第十四話「悪だくみ」
ルーツ王国のギルドの集会所。その中にある酒場で一人の女性が酒を飲んでいた。弓を背負うその女性は、かつての勇者パーティーに所属していた冒険者ムースだった。しかしその顔はどこか悔しそうだった。
「おかわり!」
「お嬢さん。飲みすぎじゃないですかい?」
「いいから。お願い!」
バーテンダーが窘めるも、ムースは聞き入れずにジョッキを渡した。バーテンダーは溜息を吐くと女性のジョッキに酒を注ぐ。ムースはそれを受け取ると、またゴクゴクと飲み干したが不機嫌なのには変わらなかった。
「女の子が随分と穏やかじゃないね~?」
「あん?」
ムースが不機嫌になっていると、隣に若い男が座ってきた。レオンと同じ黒い鎧を着ていたが、その胸部分には騎士団長の位を意味する勲章が付けられていた。
「これは勝手な推測だけど、誰かのせいで苛立っているようだな?」
「ええそうよ!」
ムースは苛立ったように答えると、テーブルに突っ伏した。
「……マリーナっていう、クソババアのせいでね!」
「なるほど~……それはなかなかに厄介な女みたいだね~」
男はそう言うとムースの突っ伏した肩を撫でた。
「実は僕もさあ、つい最近騎士団からクビにしたオッサンがいるんだけどさ、あのオッサンが居なくなってから騎士団のまとまりがつかなくなるわ、任務は失敗は続くわ、資金の補填で始めた闇取引は昨日失敗したと報告が来るわで、結構参ってんだよねぇ。」
「うわ。あたしとおんなじ状況じゃん!」
話を聞いたムースは驚いた顔をした。
「こっちもあの聖職者のババアが騎士のオッサンとつるむようになってから、各地で名を上げてんのよ!お陰で勇者パーティーはすっかり落ちぶれるし、肝心なハイハルドは勇者の位を剥奪されてどっか行っちゃったし!」
酒を飲みながらムースは怒り混じりに愚痴った。
「そもそも勇者でも貴族でもない熟年冒険者が、王室に招待される自体納得できないんですけど!!」
「わかるよ~。マリーナっていうババアが相当目障りなんだろうねぇ?」
「そうよ!王室まで入れるようになった事は完全にムカついたわよ!だから仕返しに鉱山の魔物の餌食にしてやろうと思ったのに失敗したしい!!」
ムースはテーブルを叩く。
「ほんっと動きも遅いババアの癖にムカつくぅ!」
「気持ちは分かるよ。僕もレオンとかいうオッサンが活躍してるのが本当気に入らなくてねえ。何とかならないかと模索したんだ。」
騎士団長はビールを少し飲んで言った。
「だけど悔しい話、こちらが若くても向こうは経験や戦闘力がかなりある。実力で黙らせようにも今の騎士団や君では到底太刀打ちできない。」
騎士団長はそう言ってムースの方に顔を向けた。
「そこで提案なんだがどう?お互い手を組まないかい?」
「どういう事?」
「今のままだと、このままあの二人が活躍した方が王都にとって良いと思われてしまう。だからこそ、一度落としてしまえばいいと思ってね。」
「けどあんたさ、今あの二人には到底敵わないとか言ってたじゃん?」
「だから言ったろ?"実力"では敵わないんだ。ってね。見たところ、君も悪知恵が働く方だろ?」
そう話す彼の顔はムースと同じくらいか、それ以上に不穏な笑みを浮かべていた。
「……つまりそういう事ね?」
騎士団長の狙いを察したムースはにやっと笑った。




