第4章 海賊たち
昨日堀ったタロ芋は、もう食べる気がしなかった。毒が含まれている可能性が高い。魚を捕りたかったが、釣り針を持っていない。でもその芋を試してみることにした。
岩場の水が引くと、水溜りに生き物が取り残されることがある。そこに擦り潰した芋を流し込むと、ひょっとすると毒が効いて、魚が弱って捕まえられるかもしれない。
昼頃には予想外の大漁になった。ある程度大きな魚やロブスターを、腹いっぱいに食べることができた。さらに余った魚を石で切り開き、それを干すと、強い日差しで、すぐに保存食まで完成した。
腹が満たされると希望が湧く、マルコは再び密林の奥を目指すことにした。昨日作った椰子殻の草履は、一日で水分が乾燥し、軽くなって履きやすくなっていた。
マルコは魚の干物を腰にぶら下げて、木の棒で草をかき分け、密林の奥へ進んだ。草木が生い茂り、歩きにくいのは浜辺の周辺だけで、奥に行くにつれ開けた林になってきた。マルコは鳥を追いかけたが、そのすばしっこさには敵わなかった。トカゲやネズミのような小動物は見つけられない。しかし虫は簡単に捕まえられた。クモやイモ虫を幾つか捕まえて食べた。
そうしながら五時間も森を徘徊すると、島の反対側に出てしまった。意外に小さい島だったようだ。川や湧き水は見つけられなかった。やはり飲み水は椰子の実か、せいぜい樹液をすするしかないだろう。目の前に現れた新しい砂浜には、もっと多くの椰子の木が生えていた。
マルコはその木に生る実を数えようと、砂浜に下りたところで気づいた。辺りにはいくつかの実が落ちているのだが、どれも穴が開いて、中身が空っぽである。急に警戒して、もう一度茂みに身を隠した。そして辺りをゆっくり見渡すと、砂浜には人の足跡がついていた。
(誰か、この島に流れ着いた者がいるようだ)
それが仲間の船員なのか奴隷なのか、はたまた、監査官や警護士たちなのかは分からなかった。マルコはそのまま、夜になるのを待った。
日が暮れると、日没と反対の方角の森の上が明るくなった。どうやらそこで焚火をしているようだ。マルコは砂浜に近い茂みを慎重に歩いた。ガサガサという音も、波の音にかき消されるほど静かに移動した。やがて木々の間から明かりが見え、人の話し声が聞こえてくるようになった。
「おい、酒をもっとよこせ」
しかし、木の陰から焚火に照らされた空間を覗いて、マルコは落胆した。彼らは海賊たちだったのだ。そこには三人いる。取り囲んだ火には、肉の塊が焼け、いい匂いがこちらにも漂ってきそうだった。
「ぐ、ぐ、ぐ、・・・、ぷは~うめぇ」
ひときわ大きな男が、ボトルを咥えてワインを流し込んでいる。
「そんなに飲んでちゃ、昼まで起き上がれねえっすよ」
細身の男が笑いながら言うと、
「ひゃひゃひゃ、どうせ船はしばらく戻っちゃこねえさ」
大男はさらに大笑いしながら言った。
「それもそうっすね。じゃ俺っちも飲んじゃおうっと」
そして細身の男が、もう一本ボトルの栓を開けると、
「おい、アッシにも飲ませてくれよ」
もう一人の小デブが言った。
「何言ってんだ。お前、あの小舟の床下に、たんまり隠してるの知ってるぜ」
「なんだ、バレてたのか、ギャッハッハッハハ」
マルコは暗闇から、その話を聞いていた。
(小舟? どこかに船を隠してるのか? これはチャンスだ)
海賊たちは無防備にも大酒を食らい。焚火の周りで寝てしまった。その隙にマルコは、遠回りして海辺に向かい、足跡を残さないように波打ち際に入って移動し、月明かりを頼りに小舟を探すと、岩場の隙間に全長六メートルほどの、手漕ぎ船を見つけることができた。
(ああ、ダメだ。この船じゃ、一人で海を渡れない)
それは、一人でオールを漕ぐには大きすぎて、大洋に出るにはマストが装備されていない。つまり、ただの上陸用のボートだったのだ。
(こんな船で上陸してきたってことは、もっと大きな船が迎えに来るはずだ。さっきの海賊もそう言ってたな)
いつまた海賊船がやって来るか分からない。それまでに、何か作戦を考えるしかなかった。
マルコはその小舟に乗り込み、何か役に立ちそうなものがないか、船内を物色した。樽に入れられた食糧の外、隠されたワインのボトルもあった。しかし、マルコはそれらに手をつけず、武器になるものを探した。しかし役に立ちそうなものは何もなく、一旦諦めて、静かに森の中に戻っていった。




