第十話「鉱山騒動、嵌められた三人」
「え?女王様が?」
街のギルドのアニーの話を聞いたマリーナは聞き返した。
「はい。この短時間で三つもダンジョンを攻略したマリーナさん達の活躍が王宮内でも知れ渡っており、女王様が是非とも皆さんに謁見したいと仰っています。」
マリーナは迷っていた。王都から離れた地とは言えども勇者パーティーに居た頃は王の近辺で色々仕事をしていたから謁見する機会も多々あった。
勇者パーティーを除名されてからは王宮には近づいていないからか懐かしさもある。だが今の自分は冒険者パーティーの一員で勇者ではない。果たしてそんな自分が女王と会う資格があるのか疑問だった。
「俺は構わない。むしろ良い機会だと思う。」
レオンが隣に来て答える。その後ろでデュークがウキウキしていた。
「それにもしかしたら英雄の勲章を授かるかも知れませんよ?」
「私は英雄とか勲章を得たいから聖職者になった訳ではありませんが、女王様がお会いしたいというのならお会いしなくてはなりませんね。」
「それじゃあ早速支度をするか。城へ行くならホーンステッドキャニオンから行こう。あそこはモンスターが比較的少ないから行き来も楽だ。」
レオンはそう言って、マリーナと一緒に城への旅支度を開始した。
「女王様と会うとか緊張するなー。きっと美人さんなんだろうなー。」
「浮気したらぶちのめすわよ?」
デュークが浮かれていると、アニーが睨んだ。
「じょ、冗談だって!」
「デューク君は相変わらずですね。」
マリーナがくすっと笑う。こうして一行はホーンステッドキャニオンへの出発準備を終え、街を後にした。
◇
ホーンステッドキャニオンは切り立った岩山に囲まれた渓谷だった。かつては栄えていた城が廃墟となって残っており、観光名所となっている。しかしそこはモンスターの巣窟と化しており、城の地下深くにはダンジョンがあった。
「うわあ……あそこには理由が無い限りは行きたくないね。」
廃墟を見下ろしながらデュークは呟いた。
「まあ、あそこはともかく、反対側の森にある廃町は迷い混んでも特に危険は無い。迷ったらそこで方角を確認するといい。」
「レオン殿はこの辺りにお詳しいんですね。」
「騎士になる前はこの辺りに住んでたからな。あの町でもいろいろあった。」
「なるほど。」
レオンは昔を思い出して遠い目をしていた。それは勇者パーティーで活躍していたマリーナも同じだった。
(私もあの頃は、純粋にハイラルド君達を守りたかったなあ……)
マリーナも昔を思い出しながら歩き続ける。そうしている内に渓谷の終わりを告げるように巨大な門が見えてきた。
「あれが城下町への門だ。」
「あれが?」
デュークは門を見て驚愕していた。
「デカいな……」
「ここを潜るとすぐ城下町だ。そこから歩いて暫くすると王城だ。」
「王都で過ごしていた時は城下町は毎日見ていましたが、改めて見ると懐かしい気分になります。」
そう言ってマリーナは感慨に耽る。門に到着すると衛兵が声をかける。
「そこの者。止まれ」
「私達は女王様の命で謁見に訪れた冒険者です。」
マリーナがそう告げると衛兵達は互いに目を合わせる。
「確かに冒険者ギルドからそのような通達は来ていたが……」
その言葉と共に、兵士がマリーナ達に手枷を掛けた。
「ちょっ!何するんだよ!」
デュークが抗議するが兵士たちは意に介さない。さすがのレオンも慌てた。
「待ってくれ!俺たちは本当に女王様に来いと言われて……」
「ついさっき来た冒険者の女から忠告を受けていてな。「聖職者の女が来たら、そいつは聖職者を名乗るだけの偽物で、罪を犯し逃げてる」と。」
「なんだと……?」
「そんな馬鹿な!マリーナさんはそんな人じゃないぞ!」
デュークが叫ぶも兵士たちは動じなかった。
「お前達も取り巻きの可能性がある。一度全員取り調べさせてもらうぞ!」
そう言われて連行された一同は王宮の牢獄に放り込まれてしまった。
◇
「一体何故……」
「酷い……」
レオンとマリーナは愕然とした。
「取り調べが終わったら開放されればいいんだけど……てか誰だよ俺らを悪人に仕立てようとかしたやつ。」
デュークが悪態をついた。マリーナは俯きながら呟く。
「私達に妬む人がやっぱりいるのでしょうか?」
「そうなるとあの騎士団長か?いや、だとすれば「聖職者」とだけ言うはずないしな。」
レオンが一人考えていると、マリーナは上を見上げて考えた。
(冒険者の女性と言っていましたが……まさか。)
自分を勇者パーティーから解雇することに賛成していた女弓手のムースを思い出した。そして今回の件はムースの仕業なのではと疑問が浮かんだ。
(いえ。もう他人なのに今更そんなことするはずが……そういえばあの子は今もハイラルド君といるのでしょうか?)
マリーナがそう考えていると、先ほど手枷をかけてきた兵士の一人が慌てて走ってきた。
「あの!レオン様で間違いないでしょうか?」
「ああ。そうだが?
レオンが返事すると、兵士は急いで鍵を開けてきた。
「申し訳ありません!まさか女王様のお知り合いとは知らず、このようなマネを!」
「誤解が解けたならいい。」
レオンに兵士は頭を下げる。
「さっきの話を女王様が聞いていらしたようで。貴方がレオン様なら即刻解放せよと!他のお二人も、申し訳ありません!」
そう言って兵士はレオンの手枷を外した。続けてマリーナとデュークのも外してくれた。
「それなら早速、女王のもとへ案内してくれ。」
「は、はい!」
兵士はそう言うと扉を開けて三人を中に入れた。
「うわー。王族の建物とか初めて見た。」
デュークが感心する。
「デューク君。あまりキョロキョロしないように。」
「はい!」
「それにしても、立派な城だな。」
「ええ。流石はシューニア王家の王城ですね。」
三人は城内の廊下を歩く。城壁や天井などの装飾は美しく彩られており、柱も荘厳な作りだった。
「女王様は現在、応接室でお待ちです。」
「ああ。ありがとう。」
レオンは兵士に礼を言う。
「あの、レオン殿。女王様とは以前お会いしたことがあるのですか?」
マリーナが尋ねる。
「まあ……昔色々とな。」
「へえ~。どんなお人なんだろ?」
三人は階段を昇り、応接室へと向かった。
◇
「ここでございます。」
兵士は扉をノックするとレオンとマリーナに入るよう促した。扉が開き中へ入ると一人の女性が椅子に座って待っていたが、レオンの姿を見るなり、嬉しそうに立ち上がった。
「レオン様!」
女性は黒い長髪を揺らしながらレオンに駆け寄り、濁りの無い青色の瞳で、彼を見てきた。
「お久しぶりでございます。サファイア女王様。しかし俺の事を覚えていらっしゃるとは……」
「はい!その金髪にその曇りなき目は、たとえ二十年経とうと忘れはしません!」
意外そうにレオンに対してサファイアは喜びを隠さず答える。
「レオンさん、本当に女王様と知り合いだったんですか?」
デュークは驚く。サファイアはデュークとマリーナの方を向いた。
「失礼しました。わたくしはシューニア王家の女王、サファイアと申します。」
サファイアが優雅にお辞儀をする。マリーナとデュークも同様に返した。
「私は聖職者のマリーナと申します。」
「デュークです!田舎もんですがよろしくお願いします!」
「よろしくお願い致します。ところでレオン様とはどのように?」
サファイアの問いにレオンが答えた。
「二人は俺と同じパーティーの仲間であります。デュークは後輩で、最近加わりました。」
「そうなのですね!お茶の用意をしますので、良ければこれまでのお話をお聞かせください!」
サファイアはレオンを見て微笑んだ。
「……では、お言葉に甘えて。」
そうして四人はテーブルを囲んだ。暫く他愛も無い話をしていくうちにサファイアはレオンが騎士団を抜けたことを知った。
「まさかそんなことが……」
サファイアは信じられないといった表情を浮かべた。
「今の世もレオン様のような方が居てくれるからこそ平和が保たれているのに……」
「いえ……俺はまだまだ未熟者です。この力を持ってしても多くを救えてはいません。」
「ご謙遜を!レオン様のような方こそ民を導くお方ですわ!子供の頃だって私を恐怖から救ってくださったではありませんか!」
サファイアは昔を思い出しながらレオンのことをべた褒めする。するとレオンの体を見て、「あれ?」と声を出した。
「そういえば、弓はどうしたのですか?」
「あ…」
サファイア弓について質問した。レオンは少し気まずそうに答えた。
「歳のせいでしょうか。三十路過ぎたあたりから、視力が昔に比べて落ちてしまい、矢を外す事が多くなって……」
「そうでしたか……しかしレオン様のその強さは他の武器であっても変わる事はありません。」
「ありがとうございます。」
サファイアは真剣な眼差しでレオンを見る。
「でもレオン様が解雇だなんて…!なんて悪質な騎士団長なのでしょうか!」
「ギルドマスターの息子で。それで俺が注意したら弓も売られた挙句、今に至ります。」
「それでしたら私が王家の特権を使って、騎士団長の即懲戒解雇を……!」
「ご心配いりません。元々腐敗しつつあった騎士団でしたし。それに騎士団長は口車が上手いから貴族達からの信頼も厚い。抗議して女王様の身に何かあったら…」
「レオン様……」
「ところで、我々にお会いしたいというのは?」
「あ!はい!実は折り入って皆さんに頼みがあってお呼びしました!」
サファイアはハッとして話し始めた。
「実は、渓谷の西側に鉱山があるのですが、そこへ働きに行く鉱夫達が「化け物が出る」と言って鉱山に行けないのです。」
「なるほど。あの鉱山は銀が沢山採れますからね。」
「はい。銀はこの王国の財源を担う大きな役割を持っていますので、この状況が続くと国庫の運営に影響が及んでしまうのです。そこでレオン様と皆様に"化け物"退治を依頼しように伺った次第です。」
サファイアはレオンの顔を見て懇願した。
「わかりました。引き受けましょう。」
「ありがとうございます!化け物の詳しい話は城下町にいる鉱夫の皆さんがよく知っていますので、どうか宜しくお願いします!」
そう言ってサファイアは頭を下げた。
「任せて下さい。必ず解決します。」
レオンが答えるとサファイアは満足げに微笑んだ。
「あの!もし解決してくれたら、直接報告しに来てくれませんか?またご一緒にお茶をしたいので!」
「……分かりました。その時は報告しに参ります。」
レオンは返事をして、マリーナ達と部屋を出て行った。部屋を出た後、レオンとデュークはすぐに次の行動に移ろうとしていた。
「まずは城下町に行って、鉱夫たちに話を聞いてみよう。」
「了解!銀が出る鉱山なら褒美も沢山でるんですかね?」
デュークが目を輝かせる一方で、マリーナは僅かに遅れて二人に続いた。その顔にはいつもの笑顔が戻りきっていない。
「……」
先程までの謁見の光景がマリーナの脳裏に焼き付いていた。レオンとサファイア女王の距離は物理的にも精神的にもかなり近かったように思えた。二人の間に流れる空気は穏やかで、互いを信頼し合っていることが感じ取れた。特に女王がレオンに向けていた熱のこもった眼差しと、レオンもまたそれを自然と受け止めているような態度。
(まるで、昔からの恋人みたい……)
自分は聖職者なので、恋愛などは基本的にしてはならない。けれど、レオンとパーティーを組むようになってから感じているこの胸のざわめきは一体何なのか。ハイラルドやかつての仲間たちに対する信頼とは明らかに違う感情だった。
「マリーナ?」
ふいにレオンに声をかけられてハッとする。
「大丈夫か?なんか顔色悪いぞ?」
「えっ?あ、いえ。何でもありません。少し疲れただけだと思います。」
そう答えつつも、内心は別のことでいっぱいだった。
◇
「ば、化け物について!?」
レオン達が町に来るなり急に鉱山の化け物について聞かれた鉱夫は驚愕の声を上げる。それに対してレオンが尋ねてきた。
「ああ。俺達は女王の命で来てな。何か知ってる事があれば教えてもらいたい。」
レオンの話を聞いた鉱夫は少し考える素振りを見せた。
「うーん、俺が見たのは一月程前の事だが……」
鉱夫は渋々話し出した。
「ある日の夕方のことだった。帰り際に鉱山で休憩してた時に坑道の奥から声が聞こえたんだ。最初は鳥か何かが迷い込んだかと思って気にしてなかったが、そのうち何かが這いずるような音が聞こえてきて……」
「それが、化け物の正体ですか?」
マリーナが訪ねると、「そう!」と鉱夫が頷いた。
「それで、恐ろしくて逃げ出したんだが……そいつはタコみたいな形をしていた!足が沢山あって巨大な姿をしたバケモノだった……!」
鉱夫は震えながら言った。
「松明で照らした時に顔がハッキリと見えた!暗い洞窟の中なのにその顔は白く光っていて……おまけに岩石を吐いてくるときた!お陰で坑道は崩れるし、俺らも怖くて近寄れねぇ!」
鉱夫は震える声で話すと、「あんたらも行かないほうがいい!」と言い、去っていった。
「タコ……ですか?」
マリーナは首を傾げる。レオンは顎に手を当てて考え込む。
「うーむ。鉱山に蛸の怪物か……」
「想像しただけで気持ち悪いですね。」
デュークも顔をしかめた。
「勿論討伐する。鉱夫たちのためにも、国の為にも倒さなくてはならない。何より女王も気が休まらないだろう。」
「え?」
レオンがサファイアの事を言うとマリーナは僅かに反応した。
「マリーナ。何か気になる点があるのか?」
「いえ。なんでもないです。」
咄嗟に誤魔化したが、レオンとサファイアの距離感がどうしても気になってしまうマリーナだった。レオンは不思議そうに彼女を見るが、特に追求はしなかった。
◇
「ここが銀が採れる鉱山かぁ。」
暗い鉱山の中をデュークは呪術の火で照らしながら進んでいた。奥の広い空間の先に更に深い場所に道が続いており、そこから鉱山内の空気が抜ける音が聴こえてきた。
「恐らくここが、鉱夫のいう怪物の巣なのでしょうか?」
「そう考えるのが妥当だな。しかし妙だ……」
レオンは坑道を見渡した。
「ここに来るまでモンスターに出遭っていない……」
「ええ、確かに……」
マリーナは辺りを見渡しながら同意する。通常ならば野生動物やゴブリンのような亜人種が棲みついていそうなものだが、全く姿がない。静寂だけが支配していた。
「例のモンスターが強すぎて、他のモンスターが住んでない…なわけないか!」
デュークは自分の発言に苦笑するが、レオンとマリーナは同意した。
「それ程の実力をした化け物がいるなら、相当厄介だな。」
「いつでも回復できるようにしておきますねレオン殿。それと防御魔法も。」
レオンが呟くとマリーナは即座に反応した。鉱山内部はひんやりとした空気に満ちており、壁面には無数の銀塊がキラキラと光を反射していた。
「銀脈のエネルギーが怪物を引き寄せたのか……ぬ!?」
レオンが壁に手を触れると、微かに温かい振動を感じた。
「なんか、近づいてきます!」
マリーナも気配を感じていると、突然奥の空間で巨大な影が蠢いた。
「来るぞ!」
レオンがハンマーを構える。暗闇から現れたのは予想以上に巨大なタコ型魔物だった。頭部は一つ目が歪み、数十本もの触腕が粘液を滴らせながら威嚇するように揺れていた。
「グォオオオオッ!!」
雄叫びと共に岩盤を砕いた触腕が突進してくる!
「散れっ!」
レオンが叫ぶと同時にマリーナは詠唱を開始し、デュークは素早く横に跳び避けた。
「聖なる盾よ!」
マリーナが放った光の障壁がレオンを包み込み、触腕の直撃を受け止める。
「ガシィンッ!」
衝撃波のような魔物の咆哮が坑道全体を揺らし、粉塵が舞い上がる。
「よおし。これでもくらえ!」
隙を突いたデュークが炎の球を魔物の目玉へ叩き込んだ。黒煙とともに悲鳴が轟く。
「効いてるぞ!」
しかし魔物は逆襲に出た。口から溶岩のような液体を吐き出してきた。
「危ないッ!」
レオンが飛び出し、ハンマーを前へ出して防御しながら踏み込む。
「このやろう!」
ハンマーを回転させ、強烈な一撃を狙うが、触腕の一本がレオンの脚に絡みついた。
「ぐっ……!」
動きが封じられると同時に天井から瓦礫が落下し始める。
「レオン殿!」
マリーナが回復魔法を放とうとした。
「うわああっ!」
その直前、デュークが突然出現した大岩に押し潰され、土煙の中に消えた。
「デューク君!?」
「マリーナ!俺よりデュークを助けろ!」
レオンは片手で触腕を引きちぎりながら叫ぶ。
「しかし…!」
マリーナが駆け寄る途中で地響きが激しさを増す。崩落が間近に迫っていた。
「行くしかない!」
レオンはマリーナを抱き寄せると全力で跳躍した。その刹那、轟音と共に岩盤が崩壊する。
「きゃああっ!!」
濛々たる土埃が全てを飲み込んだ。
◇
「マリーナ……大丈夫か?」
意識を取り戻したレオンが耳元で囁く。
「はい……レオン殿のおかげで……」
マリーナは額をレオンの肩に預けながら小さく答えた。暗い穴底に二人は落ちていた。
「よかった……怪我は?」
「ちょっと擦り傷が……でもレオン殿の防御がなければ危なかったです。」
お互いの鼓動だけが聞こえる静寂。瓦礫の隙間からわずかに漏れる光が二人の姿をぼんやりと照らす。
「あっ……ごめんなさい……!」
マリーナはハッと我に返り離れた。至近距離で見つめ合っていたことに今さら気づいたのだ。
「いや……気にするな。それより……」
レオンは照れ臭そうに視線を逸らす。
「デューク君は無事でしょうか……?」
「恐らく……土砂に埋もれたと思うが……」
「すぐに戻らなきゃ……!」
立ち上がろうとしたマリーナの腕をレオンが掴んだ。
「待て。まずは周囲の安全確認だ。崩落で生き埋めになるかもしれない。」
「でも…!」
「落ち着け。ここで動けば二次被害が起きる。」
レオンの冷静な声にマリーナも深呼吸する。
「……はい。」
静寂の中、二人は肩を並べて座った。
「……女王様とどういう関係ですか?」
「…え?」
突然の問いにレオンは驚いた顔を見せる。
「その…今日の謁見で……二人の距離がとても近かったから……」
マリーナの声は微かに震えていた。
「あの方とは……昔馴染みというだけで……特別な関係ではない。」
「そうなんですね……」
安堵したような表情でマリーナは俯く。
「……そんな風に見えたか?」
「…はい。レオン殿が……とても優しい目をされてたから……」
「そうか…」
レオンは沈黙し、しばらく考え込んだあと口を開いた。
「俺は……聖職者のお前にこういう感情を抱くべきじゃないことは分かっている。でも……」
「はい…?」
「お前と一緒にいると心が安らぐ。騎士団を解雇された時や団長との口論での怒りがスッと消える。」
ストレートな告白にマリーナの頬が一気に赤く染まった。
「そんな……わたしも……レオン殿が居るからこそ、私の力も存分に使えるんです……」
涙が溢れそうになるのを必死に堪える。
「お互いに支え合ってるんだな。」
レオンの低い声に胸が締め付けられる思いがした。
「はい。わたしも…」
だがマリーナが喋ろうとした瞬間、再び鉱山内が揺れ始めた。ガラガラと石ころが落ちてくる。
「まずい……何か来るぞ!」
「え?」
すると岩達に紛れて、先程のタコの魔物がこちらの空間に侵入してきた。
「まだ生きていたか……!」
「レオン殿!」
マリーナは咄嗟に回復魔法の詠唱を始めた。しかしレオンは既にハンマーを構えていた。
「ここで終わらせる。」
レオンの全身から闘気が噴き上がる。彼のハンマーが紫色に輝き始めた。
「マリーナ。援護は任せた。」
「はい!ウエポン・エンハンス!」
マリーナが杖を掲げると、白い光が二人を包んだ。レオンのハンマーに眩いオーラが纏われる。
「行くぞッ!」
レオンは渾身の構えを取った。魔物は触腕を振り上げ威嚇する。
「グオオオッ!」
巨大な触腕が鞭のように唸りを上げて迫ってきた。
「ッ!」
レオンはオーラを纏ったハンマーを地面に叩きつけた。
「くらえっ!!」
ハンマーから放たれた衝撃波が坑道を走り、岩盤を砕く。砕かれた岩盤が岩石となって全体に降り注いだ。
「マリーナ!!」
「 光壁《ライトシール!》」
詠唱を終えたマリーナの杖から光の幕が放射状に展開される。岩石が光の結界に跳ね返され、魔物に更なるダメージを与えた。魔物はうめきながら、口から粘液を四散した。
「今です! 」
「おうッ!」
レオンはハンマーを振り上げる。全身の筋肉が隆起し、背中から汗が蒸発する。
「喰らいやがれェ!!」
渾身の一撃! ハンマーは魔物の単眼を直撃した。
「グギャアァァ!!」
断末魔の叫びと共に眼球が砕け散る。黒い血液が天井を焦がす。
「まだだ……!」
レオンはハンマーを地面に突き立てたまま踏ん張る。そして魔物はムクッと起き上がり、巨体を大きく捻った。
「マリーナ! 危ない!」
捻られて遠心力を増した触腕が、マリーナに向かっていた。
「私なら大丈夫です!マグナ・ディフェンス(輝ける大防御)!」
彼女は杖を胸に構え、淡い七色の光を纏う。触腕が激突する直前、攻撃を弾いた光が割れて聖なる波動が炸裂した。魔物の残った触腕が炭化していく。
「レオン殿! 足下を!」
「ああ!」
レオンはハンマーを構え直す。巨大な触腕が鞭のように唸りを上げて、彼に迫っていた。それに対してレオンは迎え撃つように一気に踏み込み、ハンマーを横薙ぎに振るった。凄まじい轟音とともに、魔物の膝関節が砕け散る。巨体が大きく傾き、地響きを立てて瓦礫の上に崩れ落ちた。
「一気に決めるぞ!」
レオンは間髪入れず、トドメの一撃を叩き込もうと駆け出した。
「グオオオオッ!!」
魔物は最後の力を振り絞り、残った触腕を振り回した。
「喰らえぇぇ!!」
レオンの強烈な一撃が、魔物の左側面を直撃する。鉄球と雷撃を混ぜたような衝撃音が坑道を震わせ、魔物の巨体が激しく痙攣した。
「グギャアァァッ!!」
魔物は苦悶の叫びを上げ、残った触腕を無茶苦茶に振り回す。しかし、もはやその動きに先ほどまでの勢いはなかった。レオンは攻撃をかいくぐり、ハンマーを頭上へ振り上げる。
「これで、終わりだッ!!」
最後の渾身の一撃が、魔物の頭部に叩き込まれた。鈍い破砕音が響き、単眼を失った頭部が大きく陥没する。
「グ……ギャ……」
断末魔すら途切れ、魔物の巨体から力が抜けていく。次の瞬間、轟音とともに周囲の岩盤が崩れ、無数の瓦礫が降り注いだ。
「うわっ! まだ崩れるのか!?」
「こちらへ!」
レオンは慌てて後退すると、マリーナも身をかがめながら結界を張り、落石をやり過ごした。やがて轟音が収まり、坑道に静寂が戻る。崩れた岩の下に横たわる魔物は、もう二度と動くことはなかった。
「……やったな。」
レオンはハンマーを下ろし、荒い息を吐いた。
「はい……。レオン殿、お疲れさまでした。」
マリーナが安堵の笑みを浮かべる。
「ああ。マリーナの援護がなければ危なかったな。」
「そんな……。レオン殿が戦ってくださったからこそです」
二人は顔を見合わせ、ようやく緊張を解いた。戦いの余韻と静寂が二人を包んでいた。
「それより今度はデューク君を探さないと!」
マリーナは思い出したように立ち上がり、辛うじて残ってる鉱道を歩きだした。レオンも後に続いた。
「おーい!」
歩きだした時、まさに進もうとしていた道の奥から声が聞こえてきた。そして声が近づいてくると思ったら、デュークが走ってきた。
「デューク!無事だったか!」
レオンが尋ねる。
「おかげさまで!なんかこっちからすごい物音がしたんすけど、例の魔物ですか?」
「ああ。もう倒したけどな。」
レオンが言うと、デュークは安堵の息をついた。
「いやあ、よかったあ!連戦になったらどうしようと思った~。」
「連戦?デューク君も魔物と戦ったの?」
マリーナが聞くと、デュークはとんでもないことを言い出した。
「ムースですよ!アイツが全部仕組んでたんです!」
◇
遡ること二十分前。
「ぬわあああっ!!」
マリーナ達とはぐれたデュークは真っ逆さまに落っこちた後、瓦礫と共に滑り台のような急勾配を駆け下りて、広い暗い空間に落ちた。
「いったたた……」
顎をさすりながら起き上がり、指先から宙に浮かぶ火の玉を生成して明かりにした。やはり古い鉱道のようだが、道は土砂で分からなくなっていた。
「まさか急に土砂崩れとはな……魔物も強襲してくるのは予想外だった。」
「なーんだ、生きてるんだ?」
その時若い女性の声が聞こえた。そして声の主を見つけた時、デュークの表情が固まった。
「ムースか?」
弓を背負った若い女性。かつて勇者パーティーに共に所属していた弓手ムースが天井の空いた所に立ってデュークを見下ろしていた。
「久しぶりね、デューク。」
「お前も土砂崩れに巻き込まれたのか?」
「巻き込まれた?違うわ。仕向けたのよ。」
「なんだと?」
デュークの目が鋭くなる。
「お前が土砂崩れを起こしたのか?」
「ええ。正確には魔物を誘導したんだけどね。」
ムースは冷たく笑った。
「は?」
デュークは意味が分からなかった。ムースは不適に笑う。
「邪魔なのよ。あのおばさんが。」
「まさかマリーナさんの事か?元々邪魔だから追い出したんだろ?」
「……ええそうよ!」
ムースは逆ギレを始めた。
「けどね!あのおばさんをクビにしてからこちとら失態続きよ!」
「何だと?」
「ハイラルドは優柔不断で、ろくに適切な判断出来ないし、代わりの聖職者は見つけてもすぐにやめるし、ギルドからは勇者パーティーの解散命令を告げられるし……」
ムースは舌打ちをする。
「あのババアをクビにしてからこっちは散々なのよ!」
デュークの眉間に深い皺が刻まれる。
「まさかお前、わざと魔物を誘導したのか!?」
「当たり前でしょ。あのババアが邪魔だったから、一緒に始末するつもりだったのに。あんたも運悪いわねぇ?」
「ふざけるな!」
デュークが大声をあげる。
「お前の勝手な逆恨みで、俺たちを危険に晒したのか!だったら素直に戻ってきてくれなりなんなり言えば良かったじゃねえか!」
「嫌に決まってるでしょ?あのおばさんが活躍してる話を聞くのも嫌気がさすの。それだったらまとめて魔物の餌になって貰えばいいと思ってね♪」
ムースは鼻を鳴らす。
「だからこの魔窟におびき寄せて、事故死に見せかけて始末しようと思ってたの。」
「お前!」
「だいたいあのババア、もういい年なのに未練たらしく冒険なんかしてるんじゃないわよ。大人しく年金もらって暮らしてればよかったのよ。」
ムースは冷たく笑った。
「まあでも、もういいわ。こうなったらこの鉱山に埋めちゃおうかしら?」
「お前、何言ってんだよ……?」
「だってここはもうボロボロよ?もしあなたたちが全滅したとしても誰も気にしないわ。むしろ誰かに知られたとしても、誰も廃坑になったら入らないだろうし、それで解決だもの!」
「……!」
デュークは思わず絶句した。
「お前、何を企んでる!?」
「さっき言った通りよ。あのババアを始末したいだけなの。」
するとムースは懐から紫色の玉を取り出し、地面に叩き落とした。割れた玉からは紫色の煙が立ち始めた。
「せいぜい苦しまずに死ねれば良いわね。」
そう言うとムースは天井の穴から出て行った。更には来れないように岩を落としながら。
その瞬間デュークから見て正面の鉱道の奥から物音が聞こえてきた。それはまるでデュークの方に迫ってくるかのように近づいてきていた。
そしてデュークの嫌な予感は的中した。激しい音と共に奥から百足のような鋭い顎を持った蟻の魔物が鉱道を破壊しながら走ってきた。
「ちくしょう!あれは誘導弾だったか!」
魔物の顎を避けながらデュークは戦闘態勢に入った。
「ちっ!この空間では逃げ場がないぞ……!」
デュークは手に火を宿すと詠唱を開始した。
「やるしかない!」
小さな火の玉が魔物に命中したが、硬い甲殻にはほとんど効いていない。
「ちくしょう!普通の火球じゃダメージにならない!」
魔物は鋭い顎を振り上げてデュークに迫っていた。
「くそっ!」
デュークは火を纏った手を横に振り、火の壁を作り出した。だが魔物は構わず突進し、炎を突き破って来た。
「ぐわっ!」
鋭い顎が右腕を掠める。鮮血が舞った。
「くそっ……!思った以上に厄介だ!」
痛みを堪えながら後退するが、すぐ背後は壁だ。
「考えろ……!何か策があるはずだ……!」
魔物が再び突進してくる。
「今だ!」
デュークは突然左手で小さな火球を放った。魔物はそれを避けるため僅かに方向を変えた瞬間、デュークは右手の火を高く掲げた。
「燃え盛る炎よ、集え!」
掌から放たれた熱線が、魔物の頭部を貫いた。
「グワァァアッ!」
魔物が絶叫を上げる。しかしまだ倒れない。
「まだだ!」
デュークはさらに詠唱を続ける。
「炎よ、燃え上がれ!」
渾身の火炎が槍となり、魔物の胸元に突き刺さった。
「ギャアアッ!」
魔物は焼かれながら倒れ、動かなくなった。
「やったか?」
息を整えつつ近づくデューク。しかしその判断は浅はかだった。
「ギュオオオン!」
倒れていたはずの魔物が、突然跳ね起きた。急所がギリギリで外していたのだ。
「しまった…!」
跳ね起きてきた衝撃でデュークは仰向けに倒れた。魔物はその隙に覆いかぶさり、鋭い顎でデュークの胸を狙った。
「それ!」
その時だった。鋭い金属音が、地下空間を切り裂いた。気付くと一人の影が魔物の背後に降り立った。その刹那、その手に握られていた双剣が光った。
「ふん!」
十字に描かれる軌跡。魔物の巨体が縦横に分断される。両断された胴体から噴き上がる鮮血が天井を濡らす。
「えっ!?」
デュークは起き上がるなり目を剥いた。目の前で双剣を鞘に収めたのは長髪の中年剣士。漆緑の衣装に黒いラインが入った装束に身を包んでいる。
「やれやれ……こんなところで死に急いでどうする?」
中年は双剣をしまうとフランクな感じに話しかけてきた。
「助かった。俺はデューク。呪術師だ。」
「フアンだ。」
中年の剣士フアンは腰に下げた双剣の柄に手を添えながら答えた。年の頃四十代半ばといった風貌だが、鍛え上げられた肉体と鋭い眼光が並の年寄りではないことを物語っている。デュークが礼を言うとフアンは肩をすくめた。
「礼はいらないさ。俺も鉱山の話を聞いてやって来たからな。」
「鉱山の話?」
「最近この近くの鉱山で魔物が出没していると聞いてな。一応俺もこの辺りの住民からしたら用心棒みたいなものだし、様子を見に来たんだ。」
「そうか。自分もそうなんだけど。」
「ああ。しかし俺が聞いたタコの魔物ではない。本来なら森の方にいるはずの魔物だった。」
「森の?」
デュークが聞くと、フアンは魔物の死体を見つめる。
「この魔物は森に生息するものでな。ただ、稀に群れのうちの一体が脱走して別の地域に移ることがあるが、こいつは明らかにおかしい。人工的に誘導されない限りは、こんな所に来ないはずだが。」
(じゃあやっぱり、全部アイツが。)
その時、遠くから大きな破壊音が聞こえてきた。それも聞き覚えのある声と共にだった。
「まさか!」
デュークがその声の正体に気づいて声を上げた。フアンも顔をしかめた。
「俺たちの仲間が戦っているのかもしれない!急がなきゃ!」
慌てて走り出すデューク。ところがフアンは顔をしかめたまま立ち止まっていた。
「あんたは?」
「……行ってくれ。あまり聞きたくない声だ。」
そう言うとフアンは背を向けた。
「出口までの道には印を置いとく。それに従って行けば出れる。」
そしてフアンはそのまま暗闇の中に消えていった。
デュークは急いで音のする方へ向かった。
◇
「……という事がありましてね。」
鉱山から出ながらデュークは二人にそう説明した。
「ムースちゃん……まさか私の事をそんなに恨んでいたなんて…」
マリーナは悲痛な表情を浮かべた。
「俺もまさか、逆恨みであんな仕打ちをしてくるとは思わなかった。」
デュークもまた怒っていた。
「次会ったら俺の火で焼き払ってやりましょうか?」
デュークは殺す気満々だったが、マリーナがそれを静止した。
「彼女もかつては同じパーティーメンバーだった人。それに報復は何も生みません。」
「でも、マリーナさんを罠に嵌めたんですよ?!あんな酷い事をしておいて、罰を受けないなんておかしいじゃないですか!」
デュークは納得できない様子だったが、マリーナは優しいまなざしで返した。
「あの子もデューク君より若い。過ちが分からずにやってしまったのかも知れないわ。」
マリーナの表情には、かつての仲間への複雑な思いが滲んでいた。
「それに私達が報復すれば、それはただの泥沼にすぎないわよ。」
「マリーナさん…」。
「確かにムースちゃんの行動には許せないと思う部分もあるけれど……」
マリーナは杖を見つめながら話を続ける。
「あの子も若くて判断能力に欠けていただけなのかも知れない。だから今は、お互い敵意は向けない事にしましょう。そうすればいつかはあの子も自分を見つめ直してくれるから。」
デュークは拳を握りしめながらも頷いた。
「……わかりました。」
「分かってくれてありがとう。」
一方でレオンはデュークの話を聞いてからずっとだんまりだった。それにあまり良い表情はしていなかった。むしろ嫌な記憶を思い出したかのように険しい顔をしていた。
「レオン殿。先ほどから顔色が悪そうですが、大丈夫ですか?」
「……いや。まさかデュークがフアンと会うとはな。」
「ご存知なのですか?」
「……鉱山の件を女王に報告しに行こう。」
「あ…はい。」
レオンが話題をそらすと、そのまま歩き始めた。
(フアンという方と何かあったのでしょうか?)
マリーナは首を傾げたが、とりあえず二人の後に続いて歩いて行った。
◇
「よくぞご無事で!」
三人が城の謁見の間へ赴くと、サファイアが嬉しそうに出迎えた。
「女王陛下。例の魔物は無事討伐しました。」
レオンが報告すると、サファイアはとてもうれしそうだった。
「ありがとうございます。レオン様が引き受けてくれなかったら、どうなっていた事やら…!」
「いえ。マリーナとデュークの活躍があってこそです。」
「謙遜なさらなくていいのですよ。貴方は私にとっては大恩人なのですから。」
サファイアはそう言って微笑んだ。
「いえ、そんな……」
レオンは照れて視線を逸らした。彼の頬が微かに赤くなっているのが見える。それを見ていたマリーナはどこか複雑な顔をしていた。サファイアは微笑んで続ける。
「皆様お疲れでしょうし、もしよろしければ今夜は泊まっていきませんか?」
「いや。流石にそこまで世話になるのは…」
レオンは断ろうとしたが、サファイアはレオンの手を取った。
「お気になさらず。夕食の準備も出来るようにしていますし、他の方の分の寝室も...」
「レオン殿!」
マリーナが突然レオンの手を掴み、強く引っぱった。
「今から全力で帰れば日暮までには街に着けますよ!早く行きましょう!」
その声には有無を言わさぬ強引さがあった。
「おお!?ちょっ……マリーナ!?」
レオンは抵抗しようとするが、意外にもマリーナの力は強く、なかなか振り解けない。彼女の顔は少し赤らんでいた。
「あー……ええと……」
レオンは困ったように視線を泳がせると、サファイアもデュークも苦笑いしていることに気づく。
「じゃ、じゃあ申し訳ありませんが……」
レオンは引っ張られながらも何とか礼を述べた。
「お気にさらず。レオン様のご無事を祈っております。」
サファイアは戸惑いながらも、優雅に一礼する。その瞳には暖かい色が浮かんでいた。
「ちょっとマリーナさん!折角だし泊まっても...」
「何!?」
「いえ何でも無いです!」
デュークは慌てて両手を振った。三人が扉に向かって去っていく姿を見つめながら、サファイアは小さく笑った。
「レオン様。相変わらず元気そうで何よりでした。」
「全くでございます。」
側近が微笑みながら同意した。
「女王陛下……冒険心があった昔と比べて、随分変わられましたな。」
「ええ。それにあの人達と一緒にいる時のレオン様は……なんだかとても楽しそうですわ。」
サファイアの声には、少し寂しさが混じっていた。
◇
「おいマリーナ!」
城を出てしばらく歩いたところで、レオンはようやくマリーナの手を振りほどいた。
「どうしてそんなに慌ててるんだ?日暮まであと数時間はあるだろ?」
「いえ!ほら!暗くなる前に着いた方がいいですし!それにレオン殿が長居すると夜まで飲んで朝帰りになりますし!」
「うぐっ……」
図星を突かれてレオンは言葉に詰まる。
「お前なぁ……」
レオンは溜め息をついた。
「まぁ、構わないが。」
「ほら!早く行きますよ!」
マリーナは再びレオンの手を引っ張る。
「わかったわかった!引っ張るなって!」
レオンはそう言うも、マリーナは手を放す気配がなかった。その姿を見てデュークが呆れたような目を向ける。
「まったく……この二人はいつもこんなんだな。」
彼は肩をすくめると二人の後を追いかけた。こうして三人は賑やかな会話を交わしながら、日の暮れる前に街へと帰還していくのであった。




