に思い当たり頭を抱えて項垂れる。




 「………なんてことだ……僕……気づいちゃったよ…………」















 「……………僕って独り言多くねぇ⁉」


 気づいてしまった虚しい事実に、ちょっぴり悲しくなる英雄様でした。





読んで頂いてありがとうございました。

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