第5章 秘密の洞窟
次の日、日が高く登ってから、海賊たちは目を覚ました。この日は風が強く吹き、空は曇っていた。マルコは危険は冒さず、森の中から慎重に海賊たちの行動を観察した。
「さあ、酒を持ってこい」
大男が消えた焚火の前に寝ころんだままで、小デブに命令した。
「へい、ワインなら、いくらでもありやすよ」
そう言うと、岩場の小舟のほうへ歩いていった。
「お前は洞窟を確認してこい」
今度は細身の男に命令した。
「え? またですかい? 誰もいねえってのに、大丈夫ですよ」
「うるせえ! 毎日確認することになってんだ、馬鹿野郎!」
「俺らの他に、誰が盗みに来るってんですかい?」
そう言うと、細身の男は、森の中に通じる獣道をかき分けながら消えていった。そしてそこに一人残った大男は、焦げた肉の残りをかじった。
(洞窟?)
マルコは考えた。彼らはこんな離れ小島で何をしているのか。
(そこに宝を隠しているんじゃないか? 奴らはその見張り役・・・)
そしてこっそりと、森に入っていった男の後を追うことにした。
細身の男は森をすばやく移動した。マルコもその後を走って追いかけたが、物音を聞かれるとまずい。幸いこの日、森は風の音に包まれており、藪が体に擦れる音でさえ掻き消してくれている。そして細身の海賊は周りの様子など全く気にせず、どんどん進んでいった。しかし十五分ほど進んだところで、マルコはその男を見失ってしまった。
(どこに行ってしまったんだ?)
マルコは耳を澄ました。しかしその男の足取りを確認することはできない。
(こっちに気づいて、隠れているのか?)
マルコは慎重にその場に待機し、様子を伺いながら暫く待った。
「はぁ~!」
遠くで男の声が聞こえた。その方向を確認すると、あの細身の男が立ち上がる所だった。
(あんなところで何をしてたんだ?)
そしてその男は、もと来た浜辺のほうに、小走りで戻っていった。
マルコはそれを見送って、姿が見えなくなってから、その男が立ち上がった場所に近づいた。すると辺りは岩が散乱する少し開けた空間になっていた。そこをマルコは椰子の殻の草履で歩いていったが、あまりに足場が悪く、岩を上り下りするのが困難だった。
(こんなところに洞窟なんてなさそうだ。あの海賊、大男の指示を無視して、ここでサボってたのかな)
そう考えて浜辺に戻ることにした。
焚火の近くに戻ると、そこは何やら騒がしかった。マルコは木の陰から覗き込むと、風に揺れる炎のそばに、奴隷の男が一人、捕まってロープにつながれていた。
「やはりコソドロがおったのか」
そう言う大男を、奴隷は怯えた表情で見上げている。
「兄貴、こいつ、アッシらの船の食料を盗んでやがったんでさぁ」
小デブが奴隷の頭を太い薪でぶん殴った。奴隷は左手で頭を押さえてうずくまりながら、右手を前に出して、次の一撃を防御しようとしていた。
「俺様の食い物を盗むとは、大した度胸じゃねえか!」
「こいつ、どうしますかい?」
細身の海賊が訊くと、
「始末するに決まってんだろが」
そう言うと大男は薪割り用の斧を握り、その奴隷の頭へ、彼の腕越しに叩きつけて殺してしまった。
(あぁ、なんてことを)
マルコは見るに堪えなかった。何度も仲間が殺される場面を見てきたが、人が人を殺すなど、マルコはどうしても容認することはできなかった。しかし今は身を潜めて、この島から脱出するチャンスを待つしかない。小デブと細身の海賊が、なんの躊躇もなくその奴隷の死体を、森に捨てに行くのを、ただ見ているしかなかった。
夕暮れが近づくと、小デブが料理を始めた。鍋に食料をぶち込んで、ただ火にかけているだけである。大男はすでにワインを飲み始め、今晩も酒盛りを始めるようだ。
「コソドロが居ちゃ安心できねえ。洞窟は問題なかったんだろうな」
大男がふと、細身に訊いた。
「え、え、ええ。そりゃぁ大丈夫でやすよ」
大男は黙って、細身の男に顔を近づけて、じっと相手の顔を見た。
★パチン!
突然大男は、細身の男の顔を平手打ちした。
「お前、洞窟を見てこなかったな!」
「嫌でやすよ。兄貴ぃ。ちゃんと確認してきやしたよ」
「信用できねえ!」
「おい、またサボってたんじゃないかぁ?」
小デブも怒った表情で言った。
「いいや、俺っちはただ、洞窟を覗いて、誰もいないのを確認してきたって」
「嘘じゃねぇだろうな。もしお宝に何かあったら、ぶっ殺してやる」
(やっぱり洞窟に宝が隠されているのか)
ついにマルコは海賊たちの秘密を知ってしまった。
大男は、立ち上がった。
「ええ? 今から洞窟に行くんですかい? もう真っ暗ですぜ」
そう言いながら、三人とも獣道に消えていった。マルコは今回は後を追うのをやめておいた。と言うのも、ある作戦を思いついたからだった。
マルコは森の中に生えているタロ芋を探した。それはすぐに見つけることができて、その根を掘り始めた。尖った石を使って、もののニ~三分でそれを掘り出すことができた。そして焚火に近寄り、石で芋をすりつぶして、それをグツグツ煮える鍋に入れて、森の中に戻った。
暫く森に身を潜めて待っていると、海賊たちが戻ってきた。
「ほらぁ、問題無かったじゃねえですか。兄貴は疑り深いんだからぁ」
「おめぇの言う事なんか、信用なるかってんだ!」
「ハハハハハハ、でも兄貴ぃ、また誰か流れ着く奴が、いるかもしれやせんぜ」
「分かっとるわい! そのために見張りしとるんだろうが!」
「ま、この後も飲んじゃいますけどねぇ!」
「ガハハハハハ・・・」
三人は上機嫌で焚火を囲み、酒盛りを始めた。ついさっき奴隷を殺したことなんか、忘れてしまっているようだ。マルコはその様子を、やはり静かに見守った。そして三人は毒芋が入れられた鍋を、そうとも知らずに食べ始めた。
「おめぇの料理、いつも不味いなぁ!」
細身の男が小デブに言うと、
「そうかい? 今日のはちょっと変わった味がするけど、結構イケるぜ。なぁ兄貴」
「へっへへへへ。酒と食らわば、何でも旨いわ!」
「ギャハハハハハハ・・・」




