立ち塞がる、幻想(かいぶつ)
皆さま、こんにちは。
最近、納得が行くクオリティと、皆さまをお待たせしないための期日、これのバランスで常に苦悩しております。どっちが欠けても拝読して頂く皆さまへの失礼に当たると思っていますので。
では、どうぞ。
ブリーフィングを終え、俺たちはケルテの先導に従いながら、遺跡のさらに深き深淵へと足を踏み入れていた。未知の領域を足元から探索するのは男の好奇心をくすぐられるが、これが命を賭した依頼であるという冷徹な事実が、胸の奥を複雑に締め付ける。
「……なぁケルテ、モンスターが発生した理由は何なんだ」
静寂を払うように問いかけると、前を歩くケルテは足を止めることなく、淡々と応じた。
「不明です。我々の間でも、自然発生説、旧時代の生物兵器説、あるいは原生生物がマナによって変異した説など、何一つ定まっていません。……ですが君たちは今日、その真実に至る第一歩を踏み出せる。全く羨ましいかぎりですよ」
振り向いたケルテの顔は、抑えきれない探求心で狂気的に歪んでいた。戦場で何人も殺してきた生粋の兵士なんかより、よっぽど背筋が凍りつくような表情だ。
「……着きました。このゲートから先が、奴のテリトリーです」
ケルテが壁面のスイッチを押し込むと、重厚な鉄の扉が重音を立てて左右へ滑り出した。
開かれたゲートの先は、ライトの光すら吸い込む完全な漆黒。ここがこの世とあの世の境界線だと言われても、容易に納得できてしまうほどの圧迫感があった。
「私が案内できるのはここまでです。重要な遺物はすでに退避させてありますので、どれだけ派手に暴れてもらっても構いませんよ。……そうそう、最後にこれを」
ケルテが差し出したのは、小型の機械であった。アンテナが突き出ており、ケルテの羽織るコートのポケットにも、同じ物が入っていた。
「トランシーバーというものです。我々とやり取りするときにお使いください。因みに、撤収作業も並行して進めますので、もし任務に時間がかかり過ぎた場合は捨てていきます。お忘れなきよう」
事もなげに告げると、重厚な鉄の扉は容赦ない金属音と共に閉じられた。
背後で退路が完全に断たれ、暗闇の中に遺されたのは、俺たち三人のかすかな息遣いと孤独な残響のみ。
「チッ、あの野郎好き勝手言いやがって。……さて、逃げ道は完全に塞がれたぞ」
「上等よ。さっさとあのカメをぶっ潰して、地上へ帰るわよ」
マヌランが対物ライフルのレシーバーを静かに叩く。
「よっしゃ、じゃあ手筈通りに行くとしようぜ。俺が先行するから、お前らは少し距離を開けてついてきてくれ。……足元、気をつけてな」
ボドロが短機関銃を低く構え、暗闇の中へと滑り込んでいく。
俺とマヌランは互いに頷き合い、愛銃の感触を確かめながら、その背中を追って深淵の闇へと歩を進めた。
ブリーフィングで見せてもらった内部の構造図は、まるで迷路のように通路が張り巡らされていた。しかしボドロは真っ暗闇というハンデを抱えても尚、耳と鼻で通路を迷いなく進んでいく。俺たちも、ボドロが辛うじて見える距離を維持しながら、深淵の中を進んで行った。
「本当に何も見えないな…ライトが無ければ進むこともできねぇ」
「森の時もそうだったけど、案内に関しては天才的よね……バカだけど」
「バカは余計だバカは。とにかく、何も無ければこのままお前らをキルゾーンまで連れて行く。」
「頼む」
いつものやり取りを交えながら、ひたすら闇を切り裂いていく。というのも、時折ライトに照らし出される凹んだ壁や、床に滴る分泌液、『ナニカ』が暴れた跡、そういったものが、これから相対するモンスターへの恐怖心を煽っていたからである。何もしなければ、そのまま呑まれてしまいそうだった。
遺跡内の行動を開始して5分ほど経っただろうか。
俺たちは依然としてキルゾーンを目指して歩いていたが、突然ボドロが足を止める。ドリュアスと遭遇する前と同じ、耳と鼻に集中する姿勢だ。
「……来やがったのか」
「あぁ。200m前方の十字路、左だ。1分後に会敵する」
1分後。周りは何も怪しい気配等見当たらないが、ボドロの感覚は折り紙付きだ。このまま進んでいれば、横っ腹を時速60kmで轢かれる羽目になっていたと考えるとゾッとする。
「よし、ここで分かれるぞ。ウィリアムとマヌランは迂回してキルゾーンで待機しとけ!俺は予定通りアイツを引き付ける!」
「必ず連れてきなさいよ!ミスったら承知しないから!」
「おう!楽しみに待っとけ!」
短いやりとりの後、ボドロは深淵の奥に駆け出していく。その僅か数秒の後、俺たちの足元にある石ころがカタカタと振動を始めた。そこから更に数秒の後、戦車の様な地響きが奥から聞こえ始める。
そしてとうとう、顔を出したものは――
「ヴオオオオオオオオ!!!」
伸びた首に赤い目を血走らせる、装甲の化け物。
《リュゴネス》であった。
リュゴネスは勢い余って壁に激突した。壁が凹み、地震の様な揺れが襲うものの、少し首を振っただけで、ダメージを負っている様子は微塵もない。
「ウィリアム何やってるの!早く立ちなさい!」
すぐに移動しようとするが、さっきの揺れのせいで体勢を保てない。おまけに、モンスターの威容に対する本能的な恐れが、立ち上がることを困難にしていた。
リュゴネスがこちらを向く。俺を狩りやすい『獲物』として認識したようだ。しかし直後、軽い発砲音がリュゴネスの奥から聞こえてくる。
「こっちだ化け物!そのナリして冗談みてぇな早さしてんじゃねぇぞボケが!」
リュゴネスを挟んで向こう側に居るボドロが、囮の役割を果たさんと必死に怒声を張る。戦車並の装甲に短機関銃など微塵も効きはしないが、高速で放たれる銃弾の雨は、自分に対して向けられた『殺意』を認識させるのには十分だったようだ。リュゴネスは改めてボドロの居る方向へ向き直し、叫声を上げながら闇に消えていった。
「ハァ……ハァ……! 助かった、サンキューなボドロ……!」
去っていく重雷鳴のような足音を見送りながら、俺は膝の震えを力任せに抑え込み、地面を蹴って立ち上がった。命拾いした安堵と己の情けなさに息が荒ぐ。
「ぼさっとしないの! あいつが連れてくる前にキルゾーンへ入るわよ!」
マヌランに背中を強く叩かれ、俺たちは死に物狂いで迂回路を駆け抜けた。
拝読頂き、ありがとうございました。
投稿を投げ出すことは万一にもあり得ないのですが、投稿が長くなる(1週間〜2週間くらい?)のと、期日を少しでも早くする(2日くらい?)だと、皆さまとしてはどちらが良いのか。
見られる側の人間として気になるところです。今後とも、両方を達成できるよう精進していくつもりですが。
では、また会いましょう。




