獣は進み、翼は舞う
皆さま、こんにちは。
本格的に物語が始まって2話目となりました。まだまだ書きたいものが多すぎる…でも始まったばっかりなんですよね。焦らず地道に頑張っていきます。
では、どうぞ。
ゲートを抜け、二人に連れられるまま目的地へと足を踏み入れる。昨日は生きて辿り着くことだけに必死で周囲に気を配る余裕もなかったが、基地の外には鬱蒼とした原生林が広がっていた。日光を遮る巨木の間を、コボルトは鼻をひくつかせながら、素人目には判別もつかない獣道を当然のような顔で突き進んでいく。
上空ではハーピーが羽音を殺しながら木々の隙間をすり抜け、周囲を警戒していた。
「すごいな、こんな所を平然と進んでいけるのか」
素直な感嘆が口をついて出た。
「ふん、俺たちにとってはできて当たり前だ。ひ弱な人間と一緒にすんじゃねぇよ」
相変わらず差別的な物言いだが、ピンと立った犬耳や心持ち上がった顎を見るに、褒められたこと自体は満ざらでもないらしい。あきらかに口調が弾んでいる。
「なぁ、名前を教えてくれないか。お互い思うところはあっても、同じ泥を啜る部隊の仲間だろ? 俺はウィリアム=エイムだ」
「俺はボドロだ。上のトリ女はマヌランってんだ」
己の胸を親指で指し、次いで頭上を旋回するハーピーを示しながら言った。
「ちょっとボドロ! 勝手に人の名前教えないでよ!」
直後、頭上から滑空してきたマヌランのかぎ爪状の足が、ボドロの頭を容赦なく蹴り飛ばした。突風と共に土煙が舞う。
「イテッ! てめぇ何すんだ! 名前くらい教えたって減るもんじゃねぇだろ!」
「減るのよ、あたしのプライドがね!」
痛そうに頭を押さえるボドロと、木々の枝に降り立って羽を苛立たしげに整えるマヌラン。
……なるほど、あっちもあっちで一枚岩というわけではなさそうだ。呆れながら二人のやり取りを眺め、俺はGeW13を肩に担ぎ直した。
ボドロの先導で道なき道を進んではいるものの、舗装されていない泥道は予想以上に体力を奪っていく。ただでさえ昨日の行軍で痛めていた足腰が、早くも悲鳴をあげ始めていた。
「どうした人間。もうリタイアか?」
「アンタにもこんな羽根があれば良いのにね」
ニヤニヤとこちらを見てくるボドロとマヌラン。先導という、体力も精神も削られる役割を背負ってなお息切れしていないボドロと、そもそも飛行というアドバンテージを持つマヌラン。なるほど、これだけの身体能力差があれば、ヒト属を卑下してくるのも分からないでもない。
「大丈夫だ、まだまだ行ける……! ほら、先導に戻れよ」
舐められまいと必死に強がる。だが、このまま行けば遠からず倒れるだろうというのは、誰の目から見ても明らかだった。
「何強がってんだ馬鹿野郎が。……ちょうど昼時だ。ここまで来れば小休憩しても十分間に合う。マヌランもそれで良いな!」
「文句ないわよ。あたしも身体をメンテナンスしたかったし」
マヌランは鼻を鳴らすと、周囲を見渡せる太い大木の上へとふわりと舞い上がり、ライフルを膝に抱えて腰を下ろすと、そのまま羽を弄り始める。誇示するだけあって、手入れも怠らないようだ。
ボドロは古びた樹根の脇にドカリと座り込み、サブマシンガンを幹に立てかけると、懐から干し肉の塊を取り出した。俺も巨木の幹に背をもたせかけるようにして崩れ落ち、荒い息を整えながら水筒の水を口に含んだ。泥と汗でカサカサになった喉に、冷たい水が染み渡っていく。
「すまねぇ、初めての任務で足を引っ張っちまってる」
「チッ、全くだぜ。ソロの頼みじゃなきゃこんなことしてねぇぞ」
「ソロ……? あの仮面を被ったエルフか?」
昨日の行軍を思い出す。最終的に納得してもらえたものの、首筋にかかったあの重苦しい圧力……今でも背筋が凍りつく。
「あぁ。今日ゲートへ行く前に、ソロから『お前を頼む』って直々に言われてんだ。今回の任務の期限だって、アイツの口添えでわざわざ余裕を持たせてあんだぜ」
「……あり得ないわね」
上空の枝から、マヌランが手を止めて眼下を見下ろしてきた。その瞳には、明らかに怪しむような色が浮かんでいる。
「あの冷酷仮面が、新入りの人間をそこまで気にかけるなんてあり得ないわよ。アンタ、一体何したの?」
「何をした、と言われてもな……」
俺は苦笑交じりに首を振り、冷えた水筒の水を一口含んだ。
若干引きつっていたであろう笑いを交えつつ、俺は昨日の出来事をポツポツと語った。死線を潜った塹壕戦、友人の死、クライフたちとの出会い、過酷な行軍……。
気が付くと、ボドロは干し肉を食べ終え、こちらの話にのめり込んでいた。
「へぇ、ただくっついて来た訳じゃないのね」
羽の手入れを終えたのか、脚の鉤爪を木に擦り付けながらマヌランが言う。
「あぁ。持ち物はコイツとハンスのドッグタグだけだし、道中ボロクソに叩かれたが……それでも俺は、ここに来れて良かったと思ってるよ」
「とんだもの好きも居たもんだぜ。この《ヤスカヤ支隊》に志願なんてな」
「ヤスカヤ支隊? 独立義勇軍じゃないのか?」
「さ、休憩は終わりだ。行くぞ」
それ以上の追及を遮るように話を切り上げられ、ボドロが立ち上がる。俺たちは再び銃を握り直し、深緑の暗がりの中へと歩き始めた。
ご拝読ありがとうございました。
物語はまだまだ始まり、どうぞ次をお待ちくださいませ。
では、また会いましょう。




