夢と、役目を果たすため
皆さま、こんにちは。
久々に帰った実家からこのエピソードを書いています。一度離れてみると、改めて良さに気づかされるものですね。正直帰りたくない…。
まぁそれはそれとして、今後とも頑張っていきますよ。
では、どうぞ。
ケルテに連れられて到着したのは、プレハブで作られた簡易研究室だった。資料や発掘器具が散らかりながらも、重要な遺物だけは厳重かつ丁重に保管されている。そのチグハグな光景は、どこぞの隊長の無機質な司令室とは違う、狂気的なまでの人間らしさに溢れていた。
「時間がありません。早急にブリーフィングを始めます」
ケルテの声で、研究室内の空気が引き締まった。側に数人の研究者が控え、この後の流れを円滑に進める段取りもキッチリ行なっている。グループの長を任されるだけあって、この辺りの段取りは慣れているようだ。
「まずは現状の報告から。これまでで、この遺跡の区画調査は9割方終えています。しかし、最奥の未踏査区画へ踏み込もうとした段階で、突如モンスターの襲撃を受け、撤退を余儀なくされました。……今回我々が依頼するのは、遺跡内に存在するモンスターの排除、及び生態の記録です。」
ケルテが低い声で告げると同時に、数枚の資料を卓上へ放り投げて寄越した。そこには数枚の報告書と手描きの構造図、そしてノイズの混じったモンスターの写真が添付されている。
「これがターゲットです。我々は《リュゴネス》と呼称しています」
「なんだぁコイツは? 亀みてぇな野郎だな」
ボドロが写真を覗き込み、怪訝な顔で吐き捨てる。ケルテはその軽口を意に介さず、冷淡に説明を続けた。
「このモンスターに関して分かっている特徴は二つ。一つは極めて強固な外殻を持つこと。自身の強力な分泌液で周囲の物質を固め、身に纏う習性があります」
「ふーん、でも所詮はハリボテでしょ? 私のこの子なら、一撃で甲羅ごと粉砕してあげるわ」
マヌランが背中の巨大な対物ライフルをぽんと叩く。だが、ケルテは眼鏡の奥の目を不機嫌そうに細め、鼻で笑った。
「外界に生息する通常の個体に限っては、そうです。……ですが、この遺跡内に棲みついた個体では話が変わってくる」
「どういうことよ」
「遺跡は旧時代の技術の集積地です。中には現代の技術体系では解明できないレベルの高度な物質すら転がっている。このリュゴネスは、あろうことかそれらを外殻として取り込んでいるのですよ」
ケルテが側にいた研究員に短く顎で指示を出す。男が奥へ引っ込み、やがて厳重なケースから何かの欠片を取り出して戻ってきた。
「これが、遺跡内で回収されたリュゴネスの外殻サンプルです。……分析の結果、表面強度は旧時代の主力戦車が持つ『複合装甲』に匹敵することが判明しました」
「なっ……!?」
絶句する俺たち。旧時代の戦車といえば、レコンキスタ内でも戦線の絶対的な切り札と呼ばれる兵器だ。歩兵の火器など端から相手にしないその絶対的な防御力を、まさか生身の怪物が身に纏っているとは。
「そして二つ目――このレベルの重装甲を誇りながら、直線における突進速度は時速60kmを記録します。見通しが悪く狭い遺跡内において、これ以上の脅威も存在しないでしょう」
ケルテが端的に言い切る。その解説により、このモンスターの恐ろしいまでの脅威度が明確に理解できてしまった。
「おい、こんな化け物を相手にしろってのか! 戦車と素手で戦えと言ってるようなもんだぞ!」
「そうです。嫌なら何もせず基地へ帰ればいい。……それに、我々も素手で戦えとは言っていない」
側に置いてあった重厚な金属コンテナを、机の上へ乱暴に叩きつけるケルテ。
ロックが解除され、プシューという減圧音と共にうっすらと蒸気を吐き出しながらフタが開く。中に収められていたのは、異様な気品を放つ数発の弾丸だった。
「この遺跡で発見された遺物です。規格はレコンキスタ採用の7.62mm弾と同一――ですが、HEATの性質を持つ、極めて高精度な特殊弾薬です」
「HEAT!? このサイズでか!?」
思わず叫んでしまった。本来なら大口径の戦車砲や対戦車ロケットで用いられるHEAT弾。それを小銃の薬室に収まる7.62mmサイズに凝縮するなど、旧時代の技術であっても並大抵のことではないはずだ。
「この遺跡は、かつて旧時代の兵器開発施設であったと見ています。同種の弾薬もいくつか見つかりましたが、現代で実用に耐え得るのはこの3発だけです」
「……これを使って、コイツを仕留めろってわけね」
「そうです。その上で、貴方がたには生態記録の採集を依頼します。どちらも失敗は許されません。両方の達成をもって、任務完了とします」
「……」
コンテナから、特殊弾薬を一つ手に取って確かめてみる。錆や傷は見えない。本当に使える物を厳選しているようだ。7.62mmとなると、ボドロの短機関銃やマヌランの大口径ライフルには合わない。必然的に自分の出番になるだろう。
手に取った弾丸は、見た目以上にずっしりとした重みがあった。冷たい金属の感触を確かめながら、丁寧に旋盤加工された表面を指先でなぞる。
「……上出来だ。不発の心配はなさそうだな」
薬室内圧の跳ね上がりが少々心配だが、俺の相棒――GeW13なら持ちこたえてくれるはずだ。
「ウィリアム、その弾……あんたの銃で撃てるのね?」
マヌランが横から覗き込んできた。その瞳には、自分の行動で招いた窮地を自らの手で払いのけようとする強い覚悟と、俺への確かな信頼が宿っている。
「ああ。……だが問題は、このたった3発でどうやってコイツを仕留めるかだ」
貴重な弾薬だ。試射する訳にもいかない。だがこれまでに見た兵器と同様と見るのであれば、威力は申し分ない。それでも正面からこの装甲を抜くとなれば、単純な力押しでは不可能だろう。
「作戦なら簡単でしょ」
マヌランは不敵に口元を吊り上げると、巨大な対物ライフルの重いボルトをガツンと力強く引いて見せた。
「私が正面からあいつのバカ硬い装甲を叩き割って、最高の『隙』を作ってあげるわ。ウィリアム、あんたはそこに、特製の弾丸をブチ込みなさい」
「……それなら、外観の解析データから、幾らか装甲が脆いと見られるポイントをピックアップしておきました。ここを狙えば、成功確率は上がるでしょう」
ケルテが淡々と補足資料を滑り込ませてくる。
「なら俺は、囮でもやらせてもらうかね……おい、そんな顔すんなよ。お前らが活躍すんのに俺だけ何もしねぇってのは無しだぜ。それに小柄な俺ならコイツの突撃もお前らより捌けるだろ。心配すんなって」
与えられた情報と手札から、各々が己のなすべき仕事を見出していく。出会って間もない俺たちだが、互いの背中を預け合える代えがたい結束力が、確かにここに生まれていた。
「良いぜ、学者先生。害獣の駆除と記録、きっちり果たしてやる」
「楽しみにしていますよ。……では、早急に準備を。5分後に作戦を開始します」
ブリーフィングが終わると同時に、各自が武器と装備の点検を始める。
今まで夢にも思わなかった、化け物相手の作戦行動。それこそまるで、英雄譚の勇者そのものではないか。
不意に昂る自身の気持ちを抑え、俺は愛銃のボルトを引いた。
ご拝読、ありがとうございました。
明日からバイオハザードの新作映画が出るらしいですね。めちゃくちゃ楽しみです。辛いとき、忙しいときにこそ、趣味は大切にしていきたいです。
では、また会いましょう。




