立ち向かった、その先に
皆さま、こんにちは。
気づいたら、一話を投稿してから3週間近く経過してました。正直ここまで書き連ねられると思ってなかったです…。今後とも引き続き、皆さまのご期待に応えられる投稿に努めてまいります。
では、どうぞ。
セーフハウスに逃げ込み、幾許かの時が経った。
俺たちは時折聞こえてくる鈍い衝撃音を他所に、長くなるであろう夜を思い思いに過ごしていた。俺はご無沙汰だった愛銃(GeW13)の手入れを、マヌランは変わらず身体のメンテナンスを、ボドロはまだ快復していないようで、簡易ベッドで横になり荒い息を吐いている。
「あの野郎、まだ諦めねぇのかよ。本当にこっから出れるんだろうな?」
「大丈夫よ。アイツは夜行性なの。朝になったら大人しくなるわ……ねぇ」
マヌランが、オイルの染み込んだ布で羽の手入れをしながら、静かに俺を見つめてくる。
「ボドロを助けてくれてありがとう。まさかあの場面で、あいつを担ぎ上げて逃げ切るなんて思わなかったわ」
「良いんだよ。俺が友人を見捨てたくなかっただけだ」
確かにネガティブな感情が頭を過ぎらなかったわけではない。だが今は、三人が生きてここに揃っていることに何よりの達成感を感じていた。
「友人……か。そんな青臭いことが言えるのなら、ソロが目をかけるのもむべなるかな、ってところね」
マヌランが苦笑で返すのと同時に、ボドロがベッドからゆっくりと身を起こした。
「そこは俺からも礼を言わせてもらわねぇとな……それから、謝罪もだ」
「あぁ…謝罪?」
ボドロからの感謝に短く返したものの、続く言葉に俺は違和感を覚えた。
「別に謝ることじゃねぇだろ。俺も助けてもらったんだからよ」
「いや、そうじゃない。……今回の任務、実はお前に隠していたことがある」
ボドロは痛む胸を押さえながら、重々しい口調で告げた。
「私達、隊長から命令を受けていたの。『あの新入りはスパイの可能性がある。もし怪しい動きがあれば事故に見せかけて殺せ』ってね」
「何だと……!?」
カチャリ、とGeW13を磨く手が止まる。マヌランの言葉が信じられず、俺は息を飲み込んだ。
「お前、基地を出る前に周りから笑われてただろ。あれは補給任務が、新入りを始末する口実で使われてきたからだ。お前は本来、殺されるためにここへ来たんだよ」
衝撃の言葉だった。憧れていた英雄は、俺を使うどころか、殺すために送り込んだのだという事実に、俺は思わず天を仰ぎ、言葉を失った。
「けど……ここまでのあなたの行動で、その必要は無いと判断した」
「あぁ。それに隊長からの命令の後、俺はソロに言われたんだ。『彼はこの部隊の希望になり得る。どうか見守ってほしい』ってな」
ボドロが少し気恥ずかしそうに鼻を擦る。なぜソロがここまで俺に気を遣うのかは分からないが、少なくとも二人からの信用は勝ち得たようだった。
「そんで、ソロからはもう一つ伝言を預かってる。『もしお前が信用に足ると判断できれば、俺たちだけが使う部隊名――《ヤスカヤ支隊》について話せ』とな」
ヤスカヤ支隊。昼間の小休憩のとき、ボドロが口にし掛けたのが記憶に新しい。
「その部隊名が、証明になるのか?」
「この名前は仲間内でしか通用しないの。知っているだけで部隊の一員として認められた証明になるわ。それをこのバカは口走りかけたってわけ」
マヌランが呆れたように語る。ボドロが言い返そうと胸を張ろうとしたが、身体に障ったのか顔を顰めてベッドの縁へ戻った。
「まぁ、そういうことだ。だが……この部隊名を語るなら、俺たちのルーツも話さにゃならん」
そう言うと、ボドロは着ていた胸当てを外した。鬱蒼と生い茂った体毛がコボルト属の特徴だ。だが、ボドロの胸元には一部だけ、痛々しく毛の生えていない皮膚が剥き出しになっていた。
「この傷は、戦争で付けられた物じゃない。俺の同属、ファンタジスタの連中に付けられた物だ」
ボドロが淡々と語り始める。感情を込めまいとする思惑がヒシヒシと伝わってきた。彼自身にとっても、触れたくないトラウマの思い出なのだろう。
「ファンタジスタは亜人属によって築かれたユートピア……そんな幻想を抱いてる奴は少なくないが、そんなわけがない。あいつらは、魔法が使えるかどうかだけで扱いを変えるクソどもばかりだ」
ボドロの拳がぎゅっと握りしめられる。
「俺は魔法を使えなかったせいで、村の連中からいつも嫌がらせを受けていた。それがどんどんエスカレートしていって、最終的に面白半分で火炙りにされたよ」
ボドロの全身から滲み出る、激しい憎しみと悲しみ。マヌランもまた、静かにそれに同調する素振りを見せる。
「こんな所はもう嫌だと、命からがら逃げ出して、ほうぼうの体でレコンキスタに転がり込んだ。ヒト属は魔法を使えねぇ。それなら俺も受け入れてくれるはずだってな」
「でも、そうはならなかった」
今度はマヌランが静かに引き継いだ。
「人間は私達を同じ存在として認めなかった。奴らは私達を、化け物かペットとしか見なかったのよ」
「逃げ込んだ先も地獄でしかなかった……そんな絶望の中、いつ死ぬかも分からねぇ突撃任務に就いていたとき、隊長に出会った」
「嬉しかったな……これまで一度もまともに扱われず生きてきた私達に、尊厳を持った存在として接してくれたの」
感慨に耽るマヌラン。それだけで、ここ《ヤスカヤ支隊》が彼らにとってどんな場所であるかが分かる気がした。
「ヤスカヤの意味を知ってるか? 旧時代、ここより北に存在した国の言葉で《わが子》を意味するそうだ」
ボドロの言葉に力が入る。その言葉が持つ意味に誇りを持っていることがアリアリと伝わってきた。
「確かにあの人は冷徹だ。ヘマすりゃ容赦なく殴られるし、俺たちから見てもどうかと思うことだってある」
「それでも……私達を救ってくれたのはあの人なの。今回の任務は悪いところが出たのね。代わりになるかは分からないけど、謝罪させてもらうわ」
「お前は俺たちの信頼を勝ち取った。もし今後何か言われることがあれば、絶対に守ってやるさ」
二人の言葉を受け止め、俺は手元にあったGeW13のボルトを滑り込ませた。カチャリ、と重厚な金属音が狭い室内に響く。
隊長に対する複雑な感情は拭えない。だが、目の前にいる二人の不器用な眼差しには、一切の偽りもなかった。
「……謝る必要はないさ」
俺は機関部を組み上げた愛銃を足元に立てかけ、二人を順番に見つめ返した。
「俺だって、友人を失ったただの生き残りだ。ファンタジスタだのレコンキスタだの難しいことは知らんが……命を預け合える仲間を裏切らないことくらいは知ってる」
そう言いながら、俺はポケットからメモを取り出し、頭の中の想いをそのまま書き出していた。
「おい、何してやがる」
「今日の出来事を余さず記録してやるんだ。モンスターとの遭遇に、頼れる仲間! 物語の題材としては最高だろ」
俺の行動にしばらく呆気にとられていた二人だったが、やがて腹を抱えて大声で爆笑し始めた。
「ハッハッハッ! こいつぁ良い! 物語かよ!」
「フフフ、あなた本当に面白いわね。でも、せっかく書くなら私は大活躍させて頂戴」
俺の記録に話の花を咲かせながら、セーフハウスでの一夜を過ごす内に、いつしか俺たちは、心地よい疲れの中で眠りに落ちていた。
――次に俺が意識を取り戻した時には、入り口の隙間から眩しい光が差し込んでいた。ボドロとマヌランは既に身支度を整え、いつでも出られるといった塩梅だ。
「おはよう、お寝坊さん」
「よう、ウィリアム。目的地まではすぐだ。昨日の遅れを取り戻すぞ」
こちらへ投げかけられる言葉から、昨日までの鋭いトゲは完全に消え去っていた。その上――
「……あぁ、行こうぜ」
名前を呼んでくれたということに胸の温もりを感じながら、俺は愛銃を力強く掴み上げ、新たなる旅路へ向けて立ち上がった。
拝読頂き、ありがとうございました。
実は最近、キャラクターが勝手に動くというのを体感し始めてます。中学生の時からずっと体験したかったことが実現できてとても嬉しい。今後も頑張っていきます。
では、どうぞ。




