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夢と服とヤバイ店

遅くなってすいませんでした

 

「ハッ、ハッ……」


 人一人見当たらない、闇夜が覆う街の中を、何かに追われて必死に逃げ回る。


 これが夢である事は分かっている。何故なら、俺の姿が男だった前世の時のものになっており、此処は俺が前世で住んでいた街であるからだ。

 もしかしたら、今までが事故の影響で眠っていた時に見ていた夢で、此方が現実と言う事も有り得るかもしれないが、そんな都合の良い話は無いだろう。此方が現実なら、今までずっと眠っていた俺が、いきなり全力疾走なんてできる筈が無いしな。


 だからこれは夢だ。

 夢だと分かっている。死ぬ事は無いし、傷付くことも無い。だが、俺は何故か逃げ続けている。その理由はさっぱり分からない。ただ、本能が、逃げ続けなくてはいけないと叫んでいるから逃げているだけだ。



「あっ」


 しかし、何かに躓いた俺は、足を縺れさせて転倒してしまう。

 背後でズシンと、臓腑に響き渡るような重い音が響いたのはその直後だ。


 もう、今更起き上がって逃げても逃げ切れはしないだろう。

 ならばせめて、何が俺を追ってきたのかだけでも確認しようと、首を後ろに回して、背後に居るものを確認する。


 そこには、全長10メートルはある巨大な牛が鎮座していた。


 何故に牛?


 予想外のものに呆けている間に、牛は物理法則を無視した動きで天高くへと飛び上がる。

 そして、そのまま重力に身を任せて、俺の首へと落下した。



「はっ!?」


 そこで、目を覚ます。

 何だろうか、何か柔かいものに頭を挟まれている。それに、凄く息苦しい。

 起き上がろうとしても、頭や体をガッチリと固定されているせいか、身動き一つ出来ない。

 一体、どうなってるんだ?


 寝起きで、良く回らない頭では中々状況を把握するのは難しい。ただ、回らない頭でも一つ分かることはある。

 鼻も口も塞がれたこの状態が続くということは、このままでは窒息死してしまうということだ。


「んっ、んぅっ」


 此処から逃げ出すために、呻き声を上げながら、必死に身を捩る。

 しかしそうすることにより、拘束は解けるどころか、まるで絶対に逃がさないとでも言うかのように、更にキツく俺を縛り付けてくる。

 そこでようやく、少しは目が覚めた俺は、自分を拘束しているのは人の手足だと言うことに気づく。

 となると、位置関係からして、顔を包んでいるこの柔らかいものはおっぱいか。

 人の頭をすっぽりと包み込める程のおっぱいを持った人物など、俺は二人しか知らない。

 その内の一人は今、家には居ないだろうから、犯人は残りの一人ということになる。


「んへへ」


 頭の上から聞こえてくる、聞き覚えのある声。

 間違いない、セレニアの声だ。


 何でお前が一緒のベッドで寝てるんだよ。とか、何で俺を抱き枕代わりにしてるんだ。とか、色々と聞きたいことはあるが、今はそれよりもこのおっぱい地獄から抜け出すことが優先だ。

 俺は確かにおっぱいは好きだ。一度で良いからおっぱいに顔を埋めて、思いっきり臭いを嗅ぎたいとか思ったこともある。しかし、おっぱいに挟まれての窒息死はゴメンだ。


「いったぁぁぁぁぁぁっ!?」


 というわけで、相手がセレニアだと分かった以上、一切の手加減無く、俺は剥き出しの脇腹をつねるのだった。





「うぅ、ぐすっ、何もつねること無いじゃない」

「自業自得です。此方なんかヘッドロック決められたせいで首が痛いんですからね」


 セレニアを無理矢理叩き起こし、窒息死の危機から抜け出すことができた俺は、首の痛みを我慢しながらも商業ギルドへと向かっていた。

 因みに何故かセレニアも一緒である。

 俺は、家で待ってろと言ったのだが、本人が絶対についてくと言って聞かないので仕方なく、連れてきたのだ。


「良いですか。絶対に邪魔はしないで下さいよ」

「しないわよ。アンタが誰かと話してる時は、絶対に背中から離れないから」

「いや、それ邪魔ですから。それに、セレニアさんはそれで隠れてるつもりになってると思いますけど、私とセレニアさんの身長差だと殆ど隠れられてませんからね?」


 背中に痴女を張り付けた幼女とか、俺だったら絶対に関わりたく無いと思う。

 というかその、脇とかお腹とか太ももとか、色々と丸出しの服は、一緒に歩いていて死ぬほど恥ずかしいから、どうにかして欲しい。さっきから、すれ違う人がみんなして驚いて振り替えってくるし。


「……ちょっと来てください」

「あっ、ちよっ、急に引っ張らないでよ!」


  周りからの奇異の視線を避けるように下を向きながら、俺はセレニアの手を手を引っ張って、早足で大通りを抜け細い道へと入る。

 こういった、不特定多数の人間の注目を浴びるのは、前世で慣れてなかったせいか、どうも苦手だ。


「先に服を買いに行きますよ」

「あんたの?」

「お前のだ! その格好で歩いて恥ずかしく無いの……ですか!?」


 自分の格好を可笑しいとも思わないセレニアに対して、つい男の口調でツッコミを入れてしまったが、少ないとはいえ、この場が人通りがある場所だということを思い出し、慌てて敬語口調に直す。

 どうも、前世の姿を知っているコイツが相手だと、気が緩む。幸い、話を聞かれてはいなかったみたいだが、此れからは気を付けなければ。

 俺みたいな美少女は只でさえ目立つのに、あんなしゃべり方をしてたら更に注目を集めてしまう。それは、俺の精神衛生に良くない。


「いや、別に。天界では此れでも露出少ない方だし」

「マジかよ、おい。最高だな天界」


 そう決意した側から、口調が戻ってしまった。

 でも、此れは仕方ない。誰だってこうなる。うん、だから、俺は悪くない。

 それにしても、天界ではこれで露出が少ない方なのか。そうなのか。

 きっと神様だから美人が多いだろうし、そんな美人さんが扇情的な姿で闊歩している光景を想像しだけで--


「男連中なんか、モロ出しにしてるやつも多いしね」

「オエェェェェェ!!」


 --吐きそうになる。

 歩くチンコ。跳ねるチンコ。揺れるチンコ。

 それはまさに、地獄とも呼べる光景だ。

 そうか、天界とはこの世の地獄の事だったのか。滅びろ。


「ちょっと、顔色悪いけど大丈夫なの?」

「誰のせいだと、思ってるんですか……!」


 クソッ、本当に最悪だ。

 男の裸なんか見ても嬉しくも何ともねぇんだよ……


「ほら、今日はあまり時間が無いんですから、とっとと服屋を探しに行きますよ」

「もう、だから手を引っ張らないでってば! あんた、小さいから引っ張られると歩きづらいのよ!」


 俺に、変なことを想像させた罰だ。我慢しろ。

 手を引っ張ることに抗議の声を上げるセレニアは無視して、細い道のりをガンガン前へ進む。

 こう言った、あまり人通りの少ない道には、以外と穴場的な店があったりするもんだが、飲食店や雑貨屋みたいなものは見受けられるが、服屋は中々見当たらない。


「ん? 何ですかあれ」

「うわ、あれ絶対ヤバイ店よ」


 そのまま特に収穫なく歩くこと数分。

 多少の視線は我慢して、いい加減表通りに戻ろうかと思った矢先、外観が全てピンクで染められ、入り口とその上にある看板を、七色に光るランプでこれでもかと飾り付けた、自棄に自己主張の強い店に出くわした。

 その看板には、『レイの秘密の舘』と書かれており、舘の文字の後ろにはデッカイキスマークが付いている。 

 セレニアの言うとおり、見るからにヤバイ店だ。日本の風俗店でもこんなド派手な外観は無いぞ。


「ねぇ、戻りましょうよ。こんな店に入るのは嫌よ」

「私だって嫌ですよ」


 流石に、こんな怪しさ満点の店(そもそも店なのか?)に入る勇気は無い。そして、この店の前を通ってこの先に行く勇気も無い。

 と言うわけで、俺達はそのまま後ずさるように数歩後退し、そのまま体を反転させて逃げるようにその場を後にした。




「ハァ、何かもう疲れたんですけど」


 怪しさ満点の店に遭遇してから一時間後。

 結局、表通りで適当な服屋を探し、そこでセレニアに服や下着を見繕って、ようやく商業ギルドの前へとたどり着いた。

 何か、まだ半日も経ってないのに、3日徹夜でゲームをクリアしたときのような気だるさを感じる。まだ、肉体年齢は10才なのに、こんなんで良いのか俺。


「ふんふふーん」


 気だるげな俺とは対照的に、セレニアは鼻歌が自然に出るくらい上機嫌だった。

 今のセレニアは痴女styleからモードチェンジして、RPGの街に良くあるような宿屋の、看板娘のような格好をしている。

 この服と下着を揃えるだけで、手持ちの半分を使ってしまったのは痛かった。まさか一番安いものでもあんなに金がかかるとは思わなかったなぁ。あの店絶対にぼったくりだろ。それとも、此れくらいの値段が普通なのか? 服は基本的に近所の人からの貰い物ばかりで、自分では買ったことが無いから基準が分からん。


「随分と機嫌が良いですね」

「えっ、だって、友達から何か貰ったの初めて……コホン。ま、まぁ、私は神だし? わざわざ、人間が貢ぎ物を送ってくれたのなら喜ぶのが義務ってものでしょ?」

「そうですか」


 そう言いつつ、セレニアはロングスカートを摘まんで楽しそうにその場でくるっと一回転する。

 そして、それを見ていた周りの観衆が沸き、視線に気付いたセレニアはそそくさと俺の背中に隠れる。

 そんなに見られるのが嫌なら、大人しくしてればいいのに。まぁ、大人しくしてても視線は集めるだろうがな。主に胸。羨まし……いや、羨ましくは無い。というか、あの痴女みたいな服は見られても平気なのに、普通の服だと恥ずかしがるのか。訳がわからん。


「そろそろ、行きますよ」

「う、うん」


 このまま此処で視線を集め続けてるのも俺の精神衛生にも良くなかったので、俺はセレニアの手を取り、一日ぶりに商業ギルドへと足を踏み入れた。






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