長女と次女と三女
「やったね、アリサちゃん。妹が出来ました~」
「よろ」
家に帰ったら、家族が増えていた。
何この展開。意味が分からない。
目の前には笑顔でパチパチと拍手するお袋と、無表情のまま両手の人差し指で自分の事を指差し、「私、妹、可愛い妹」と妹アピールしているリーゼの姿がある。
もう一度言おう。何この展開。 意味が分からない。
「えっと、何でリーゼさんが私の妹になってるの?」
「う~ん。リーゼちゃんが、家の子になりたいっていうからかな?」
「それで、OKしたの?」
「うん、アリサちゃんの友達なら良いかなぁって」
笑顔で何を訳の分からないこ事を言ってるんだこのお袋は。
「……まぁ、別に良いけど」
しかし、相変わらずのお袋の常識の無さに辟易としながらも、俺も姉を拾ってきてしまった手前、ポンポンと家族を増やすなとは言えず、渋々ながらリーゼが妹になることを承認する。
今日会ったばかりなのに、いきなり妹になりたいとか言うなんて、一体何を考えているんだか。近いうちに、しっかりリーゼと話をした方が良いかもな。それと、クロードさんにも報告しないと。ハァ……これ以上厄介事は勘弁して欲しいんだけどなぁ。
「それでぇ、後ろの子はだぁれ?」
お袋が覗き込むようにしながら見るの俺の背後には、未だに背中に隠れるようにして張り付いているセレニアの姿。
セレニアを前に出そうとして移動しようとするが、ぴったり背後にくっついてきて離れない。
クロトと話し終わって、家に入るまでは普通にしてたのにどうしたんだ一体。
「いい加減、離れてくれませんか?」
「い、いや、だって心の準備が……」
心の準備って……えっ、もしかしてコイツ、マジの人見知り? 俺とあんだけ普通に喋ってるのに?
「あー、ごめん、お母さん、リーゼさん。ちょっと待ってて」
「ん? うん、良いよぉ」
「行ってら」
笑顔と無表情で見送る二人に背を向け、俺はセレニアの手を引っ張って、一度外へと出る。
「お前、マジで人見知りなのかよ。あんなにバカなのに」
「うぐっ、し、仕方無いじゃない。私が、何百年ボッチやってたと思ってんのよ! ていうか、別にバカは関係無いじゃん!」
「いや、知らないし。つうか、俺とは普通に喋ってんじゃん」
「それは、10年かけて心の準備と数億パターンにも登る会話シュミレーションを考えたからよ」
「シミュレーションな」
「うっさい!」
果たしてそれは胸を張ってまで誇ることなのだろうか。
ていうか、そのシミュレーションの結果がラノベを参考にすることなのか。やっぱりコイツの思考回路は理解できん。
「もしかして、俺を転生させるときに色々と失敗したのも内心テンパってたせいか?」
「……」
目を逸らした。図星か。
初めて会ったときの事を思い返してみても、そこまでテンパってるようには見えなかったけどなぁ。バカには見えたけど。
しかし、それを隠し通していたとすると、もしかしてコイツ、意外と演技派だったりするのか? ……いや、無いか。バカだし。
「ハァ……此れから一緒に暮らすんだから、せめてあの二人とは普通に会話できるようになって貰わなくちゃ困るんだが」
「私は別に、アンタとだけ会話出来ればそれで良いし……」
「お前が良くても、俺が気にするんだよ」
「……善処するわ」
セレニアはそう言うが、相変わらず目は逸らしっぱなしで信用できない。
まったく、此れから仕事もさせなくちゃいけないのに、まさかコイツがマトモに会話できないくらいの人見知りだったなんて……先が思いやられるなぁ。
「ただ……」
「ん?」
「あのリーゼって子は無理」
「何で」
「分かんない。けど、生理的に何か無理」
「なんだそりゃ」
そう言うセレニアは、顔をしかめて本気で嫌そうにしている。
理由は分からないらしいが、まぁ、人間誰しも一見しただけで自分と合わないな、と思う人間は居るだろうし、元が赤の他人同士である以上、これから家族になるんだから仲睦まじくしろ、とは言わないが……
「まぁ、別に本当の姉妹のように仲良くしろとは言わんが、喧嘩はするなよ? もし喧嘩するんだったら二人とも追い出すからな」
もし喧嘩なんか始まったら、先ず確実に俺に被害が行くだろうし、それは勘弁して欲しい。只でさえ、肉体的に此れからキツくなるんだから、それに加えて精神的なキツさも加わったら間違いなく死ぬ。いや、普通に肉体的なキツさだけで、死ぬ可能性もあるけど。
「ふんっ、それは向こうの努力次第ね」
「いや、お前も努力しろよ」
「私はね、努力って言葉が一番嫌いなのよ! だから--「あ゛?」--努力します」
「よろしい」
セレニアは目に涙を浮かべながらも首を縦に振る。
それを確認した俺は、セレニアの手を引っ張って、再び家の中へと戻った。
「おかえり~」
「おか」
「ただいま」
相変わらずホンワカとした笑顔を浮かべたお袋と、此方も相変わらず無表情のままのリーゼに挨拶をして、二人が座るテーブルの横に立つ。
本当は、朝から体力を大分消耗しているため、一刻も早く腰を下ろしたいのだが、椅子が2脚しか無いため、そこは我慢するしかない。
さて、何て説明しようか……って、別に考える必要も無いか。お袋の事だから適当に言っても、一緒に暮らす事を許してくれるだろうし。
「それで、その子はだぁれ?」
「この人はセレニアさん。記憶喪失で行き場が無いらしいから、連れてきたの。それで、記憶が戻るまでの間、一緒に暮らそうかと思ってるんだけど、良い?」
「あらまぁ、それは大変ねぇ。もちろん構わないわよ」
予想通り、お袋はあっさりと許可を出す。
一応、お袋から見たら知らない人なんだから、せめてもうちょっと、警戒感と言うものを持ってくれないだろうか。まぁ、俺の事を信用してるから、あっさりOKを出すんだとは思うけど。
「リーゼさんも良いですよね?」
「一つ条件」
此方も今日家族になったばかりなんだし、いきなり何か言って来たりはしないだろうと思っていたら、指を一本立てて、何やら条件があると言い出してきた。凄まじいまでの図々しさだな、おい。
「……何ですか?」
「私達、今日から家族。敬語禁止」
「あっ、そうよぉアリサちゃん。此れから家族になるんだからそんな他人行儀はメッよ」
リーゼの出した条件にお袋も乗っかってくる。
確かに、家族に対して敬語を使うのは可笑しいだろう。
だが正直言うと、この条件は勘弁してほしかった。
そもそも、女の言葉遣いで話していると、自分がどんどんと雌に近づいてきている気がして嫌だから、普段は男も女も使うような敬語で話しているのだ。
出来れば、お袋に対しても敬語で話したい位なのだが……まぁ、それは過去に一度そうしたら、お袋が泣いてしまったのでやらないけど。
かといって、この容姿で男の言葉遣いで話して、周りから奇異の目で見られるのも、ガラスのハートを持つ俺には結構ダメージが来るし、出来れば敬語のままでいきたいのだが……まぁ、仕方無いか。
これを断っても、二人はセレニアを追い出したりしないだろうけど、それで円滑に話が進むなら我慢しよう。
最も、外では敬語のままで行くつもりだが。 この言葉遣いを続けていると雌落ちが早まりそうな気がして嫌だし。
「外では今まで通りの話し方で良いなら。お母さん相手にもそうしてるし」
「キャラ作りは大事だものね」
黙れ、クソ女神。
しかし、やっぱり何度言っても、女の言葉遣いはむず痒い。 でも、此れからはこれにも慣れなくちゃ……いやいや、慣れちゃだめでしょ。俺は、男なんだから。
「んもぅ、私はそれもやめて欲しいんだけどなぁ」
「此だけは絶対に譲れないから」
「私は問題ない」
「うーん、此処で我が儘言ってりリーゼちゃんに嫌われたく無いし、うん、お母さんも今まで通りで良いわよぉ」
「二人ともありがとう」
二人がOKを出してくれて、内心ホッと息を吐く。
「リーゼとセレニア、此れから宜しくね」
「よろしく」
「ぷふっ、よ、よろしく……」
取り合えず、俺の言葉を聞いて吹き出している後ろのバカは後でシバくとして、これで互いの顔合わせは済んだ事だし、もう一つの要件を言ってしまおう。
「それで、今日はお母さん……と、一応リーゼにも話があるんだけど。今大丈夫?」
「大丈夫」
「私も、今日はお仕事お休みするし、大丈夫よ~」
「それは大丈夫じゃないでしょ。この話が終わったら、ちゃんと仕事に行くこと。後で、マスターに謝りに行く次いでにちゃんと仕事してるか見に行くからね」
「はぁい……」
少し冷たく言ったら、しょんぼりと肩を落としたお袋は放っておいて、俺はくクロトが持っていた写真との交換で手に入れた家の事を話す。もちろん、隠さなきゃいけない場所はキチンと隠してだ……主に、写真の事とか。
「ここ、人の住む場所じゃ無い。賛成」
一通り話し終わり、近日中に家を移しても良いか聞いたところ、リーゼが真っ先に賛成の意を示した。
人の家に対して酷い言いようだが、その件に関しては俺も同意件なので、特に突っ込んだりすることも無い。
セレニアは最初から賛成だとして、残りはお袋なのだが、そのお袋は俺が話し終わってから、ずっと何かを考えるように顎に手を当てながら、「う~ん」という唸り声を上げつつ、宙を見たまま微動だにしない。
お袋が悩むのも無理は無いか。
いくらこの家が馬小屋にも劣るボロ家だとしても、お袋は此処に十年以上住んでいるのだ。その間にはこの家に対する様々な思い出もあった筈で、その思い出の詰まった家を捨てるというのは、簡単に決断できる事では無い。
因みに俺は、そんな感傷は全く無い。重要なのは思い出よりも実用性だ。
だが、お袋が俺と同じ考えとは限らないし、此処は、無理に結論を急がせず、ゆっくり考える時間を与えてあげるか。
「ねぇ、お母さん。無理して今、結論出さなくても--」
「いやぁ、引っ越すのは賛成何だけどぉ……」
「え、良いの!?」
「うん、冬は寒いし、夏は暑いしで大変だからねぇ」
「この家に対する思い入れとかは……」
「う~ん。特に無いかなぁ。アリサちゃんさえ居れば、家とか何処でも良いかも?」
「えぇ……じゃあ、何で悩んでるの?」
「えっと、新しい家には家具とかあるのかなぁ……って」
家具……それは盲点だった。
確かに、お袋の言う通りだ。あの家は暫く放置されていると聞くし、家の中身はすっからかんな可能性は大いにありうる。
それに、良く良く考えたら、家族が四人に増えたんだから、今まで二組しか持っていなかった家財道具も揃えなくちゃならない。
そして、今の俺の手持ちは残り銀貨2枚も無い。今後の食費も考えると、全員分の家具を揃えるのには圧倒的に資金が足りなかった。
「……リーゼの家から持ってくるっていうのは」
「物を置いたら奇声を発する机、急に踊り出す食器、後は--」
「あっ、もういいです」
あわよくば、リーゼの家から家具を持ってこれないかと期待して聞いてみたものの、リーゼの家の家具はまともな人間が使えそうな物では無かった。よく、そんな家具に囲まれて生活できるな。
「えっと、取り合えず、今日か明日の内に新しい家を見に行って、家具があるかどうか確かめて来るから。で、もし家具が無かった場合は、家具を揃えるお金を稼ぐまで、ちょっと引っ越しは待ってて」
「了解」
「はぁい。頑張ってね、アリサちゃん」
「頑張りなさいよ」
いや、幼いリーゼは別として、お前らもちゃんと働けよ。
「あ~、疲れた……」
あの後、何時引っ越せても良いように準備だけはしておくように、と言って
おいてあの場は解散することとなった。
お袋は仕事に、リーゼは一旦帰るとか言って元の自宅に、そして俺は、朝の錬金術等で溜まった疲れがピークに達し、部屋へと戻ってくるなりベッドにダイブする。
「ねぇ、ちょっと、これどうすれば良いのよ」
そこで、何故か一緒の部屋まで付いてきたセレニアが、そう言いながら右手に持った短剣をヒラヒラと揺らす。
そう言えば、色々あってすっかり忘れてたが、ずっとセレニアに預けっぱなしにしてたな。
うーむ、売ってお金にするのも良いが、護身用に持っておくのも良いな。とは言っても、街中で武器を使う事態になるなんて早々無いと思うが。
「ふわぁ……」
ベッドで横になって考えてたら欠伸が出た。
瞼が重い。どうやら予想以上に疲れているみたいだな。一旦仮眠をとって、それから商業ギルドに行って、お袋の仕事場に行って……家は明日で良いか。
「その短剣はそこに置いといてくれ。俺は、少し寝る」
「えっ、ちょっと! 私はどうしたら良いのよ!?」
「好きにしろ」
「好きにって--」
短剣を持ったまま困惑しているセレニアを余所に、瞼を閉じる。何やらセレニアが喚いているようだったが、今は眠気が酷い。
気がつけば、一瞬の内に、俺は夢の世界へと旅立っていくのだった。




