第1章 絶海の孤島
また日が昇った。マルコは立ち上がれるまでに体力が回復していた。よたよたと波打ち際の岩場に行き、そこにへばりつく貝を取って食べた。生でいくつ食べたか分からない。カニやヤドカリも捕まえたが、それらはすべて、内蔵を外して食べるという注意は怠らなかった。彼は船乗りである。遭難した時の知識は、豊富に持っていたからだ。
しかし絶望を感じずにはいられない。なぜなら彼は、この海域に、このような島があることを知らなかったのだから。つまりここは、商船の航路からは大きく離れていると、悟っていたのである。
それでも、ある程度空腹が満たされると、歩く気力が湧いて出た。その砂浜の様子を見て回ることができた。絶海の孤島とはいえ、木の板やロープなど文明的な漂着物も打ち上げられているが、今のマルコの助けになるようなものは見つけられなかった。
マルコはこの二百メートルほどの砂浜の左右が、断崖絶壁に隔絶され、それ以上浜辺を進むことが困難だと知ると、中央の断崖を上り、その奥の密林へ行くしかないと考えた。
しかしそれには問題があった。彼は裸足だったのだ。乗っていた船から海に飛び込んだ時、泳ぐためにブーツを捨ててしまっていたのだ。
マルコは浜に落ちていたロープを取りに戻り、ゴツゴツした岩に擦りつけ、それを切り取った。さらに繊維を細かく分けて紐を撚り、昨晩の椰子の実の殻を岩で割って、程よい大きさにしてから、紐で足の裏に括りつけた。いわゆる草履を作ったのだ。椰子の繊維がクッションやすべり止めとなり、これで岩場でも安全に歩くことができる。
高さ三メートルほどの岩を乗り越えると、簡単に密林に進入できた。このたった三メートルの標高差でも、ここから先には、海水は上がってこないようだ。しばらく進むと、生い茂る草木やツルは、マルコの行く手を阻んだ。無理はせず、すぐに奥に進行するのを諦めた。
彼は渋い表情をしていた。それはその後の食料や、水の確保について、そう簡単にいかないと考えたからだ。しかし幸運な事に、その草むらにタロ芋らしき葉を見つけることができた。よく見るとそこかしこにその葉は生えていた。その根に芋があるはずだ。近くの木の枝を折り、それで土を掘った。まだ完璧に体力が回復していたわけではなかったが、一心不乱に土を掘った理由は、すぐその地中に大きく膨らんだ芋が見えてきたからだった。十分も掘れば、ラグビーボールほどの芋が姿を現した。それを海水で洗い、生のまま握りこぶしほどを食べて、残りは後に取っておいた。
その後マルコは水の確保のために、椰子の実を数えた。砂浜の木に生る実は全部で二十個ほどあった。これなら半月は飲み水に困らないだろう。あとは火起こしができれば、一安心といったところだが、浜には流木が落ちている。口火となる乾いた枯れ草が欲しかったが、ロープの繊維をほぐして乾かせば使えそうだ。
しかしその日の午後、マルコの腹の具合が悪くなってきてしまった。朝に食べた貝に当たったのか、カニだったのか今となっては分からないが、全身が小刻みに痙攣し、強烈な嘔吐と下痢を繰り返し、呼吸さえも苦しくなってきた。更に強い日差しに焼かれ、脱水症で意識は朦朧となった。タロ芋の種類によっても、毒が含まれていることもある。残念ながら彼はそのような知識は持ち合わせていなかった。次からは、一日に一種類だけを食べるようにしようと思った。
日が暮れる頃、ようやく呼吸が落ち着いてきたが、全身に及ぶ倦怠感と筋肉の痺れは、まだ取れていない。
晩には体調は大分良くなったが、疲労がたまり、あまり動く気力は湧かなかった。しかしなんとか椰子の実を一つ木から落とし、その水分で脱水症状を克服した。そして昨日と同じ太い椰子の木の幹にもたれ、再び穏やかな気分を取り戻すことができた。
そして静かな夜の海を眺めながら、なぜこんなことになってしまったのかを、思い返していた。




