第十三話「黄金の竜人」
月が夜空の中央に浮かぶ深夜。レオン、マリーナ、デューク、ラーレイドの一行は廃屋の裏手にあった出入り口を見つけた。
「ただの裏口にしか見えないが…」
そう言ってレオンは裏口のドアノブに触れようとした。
「お待ちください!」
マリーナがあわててレオンの手を弾いた。
「マリーナ?」
「ドアそのものから邪悪な魔力を感じます。普通に触れれば侵食されます!」
「何だと?」
「ここは私が。」
マリーナは杖の宝石に指で触れると、宝石が放つ青い光が彼女の指へと移った。その指でドアノブを握ると、ドアから放たれていた邪悪な魔力がたちまち浄化されていった。
「おお!ドアがキラキラに!」
「ええ。だけどあくまでもドアだけ。この先から更に悪しき力が…!」
マリーナがドアを完全に開けた瞬間黒紫の気が溢れ出す。ただの裏口が暗黒の入口に到達していた。魔法で編まれた紫の膜が闇の向こうを塞いでいる。
「これが……」
「禁忌のダンジョンか。」
デュークが膜に触れると冷たい感触が手のひらを刺した。マリーナは神聖魔法で浄化を試みるが効果がない。
「まるで境界……魔界と現世の境目のようです。」
「突破するしかないだろうな。」
レオンはハンマーを肩に担いだ。
「この先に我々の卵が!」
「あ!ラーレイド殿!」
ラーレイドがそう叫ぶとそのまま禁忌のダンジョンの中へ飛び込んでしまった。
「おい!待てって!」
デュークも慌てて後に続こうとする。しかしラーレイドが抜けた穴はすぐに閉じてしまいレオンとマリーナだけが残された。
「まずい……一人だけで行ってしまった。」
「追うしかないな。」
三人が再度膜に触れると粘り気のある抵抗感と共に吸い込まれていく。
「行くぞ。」
「はい…!」
光も温度もない闇の中へ四人は消えた。
◇
内部は薄紫色の瘴気に満たされた洞窟だった。湿った岩肌に黒い苔が這い、腐臭を放つ。床には赤く脈打つ不気味な結晶が点在し、生命反応のような光を放っている。
「悪しき魔力が濃い……」
マリーナは杖を握り締めながら、浄化の光を放って注意深く進んだ。
「気をつけろ。下級の魔獣がいる。」
レオンが指差した先には黒い霧のような塊が蠢いていた。彼らが近づくと霧は形を変え蛇のような姿に変わり襲いかかってくる。
「邪魔だ!」
レオンのハンマーが振るわれると瘴気が霧散した。霧散した魔獣は光となって消滅する。
「私が常に浄化の光を絶やさないようにします!お二人は前方警戒を!」
「任せといてマリーナさん!」
「お前は背後を警戒しろ!」
「わっ!」
デュークはレオンに叱責されるとそのまま背後に居た魔獣を炎でなぎ払った。そして三人はラーレイドの姿を探して奥へと進んだ。瘴気は次第に濃くなり、出口さえ見えなくなる。
「マリーナさんの神聖力があって本当に良かったですよ。これじゃあ一瞬で魔に飲まれちゃいますよ。」
デュークが安堵するように言うがマリーナは苦笑いする。
「私の力だって永遠ではありませんが、出来る限りもたせます。」
「そう言ってくれると助かる。急ぐぞ。」
レオンが言うと一行は最深部を目指して奥へと進む。さらに進むにつれて瘴気は強まりマリーナの力が僅かに押されているのを三人は感じ取っていた。
「もう少し浄化の範囲を広げます……」
「おいマリーナ!無茶をするな!」
「大丈夫です。定期的にポーションを飲むので!」
そして一行は更に奥へと進む。奥へ進む毎に邪悪な魔力が強まっていくのを感じる三人。魔物も少なくなる分一体一体が強くなっていた。
「ここから先から、更に危険な魔獣の気配がします…」
「ああ。俺も感じる。」
「魔獣も突然出現しなくなりましたし……慎重に行きましょう。」
三人は慎重に歩を進めながら奥へと進んだ。最深部近くまで来ると更に気配が強くなった。
「レオンさんマリーナさん!あれ!」
デュークが指差した先にはラーレイドがいた。しかし体全体から紫色の気が出ており、膝を屈していた。
「ラーレイド!」
「お待ちください!目の前に何かが居ます!」
マリーナが警告するとレオンはすぐにハンマーを構えた。すると奥から黒いコートをまとった何者かが現れた。
「お前か……竜人の卵を盗んだのは!」
レオンが叫ぶと相手はこちらを見た。
「うーん?なんぞな?また魔法材料が来たぞな?」
その人物は黒い服を纏った牛のような魔道士だった。錫杖の黒い宝石からは黒い魔力が放たれていた。
その姿を見た三人は警戒した。
「まさか……ラーレイドは既にやられたのか?」
「大丈夫だ…少し、やられただけだ…」
ラーレイドは強がるが、邪悪な魔力にやられたのか立ち上がる様子がなかった。
「うーん。竜人の卵は良い魔法材料だからいっぱい騎士団が売ってくれたけど、竜人丸々一匹使えば、"ヴァール"様を蘇らせる儀式は確実なものになるぞな。」
「ヴァール!?」
その名を聞いたマリーナは驚愕した。かつて世界を揺るがした魔神の名を聞いたマリーナは杖を掲げてデュークとレオンを聖なる光で包んだ。
「マリーナ?」
「お二人方。ラーレイド殿を救出し、なんとしてもこの魔獣を討伐しましょう!」
マリーナの言葉を聞いてデュークとレオンはお互い顔を見合せた。
「よくわかんねえけど、やってやぁりましょう!」
デュークは炎を掌から召喚して魔道士に向けて構えた。
「行くぞ!」
レオンもハンマーを構えた。
「うーん。魔法材料を傷つけるのは嫌だけど、多勢に無勢は不利ぞな。」
魔道士はそう叫ぶと黒い魔法陣を複数召喚した。黒い魔法陣からは無数の漆黒の矢が放たれると同時に三方向に分裂する。
「マリーナ!」
「大丈夫です!」
マリーナは神聖力で障壁を張ると矢は分解されて消えた。
「くっ……!」
「おい!この野郎!」
レオンが矢をはじき返し、デュークが炎で射抜いたが矢はすぐに再生した。
「今だ!俺がそいつの足を止める!」
レオンはそう言うと魔道士に向けてハンマーを振り下ろした。
「はぁぁぁっ!」
だがその一撃は凄まじい音を立てながら、何かに防がれた。邪気にとらわれたラーレイドが、レオンの目の前に立っていた。
「ラーレイド!?」
「まずい!操られてます!」
魔道士はラーレイドの背後に周るとラーレイドが放った剛腕の一撃がレオンの腹にヒットした。
「ぐはっ……!」
「レオンさん!」
「うーむ。魔術師が最強でなくても、強い者を従わせてれば誰よりも強いぞな!」
魔道士は邪悪に笑うと杖をラーレイドの方へ向けた。
「ラーレイド殿!しっかりしてください!」
マリーナが呼び掛けると魔道士がラーレイドに命令を下した。
「もっとやるぞな!」
「させるかぁ!」
デュークは魔道士に向け炎を放とうとする。しかし魔道士は杖を振るとデュークの魔法を相殺した。
「ふん。無駄な足掻きだぞな。」
魔道士はそう言い放つとレオン達の元へラーレイドをけしかけた。
「ラーレイド!」
レオンは再度呼び掛けようと叫ぶがラーレイドはもう何も聞こえてない様子であった。
「レオン殿!ラーレイド殿を気絶させて下さい!」
「マリーナ?」
「正気に戻すには、ラーレイド殿に一撃を入れて気絶させるしかありません!」
「なるほど。そういうことか。」
レオンは納得したように答えた。
「分かりました!」
デュークは引き続き魔道士に炎を放ち続けた。
「今だ!」
そしてレオンは一気にラーレイドに近付くと頭上に向けてハンマーを振るった。
「悪いな。」
そして次の瞬間ラーレイドの体が一瞬痙攣した。しかし竜人故にその体は強硬で、ハンマーの一撃でも簡単には気絶しなかった。
「やっぱり一筋縄ではいかないか!」
ラーレイドが剛腕を振り上げようとするがマリーナは聖なる光の衝撃でラーレイドの体を押し飛ばした。
「はぁっ!」
そしてラーレイドは立ち上がって灼熱のブレスをマリーナに吐いた。マリーナは光の障壁で受け止める。
「うーむ。この若造しつこいぞな。」
魔道士は闇の玉でデュークの炎を防ぐと反撃魔法を放った。
「喰らえ!」
すると魔道士から放たれたのは無数の漆黒の矢だった。その矢は四方八方に飛び散るとレオン達を捉えた。
「うぉっ…!」
レオン達は必死に矢を回避しようとするが矢は執拗にレオン達の後を追って襲い掛かる。
「これぐらいなら俺が!」
デューク矢の前に来ると、巨大な火球を放ち、魔道士と黒い矢を一気に焼却した。
「はぁっ!」
その瞬間デュークは力尽きて膝をつくとレオンが近づく。
「大丈夫か?」
「ふぅ……金ぴかの兄貴の真似事は体力を使うなぁ…」
「危ない!」
マリーナは咄嗟に光の障壁を二人の前に展開するとラーレイドの剛腕が衝突した。後ろでは体勢を整えた魔道士が余裕そうにこちらを眺めていた。
「くそ!やっぱりラーレイドを何とかしなければ!」
「レオン殿!これで何とか!」
マリーナは杖を掲げると強い聖なる光をレオンに浴びせた。するとレオンの体を赤い光が包んだ。
「力が、これまでよりもみなぎってくる!?」
「あらゆる物理攻撃力の筋力を極限まで高める奇跡です!切れた後の反動が大きくて前のパーティーでは使えませんでしたが、レオン殿であれば!」
「感謝する!」
レオンは礼を言うとハンマーを構えた。そしてラーレイドに向かって突進する。
「うぉぉっ!」
ラーレイドもレオンを迎え撃つべく剛腕を構えて飛びかかった。しかしレオンは怯まずそのままラーレイドの剛腕を打ち返すと、ハンマーを振り下ろしてラーレイドの頭を叩き潰した。
「ぐおお……」
頭を強打したラーレイドはその場に倒れ込む。レオンはラーレイドを気絶させることに成功した。
「な、ナニィ!?」
魔道士は余裕から一気に
「ラーレイドを抑えた!」
「デューク君!」
「うっす!」
デュークはラーレイドを抱えてマリーナ達の後ろに回った。そしてレオンとマリーナは魔道士を挟み込むように構える。
「うーん……」
「覚悟はいいか!」
レオンがトドメと言わんばかりに、ハンマーを振り下ろそうとした。
「別に僕が弱いとも言ってないぞな。」
その一言と共に魔道士は開いた本から、禍々しい魔力を放った。そしてその魔力はレオンに向かった。
「……!」
レオンは咄嵯に避けようとしたが、魔道士の攻撃は速く、レオンの体に直撃する。
「レオン殿!」
「うーん。さっきの奇跡を使われれば僕も苦戦するけど、今は違うぞな。」
魔道士は余裕たっぷりに言うと魔法陣を展開した。
「マリーナさん!早く回復を!」
「もちろんです!」
マリーナは今度は全快の奇跡を詠唱しようとした。
「魔法の本質を覗けばこっちのもんぞな!」
魔道士は三人の足元に黒い魔法陣を展開した。
「うわっ!?」
「なんだ!?」
突如魔法陣から放たれた邪悪な魔力が三人を襲った。
「こ、これは重力掌握の魔術…」
マリーナは三人の周囲に聖なる光を発散しようとするが、重力掌握により詠唱が妨害される。デュークも火炎で掌握を打ち破ろうと試みるが、同じ状態だった。ラーレイドには重力掌握は無いが、気絶しているのでどうしようもなかった。
「思うように動けん!これが、闇の魔術……」
「すんません二人とも…流石にこの重圧は……」
「デューク!」
圧迫感に押し負けてしまい、デュークが地に伏せてしまった。
「耐えて!今、闇を抑える奇跡を!」
マリーナは何とか詠唱を試みるが、徐々に口が閉じていった。
「レオンさん……」
デュークは目を見開いた。レオンはまだ、立っていた。全身に負荷がかかり、呼吸も困難な状態の中、それでもハンマーを両手で握り締め、耐えていた。
「……俺達だって、引き下がれん!」
レオンは重力に抗いながら一歩一歩と魔道士へと進んだ。
「レオン殿!これ以上は危険です!」
「これぐらいの重さでへこたれちゃ、かつての仲間達に笑われる!」
レオンが雄叫びをあげると、ハンマーを持ち上げた。
「およよ。その気合いは認めるぞな。でもね。」
魔道士が指を鳴らした瞬間、さらに重圧が増した。
「っぐ…!」
「レオン殿!!」
レオンの体が更に沈み込む。膝をつき、ついに片手が地面に着いた。
「所詮は人間ぞな!」
魔道士が笑いながら魔法陣の色を変えた。
「まずい……今度は何だ!?」
「レオン殿!この魔力の流れは……!」
マリーナの言葉が終わる前に、三人の体から白い気が魔法陣に吸われ始めた。それは間違いなく生命力だった。
「……!」
「マリーナさん!これじゃあ……!?」
「その通り!この魔法陣は魂まで抜き取るぞな!」
「チクショウ……」
デュークは歯噛みする。意識が薄れる中、彼の手が炎に触れた。しかし、その熱すら感覚として届かない。やがてその手すらも動かなくなった。
「マリーナ……デューク……」
レオンは二人の名前を呼んだが、声にならなかった。視界が霞み、やがて意識が途切れた。
「レオン殿……!」
マリーナは涙目になりながらレオンに全快の奇跡をもう一度放とうとしたが、その杖は空を虚しく切った。そして杖を持つ手もついには動きが遅くなった。
(駄目……ここで私まで倒れたら…)
マリーナは自分を奮い立たせようとした。だがもうすでに体に力は入らず、全身が鉛のように重くなっていた。頭の中も真っ白になりかけていた。
「せやぁっ!」
「ぞな!?」
その時だった。突然マリーナの後ろから雷を纏った光刃が魔道士に斬りかかり、魔道士を吹き飛ばした。
「随分邪気が溢れてるな。」
そう言って空間に現れたのは、竜人。それもラーレイドよりも金色の鱗の上に緑色の衣服を纏い、オリハルコンの剣を帯刀した雄の竜人だった。
(竜人?けど、ラーレイド殿ではない。)
「立てるか?」
竜人の剣士はマリーナに近づくと彼女の目の前に火球を作った。それは傷つけるような熱さではなく、寧ろマリーナの傷を徐々に治す暖かい炎だった。
「これは、一体?」
「話は後だ。あんたの仲間がマジで死ぬ前に、コイツを倒すぞ。」
「は、はい!」
マリーナはまだ足に力が入らない状態だったが何とか立ち上がると、魔道士を見据えた。その魔道士は不機嫌そうに舌打ちをすると本を構えなおした。
「何だこいつぞな。僕の邪魔をするなぞな!」
「さっきまでの威勢はどうした?」
竜人は魔道士を挑発すると、剣を口元に近づけ口から炎を吐いた。灼熱の炎が剣身に纏われ、炎の剣となった。マリーナも半分を切った魔力を調節して、身体強化の奇跡を竜人と自身に唱えた。
「助かるぜご婦人。」
「今の私は、これぐらいしか……」
「充分だ。」
そう言うと竜人は背負っていた杖から雷を喚ぶと体に纏い、魔道士に向かって突進した。
「ぞな!」
魔道士は闇の結界で防御をはかった。しかし竜人はそのまま炎を纏わせた剣で、結界を切り裂いた。
「な!?」
魔道士は驚きつつも結界を修復させようとした。だが、竜人は休む暇を与えないかのように魔道士に向かって炎雷の一撃を食らわせた。
「くっ!」
「私も!」
魔道士はすぐに後ろに下がり、再び結界を展開したが、今度はマリーナの聖なる光の槍がそれを破壊した。
「ぞ、ぞな……」
魔道士は再び闇の魔術を唱えようとしたが、一気に属性攻撃を受けたからか、息が荒くなっていた。
「これで終わりだ!」
「もうこれ以上は許しません!」
竜人は雷を纏わせたまま魔道士の懐に入り、魔道士を袈裟切りにした。マリーナも竜人の攻撃の隙を与えぬように聖なる光で追撃した。
「ぞななー!?」
魔道士は悲鳴をあげたが、それでもまだ闇の力を使った。
うしてしかし、体力が低下していたので威力は弱かった。
「レオンさん達を、酷い目に遭わせ、竜人の方々の大事なものまで奪った…断じて許しません…!」
マリーナは怒りを込めて魔道士に向けて奇跡を放った。神聖なる光が魔道士の身体を貫き、その肉体を浄化した。
「ヴァールさまぁぁぁぁ!!」
魔道士は断末魔をあげると、塵になって消滅した。
「消えたな。」
「ええ…そう…ですね。」
マリーナは息を切らしながら答えている間に、邪気で歪んだ空間が元に戻り始めていた。そして完全に戻った時、魔道士が魔術で隠していたのか先ほどまでなかった棚に大量の卵がしまわれていた。
「これ……もしかして……」
「ああ。里の奴らの卵だな」
竜人は気を失っているレオン達の前に、暖かい火球を設置した。
「しばらくすれば起き上がる。後はそいつらで卵を運び出せるだろう。」
そう言うと竜人は背を向けた。
「あの、卵はよろしいのですか?」
マリーナが聞くと、竜人は顔だけ向けてきた。戦闘中は気付かなかったが、その目はどこか虚ろだった。
「俺は闇の兆しを感じたから潰しに来た。それだけだ。」
そう言って竜人は歩いて行った。マリーナはその背中を見送ることしかできなかった。そして数秒後、レオンがゆっくりと目を覚ました。
「あれ……俺は……」
「レオン殿!ご無事ですか?」
「……何とかな……」
「うぉ……おっさんが死ななくてよかった……」
レオンが起き上がり、続いてデュークも目を覚ました。マリーナは安堵の表情を浮かべた。
「とりあえず、ここから出ましょうか。」
「ああ。」
「でもどうやって卵を運びます?結構数ありますけど。」
デュークが言うと、マリーナが思い付いたように言った。
「それでしたら私が奇跡で瞬間移動させましょう。こちらに魔法陣を描いて、里の方にも描けば卵をこの場で運べると思います。」
「よし。それで行こう。」
「承知しました。」
「ではラーレイド殿も、魔法陣で転送させましょう。」
そうして一行は卵とラーレイドを竜人里に転送する作業を始めるのだった。
◇
「本当に、あんたらにはどう礼をすればいいか……」
竜人の里で長はレオンの皿に酒を注ぎながら言った。三人が一通り作業を終えて里に戻り、長に報告をすると長は直ぐに皆を集めた。そして無事に卵を取り戻したことと、マリーナ達による討伐報告をした。すると皆から大きな歓声が上がった。そしてひとしきり喜ばれた後、マリーナ達は長から礼を受けている最中であった。
「いやいや、気にしないでくださいよ。困ってる人がいたら助けるってのが俺らのモットーなんで」
デュークが笑いながら言うと、長はもう一度深々と頭を下げた。
「犯罪に関与した黒騎士達も天の騎士団が連行してくれた。これで卵を盗むヤカラは居ないだろう。」
「それに闇取引をさせる悪魔も。」
そう言ってマリーナは紫色の宝玉を取り出す。それは魔道士が死んだ位置に落ちていた魔道士の核であり、ダンジョン攻略の証だった。
「本当に、お前たちには感謝している。」
するとラーレイドがマリーナの前に来た。マリーナの治療の奇跡を拒んだので、応急手当を受けたので、額には包帯が巻かれていた。
「マリーナ、後の二人もありがとう。里のために尽力してくれて。」
「いえ、当然の事をしたまでですよ。」
マリーナはそう言いながらも顔は笑っていた。
「それに私も剣を持つ竜人が来てくださらなかったら、とても勝てませんでした。」
「剣を持つ竜人?」
マリーナはラーレイド達に竜人の剣士について話した。しかし首を傾げるばかりだった。
「あなた、知ってるか?」
「いや。里の者に刀剣を扱う者は居ないが。」
「そうですか。(やっぱり、里の竜人ではないのですね……)」
マリーナがその事を残念そうに言うと、長が「けど……」と話し始めた。
「仮に儂らの子ならば、元気ならそれでいい。なあ妻よ。」
「ああ。」
ラーレイドもそれを聞いて一息ついた。
「我々の子ならばきっと果敢に生きてくれるだろう。」
「そんな変わった竜人も居るんだな。デュークもそう思わないか?」
「え?は、はい。そうっすね…」
レオンが話しかけると、デュークは何かを考え込んでいたのか、上の空な返事をした。
「ん?どうしたデューク?」
「いえ、なんでもないです。」
その返事を聞いてレオンは小首を傾げた。
(いや、あり得ないよな。兄貴だったら、火を吐けないしな。)
「にしても人間達よ。重ねありがとう。」
里長が改めて三人にお礼を言うと、マリーナ達も礼をした。そして長は提案をした。
「里の未来を守ってもらえたのだ。何か礼を差し上げたいが…」
長は顎に手を当てて考えた。
「お礼だなんてそんな。私達はすべき事をしただけですから。」
「おおそうだ!あれがあったわい!」
何か思い出した里長は奥に引っ込んだ。そしてしばらくして何かを持って来た。
「これを受け取ってくれ。」
マリーナが受け取ったそれは赤い色の宝石だった。手に取った瞬間宝石からは熱い魔力を感じた。
「これは?」
「赤竜石といってな。これは我らが里を創る時に用いられた魔法の宝石だ。普通に装備品として身に付ければ攻撃時に炎の力で加勢してくれる。お主ら冒険者には丁度良いと思ってな。」
「そんなに貴重なものを頂いてもいいのでしょうか?」
マリーナは遠慮がちに言った。
「ああ。それぐらいの事をしてくれたからな。」
「では…お言葉に。」
マリーナは里長から赤竜石を貰い受けると大事そうに袋に入れた。そして赤竜石を受け取ったタイミングで里の竜人達が次の料理を持って入って来た。宴はまだまだ続くらしい。
「さあ!まだまだ宴は始まったばかり!どんどん酒持って来い!」
「おう!」
里人達がわいわいしながら、肉や酒を運ぶ。
「レオン殿。」
果実酒を一口飲みながらマリーナがレオンに話しかける。
「正直、ハイラルド君達に捨てられた時は、悲しい気持ちでいっぱいでした。」
「……そうだろうな。気持ちは凄く分かる。」
酒をあおりながらレオンは答えた。その横でデュークは、肉を食べることに全集中していた。
「でも……こんな私でも、今度はレオン殿に会えてよかったと思っております。」
「そ、そうか?」
レオンは少し戸惑いながらも照れ臭くなっていた。
「私の能力をここまで有効的に活用してくれる方で、貴方ほどの方はいませんでした」
「買い被りすぎだ。だが、ありがとな。」
レオンは顔を逸らした。
(この照れ臭さには、まだ慣れないな……)
「それに、今のパーティーで私は心から楽しく活動出来ています。レオン殿もデューク君も居てくれて何だか、充実」
マリーナが微笑むとレオンは赤面した。
「俺もマリーナと組めてよかったと思う。騎士団にいた時はここまで楽しく出来なかったからな。」
「あら、ありがとうございます。」
宴の雰囲気もあるからか、二人の間に以前よりも良い空気が流れていた。それは騎士と聖職者という柄を外れた、素の二人の空気感だった。
((この空気感が、いつまでも続けば良いのにな。))
そして二人は、偶然にも同じ事を考えているのだった。




