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矍鑠

「面を上げよ」


 今まで通された私室や談話室ではなく正式な謁見の広間。

 目の前にはヘルマンがバルツァー王家、ブランデンブルク国王として玉座にいる。

 他にもこの国の重鎮と言える人物達が並んでいた。


 ヘルツ家の当主クラウスが宰相としているのは当たり前として、息子ヘルムートや外交官のグレッツナー伯爵、アリス王女やネレル国大使の姿なども見える。


 そして縄を打たれ猿轡を噛まされた姿のローランとその一味がその場に並べられた。


「では訴えのあった件について既に国王陛下は既に存じておられると聞き及んでいるが、再度、我らへ説明を願いたい、ついては件の中心人物であり訴えた本人から述べて貰おう」

「では失礼ながら、私から説明させて頂きましょう。まず昨日の昼、我が妹が攫われた事から事件は始まりました――」

 宰相の問いかけに対して昨日の出来事を発表できる範囲の事実を簡潔にレノは述べる。


 エレオノーラの誘拐に始まり、脅迫文を見せ、そしてスラムへと赴いた事。その場にローランが現れジャンと共に自身を始末しようとした事、隙を見てエレオノーラを開放し、賊を含めて捕縛した事を伝えた。


 最後まで邪魔も入らずに語り終えた所で、外交官のグレッツナー伯爵から質問がなされた。


「では、その証拠となるのはその脅迫文のみで、現行犯として、ローラン王子の関わった証拠も無しに捕縛してしまっている。そういう事で宜しいか?」

「ふむ、では卿は王子を裁くには現行犯以上に何か必要があるとでも?」

 宰相がグレッツナーの言から意を汲み取って尋ねる。


 答えるグレッツナーは正に我が意を得たりと身振りを大きくしてレノに向かって高圧的に話し出す。

「レノアールとか言ったな、そこで縄を掛けられておられるのは留学中といえど隣国の王族だぞ、高が平民が何故狙われようか、ましてやソレを平民が訴え出るなどと、国王陛下、このカイェタン外交官としてこの状況は見過ごせませぬ、即時にこの不届き者こそを罰するべきかと存じます」


「我が国からも抗議をさせて頂きますわ、幾ら学院の優秀生といえどこの暴挙は許しがたいですわ、そうですわねシャルロア」

「ハッ、ネレル王国としましてはこの様な事態となっている事に大変憤りを感じざるを得ないと表明せざるを得ませんな、罪人などとは、こうなればそこな少年を我が国に引き渡していただきたい」

 何時もの媚びる態度は何処に仕舞ったのかと思うほどに毅然と抗議の姿勢を面に出すアリス、後は上手く訴えろと自国の大使に引き継がせる辺りは如才ないといえよう。


「ふむ、ネレル王国の方々にはご迷惑をお掛けしておりますなあ、この様な事が起こるとはいやはや庶民と言うものは分を弁えぬものだ、非常に嘆かわしい」

 流れは上手くレノアールを排除できるとヘルムートも声を高らかに己の主張を振りかざした。


「はてさて……では、同じ縄を打たれている人物は何者かな?」

 冷静にどちらにも付かないと態度と言葉で示しながらクラウスは問いかけた。



「さて……流石に其処までは」

 実際に知らない外交官、憶測は付くが此処は国の為にも黙秘するだろうと踏んで惚ける。

 勿論王女である彼女が知らないはずのない人物なのだが、アリスもそして大使も事此処に到れば見捨てていく。

「さぁ私は知りませんわね」

「少なくとも我が国の人物ではないかと思いますがな」


「父上、そのような質問よりも今は縄を打たれている王子を早くお助けしなければなりますまい、おい衛兵、早く王子の縄を解かぬか」

 そしてヘルムートはそんな質問が何になるのかと点数を稼ごうと王子の縄を解けと主張した。


 そして其処に雷が落ちた。

「だまらっしゃい!」

 見事な一喝であったと言えよう。


「其処に捕縛されている男がネレル王国の正騎士である事は既に判明しておるわ」


「「「ナッ」」」


 クラウスの言葉に一同は驚愕するしかなかった。

 汚れ仕事とはいえどジャンはこのような仕事で失敗する筈もないと従者を連れて任務に赴いたのだ。

 そして装備も高が学生相手と侮り剣などはそのまま正騎士と確認できる物を使っていたのである。


 そして道具には当然のように刻印付与されているのだが、その形式がネレル王国の術式だったのだ。


 告げられる事実に自害防止の猿轡を噛まされたジャンは顔を青くする。

 まさかたった一日でそこまで判明するなどと思ってもいなかったのだ。勿論その判定にはヨアヒムとその実家が関わっていた。


「後はこれじゃな……どうじゃこれに見覚えがあるじゃろう、グレッツナー伯爵」

「ん、何ですぅハァアア!? 何故それが此処に!? いえいや、そんな知りません……」

「たわけが、既に口から認めておろうに往生際が悪い、これはとある筋から届けられた密約の書類、貴様とそこで縄を打たれた王子との取り交わしたもの、印も正式なものじゃな」


 顔面が青を通り越して真っ白になったグレッツナー伯爵は膝をついてしまった。


「それと大使殿とアリス殿下にはこちらの書類じゃな、全く一人の青年を手に入れるのにそのような密約を交すとは……」

「し、知りませんわ!」

「――こ、こんな物は捏造だっ」


 クラウスの見せた書類もまた外交官との取り決めであったのだが、これらは勿論“竜殺し”と“虎狼”が早急に盗み出したものだった。


「事の序じゃな……我が愚かなる息子よ――お主は何も成長しなかった。またもや同じような過ちを繰り返そうとは、流石のワシとて庇い立てできぬわ。集めた証拠……如何にしようかと迷っておったがな、貴様の欲望はせめてワシの手で終止符をうってやろう」

「父上?」

「17年も昔の話じゃ、それだけで貴様は判ろうが」

「なっ、何を仰っているのかお分かりか父上、ヘルツが、王家が傾きますぞ!」

「ヘルツ如きが潰れようと王家は傾かぬわ、この慮外者が!」


 ヘルムートを一喝したクラウスは王へと向き直る。


「国王陛下、何卒お聞き届け頂きたき儀が御座います、お聞き届け頂ければこの件も見事に収まりがつきましょう」

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