第五話「再会」
ポイゾンフォレストから脱出した次の日の朝。レオンとマリーナは朝食を取った後、街のギルドに赴き、昨日起こった出来事と毒蛾について詳しく話をした。
「なるほど...耐性魔法が通用せず重症になってしまうほどの毒ですか……」
ギルド内で話を聞いた受付嬢のミーロが、深刻そうな面持ちで言った。
「はい。それで毒や虫の魔物に詳しい人がいれば良いのですが……」
マリーナの質問に対してミーロは、しばらく考え込んでいたが答えが出なかったようで、申し訳なさそうな顔をする。
「すみません。その件については我々の管轄外でして……」
「そうですか……」
「ですが。」
落ち込む顔をした二人を見て、ミーロは少し焦り気味に話を続けた。
「心当たりが無いわけではないんですよ。実はこの街の外れにある施設に虫や植物を研究している学者が居るのですが、これから会いに行かれますか?」
「本当ですか?是非お願いします。」
希望の光を見つけて喜ぶ二人を見て職員は小さく笑いながら案内した。
◇
「ここです。」
歩くこと15分。二人が連れてこられたのは街外れの一角にある小さな植物園だった。表札には『生物研究所』と書かれている。
「あそこにいる方はとても変わった研究をしていまして。色々なことを知ってるからきっとお二人の役に立つはずかと。」
そう言われた二人は早速扉を開け中に入って行く。すると奥の方から声が聞こえてきた。
「誰だい?」
恐る恐る近づいていくとそこには白衣を着た男性が立っていた。年齢的には30代くらいだった。
「こんにちは。聖職者のマリーナと言うものです。あなたが毒や虫に詳し……え?」
マリーナは男性の顔を見て固まった。それは男性の方も同じだった。
「もしかして、カーク?」
「……マリーナなのか?」
カークは目を丸くしてマリーナの顔を見る。マリーナは微笑んでいた。
「やっぱり、カークじゃないの?」
「ああ。久しぶりだなマリーナ。元気にしてたか?」
懐かしさのあまり笑みがこぼれる二人にレオンは声をかけた。
「知り合いだったのか?」
「知り合いというか、なんといいますか…」
「昔付き合ってたんだ。まあ進む道の違いで分かれたんだけど。」
「ちょっとカーク!」
レオンの質問に対してマリーナがしどろもどろになりながら答えるとカークがそっけなく答え、マリーナは顔を赤くして怒った。
「それで、どうしてこんなところに?勇者になったあの子供と一緒だったんじゃないのか?」
「いろいろとあってパーティから離れることになって……」
マリーナは勇者パーティーをクビになった経緯やレオンとパーティーを組んだ事を話した。
「そうかぁ。せっかく教会が人々の為に戦ってくれると信じてマリーナを貸してくれたのに薄情だなあ、勇者になったアイツは。けど正直ハイラルドよりも彼女の方がムカつくよなあ。」
「ムースちゃんのこと?」
「そうそう。家が近所だったから分かるけど、あの娘は昔からずる賢くてね。その上我儘で子供の頃から性根が腐ってたから、腹いせに彼女が大嫌いなトカゲをこっそり家の中にばらまいたのは学生時代のいい思い出だね。」
「あれあなたの仕業だったの?ムースちゃん絶叫してたわよあの時。」
それを聞いてカークはアッハッハと笑った。
「そういえば今日はどうして来たんだ?」
「あ!実は……」
マリーナは話を戻して、カークにこれまでのいきさつと昨日の戦いのことを話した。
「なるほど。その毒蛾のことで情報を集めたいというわけだな」
「はい。何か知っている事はあるかしら?」
マリーナの質問を聞いたカークは手を組み考えるポーズを取る。
「実はここ最近、ポイゾンフォレスト付近では多くの冒険者が毒で侵されていたらしいんだ。君たちのように毒の対策があっても例外ではない。俺自身も実際に見たことがあるが、その症状は多種多様で、頭痛を訴えたり肌がかぶれたりするものまであるみたいで。まあそれでも軽い方だよ。」
「軽い方?つまりもっと酷いのもあるということか?」
レオンの問いかけにカークは静かにうなずいた。
「毒素からして最悪のケースの場合、全身が麻痺して動けなくなる。だけどまだそういう人がいないのが不幸中の幸いだ。」
「そうなのね…」
二人とも難しい表情をしていた。
「耐性魔法の効果が無かったと言っていたね。調べた限り、あれは毒の鱗粉言うよりかは寄生植物の種だ。」
「寄生植物?」
カークの言葉を繰り返すマリーナにカークが答える。
「そうだ。寄生虫みたいなものだと思ってくれればいい。その寄生植物は最初はなんともないが、宿主に寄生して少しずつ増殖していくんだ。だから初めは体に変化はないけど、時間が経つにつれて体が植物の根に覆われていって最終的に生気を吸い付くされて死ぬと思われる。要するに自然界から見れば植物が成長してるだけだから、魔法も毒とは認識されないんだろう。」
「それは厄介ですね……」
マリーナは顔をしかめながら言うと続けて尋ねた。
「他に何かわかることは?例えば弱点とか。」
「それに関してはもう直感なんだけど、相手は虫だろ。だから単純に火で燃やすっていう方法が聞くかも。」
「火属性か……」
マリーナは顎に手を当てて考え込んだ。火は単純で物理的な力ゆえに難しく、火属性の魔法は現状存在していないのだ。魔法の属性を定義するのは昔からの魔術師たちであり、その定義こそが現代の魔法学に直結する。ゆえに火に関しては、自然発火したものを攻撃に使う単純な戦法と言われて研究対象では無かった。しかしマリーナには心当たりがあった。
「色々教えてくれてありがとうカーク。また何かあったら来るわ。」
「マリーナ。今度時間があったらお茶でもしよう。」
「わかった。時間があったらね。」
二人はカークに礼を言って植物園から出るのだった。
「ん?」
その時カークは目を疑った。マリーナの髪の間から赤い芽が見えた気がしたのだ。
◇
「それでマリーナ。手はあるのか?」
「はい。勇者パーティーに協力を頼みましょう。」
「何?」
レオンは耳を疑った。マリーナは彼女自身を追放したパーティーと再び組むことを提案してきたのだ。
「マジかよ。あいつ等はお前のことを……」
「分かっています。ですが、火の力を使う術師が勇者パーティーにいるんです。」
「あんな性格悪いやつに頭を下げに行くのか?」
「これからのここの人々の為に必要なことなんです。」
マリーナは少し暗い顔だったが、その目は決意に満ちていた。
「おーい!」
そんな時、前から一人の少年が走ってきた。
「ねえ、おばさん達、強いんでしょ?」
「え?ええ……まあ」
レオンとマリーナの事を指さした少年にマリーナが曖昧な返事をすると少年はすがるような顔をしてきた。
「じゃあ、僕の家族を助けてよ!今この街の近くにある沼地で釣りをしてた父ちゃんが大きなカニに挟まれちゃったんだ!早く助けに行かないと父ちゃんの足が切れちゃう!」
少年は涙目になりながらそう言った。どうやらかなり切迫している状況らしい。
「分かりました。坊やはここで待っていてください。」
「ありがとうおばさん!」
そうしてマリーナとレオンは沼地へ向かうこととなった。
沼地は街から離れたところにあり、周りには草木が生えており少し不気味な雰囲気が漂っていた。
「ここのようですね。」
「ああ。気をつけろマリーナ。」
「大丈夫ですよ。ここは昔もよく入ってましたから……うっ。」
不意に苦しい声を出すマリーナにレオンが心配そうに声をかける。
「マリーナ。無理をするな。」
「いえ。早く子供のお父さんのところに向かいましょう。」
マリーナは首を押さえたまま歩き続ける。その後ろ姿を見ながらレオンは不安そうな表情を浮かべていた。
(マリーナ、本当に解毒は済んでいるのか?)
そう心配しながら進んでいると、少年の父親らしき人物と巨大なカニの魔物を見つけた。
「いたぞ!おい!大丈夫か?」
急いで二人は駆け出した。
「あれは?」
すると途中、マリーナはカニと戦っている青年が見えた。その青年はフードを被っていて顔は見えないが、手から火の玉を作り出してカニに攻撃していた。足がとられやすい沼地にも関わらず、その動きは手慣れで、淀みがない。
「あの動き……もしかして!」
「はぁっ!」
そしてマリーナ達が加勢しようとした時には、青年は巨大な火の玉をカニに浴びせて蒸発させた。
「た、助かった……」
「もう大丈夫だ。だけどもうあんまり奥には行くなよ。今みたいな連中の住みかだからな。」
「わかった……ありがとな。」
助け出された父親はカニから解放されホッとした状態で去って行った。
父親が去ったのを確認すると、マリーナは陸に上がってくる青年に近づいた。
「あの。」
「ん?加勢か?けど遅いな。さっきのカニならもう倒し……え?」
フードを脱いで顔を出して話す青年。だがマリーナの顔を見た瞬間青年は目を見開いて驚いた。
「デューク君、よね?」
「……マリーナさん?」
その青年は紛れもなく、勇者パーティーの術師デュークだった。




