二章:地を抜け、物語を踏めしめて
皆さま、こんにちは。
今回から第二章開始です。部隊と合流した主人公の新たな、苦難、そして冒険が始まります。
プロローグから見てくださった皆さま、そしてこれから見てくださる皆さま、どうかよろしくお願い致します。
「起きろ、ゴミ」
目覚めは唐突だった。水気を伴った鈍い衝撃が脇腹を直撃する。昨日の強行軍で激痛の残る身体が、容赦なく覚醒させられた。
「んがっ……!」
情けない悲鳴と共に目を開けると、冷ややかな視線を下ろすベルの姿があった。
「隊長からの命令よ。すぐ執務室に集合」
それだけを言い捨てると、硬い軍靴の音を響かせて背を向けた。昨日のやり取りで、完全に突っぱねられたらしい。
「あぁクソ……いてぇな」
悪態をつきながらも立ち上がり、GeW13とハンスのドッグタグを手に取ると、そのまま執務室へと向かう。
ノックもそこそこに執務室のドアを押し開けた瞬間、視界が激しく揺れた。
金属が重く鳴り響く鈍い打撃音。頬に鉄塊を叩きつけられたような灼熱の激痛が走り、俺は床へ倒れ込んだ。
「入隊早々に遅刻とは、いい身分だな。部隊に支障を出すような奴は要らん」
視線を上げると、そこにいたのは執務室という場にそぐわない、頭から足先まで白銀の鎧に身を包んだ――隊長だった。
兜の後ろから覗く、冷ややかな視線だけが俺を見下ろしている。室内だというのに、この男は鉄の皮膚を脱ぐ気すらないらしい。
だが、拳を引いた隊長の言葉は、全くもっての正論だった。視界の端で赤くなった拳を見ながら、俺は即座に直立不動の姿勢をとる。言葉ではなく、一兵士としての従順さを全身でアピールするためだ。
「……まぁいい。では貴様に第一の任を与える」
英雄からの、最初の任務。これまでの経験から過酷なものになることは容易に想像できた。何を命じられても耐えられるよう、自然と身体が強張る。
「貴様の任務は物資の受領だ。指定する地点に赴き、ここまで持ってこい」
昨日の時点で最前線への派遣はないと分かっていたが、まさかの物資補給。想像よりも遥かに簡単そうな内容に、自然と肩の力が抜けた。
隊長が無造作に紙を投げて寄越す。あたふたとしながら空中で受け取り広げてみると、それは一通の受領書であった。
「……ムセイオン?」
聞き慣れない単語が、思わず口をついて出る。
「旧時代の遺跡調査を目的とした民間団体だ。俺たちは奴らに協力することで、物資の優先供給を受けている」
確かにレコンキスタの装備には旧時代の遺物が少なくない。長年の疑問だった調達ルートのカラクリが、ようやく腑に落ちた。
「奴らは偏屈だ。その受領書がなければ話にもならん。そこに名前を書いて持っていけ」
机に転がるペンを指され、言われるがまま書類の末尾に署名する。インクが滲む紙面を見つめながら、隊長が鼻で笑った。
「ふん、ウィリアム=エイムか。覚えにくい名前だ。せいぜい受領した死体袋の数を減らさずに帰ってこい」
悪態を呑み込み、部屋を後にしようとして、ふと足を止めた。
「すまない隊長。死んで帰るハメになる前に、アンタの名前くらい教えてくれ。死人に口なしってのは勘弁だ」
隊長が鬱陶しそうにため息をつく。
「……そう言えば名乗っていなかったな。ニコフ=クライフだ。上司の名前くらい墓場まで覚えておけ」
執務室を出て、巨大なゲートへと向かう。すれ違う連中の視線が変わっていることに気づいた。昨日のような剥き出しの殺意ではなく、死体を見るような憐れみと嘲りに。
「おい、聞いたか。アイツ、遺跡に派遣されるんだとよ」
「来て早々、ツイてねぇな」
「 アイツが帰ってくるかどうか、タバコ一本賭けようぜ」
背中に突き刺さる陰口を無視し、肩に掛けたGeW13のストラップを握り直す。ただの物資補給に行くだけのはずだ。なぜこれほどまでに疫病神扱いされるのか。
――この時の俺は、何も分かっていなかった。
『物資受領』という言葉の裏に隠された真意を、この後、身をもって知ることになる。
ゲートの前まで来たところで、頭上と低い位置から同時に声をかけられた。
「おい、そこの人間」
声をかけられ振り返ると、そこには二人の亜人属が居た。
一人は、湿った汚い毛並みに使い古された革の胸当てを巻き、旧時代の物であろう使い込まれた短機関銃を抱えたコボルトの男。
もう一人は、頭上に航空帽をかぶり、その華奢な体に不釣り合いな大口径ライフルを背負ったハーピー属の女だ。俺を下に捉えながら、頭上で嫌みたらしく羽ばたきを繰り返している。
――互いの技術を憎み、絶滅戦争をしている真っ只中でのこの組み合わせは、新鮮さを通り越して一種の狂気にすら思えた。
「テメェか。昨日隊長にへこへこ付いてきた金魚の糞は」
「本当に取り柄のない身体……相変わらず貧相ね、人間ってのは」
出会い頭の侮辱。あからさまな威嚇だが、昨日の殺気立った問答に比べれば犬の遠吠えレベルだ。冷ややかな目で見返す。
「なんとでも言え。こっちは隊長から直々に許可をもらってんだ。お前ら如きの戯言に付き合ってる暇はない」
ハッタリ混じりの強気な態度。こういう粗暴な集団で一度でも怯みを見せれば、一生舐められ続けるのは嫌というほど学んできた。案の定、コボルトが苛立たしげに牙を剥き、鼻を鳴らした。
「チッ……反抗的なゴミめ。まぁいい、俺たちは今回ムセイオンへ同行する護衛だ。受領書はあるんだろうな?」
ポケットから隊長に書かされた紙を見せる。
「よし、ならすぐに出発するぞ。――夜になると、このエリアは色々と《ヤバい》からな」
拝読頂き、ありがとうございました。
ファンタジーと科学(現実)の比率を調節するのがかなり難しいです…魅力的なキャラクターはいっぱい設定できているだけに、そこを崩さないように頑張りたいです。




