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撃破

「ハハハ、流石学院最強だねえ、この状況でもまだ余裕を崩さないとはね」


 暗がりから声を上げて現れたのはローランだった。


「……」

「いやいや、まさか丸腰で現れるとはねぇ」

「王子……控えて頂く様にお願いした筈で御座いましょうに、おい貴様ら何をしている」

「いいんだよ、ジャン私がこの平民を見に来たかったんだ、コイツがいるせいで苦労したからね」

 ジャンという男が主力のトップ、その体つきからも軍人、もしくは同業の類、その男が諌め、護衛に就いていたであろう男を叱ったが大仰な身振りとセリフでソレを抑えた、何時もよりもローランも高揚しているようだ。


 事態は悪いほうへと転がって、非常に拙い事になったとしかレノは思えなかった。

 レノはもしも可能ならば『馬鹿か貴様』と叫び速攻でぶん殴っていただろう。

 王子が出てきた時点で自分を餌にして、エレオノーラが確実に助かるという選択肢が減ったのだから。


「おい、馬鹿の躾も出来ないのか貴様ら? 全く馬鹿王子だとは思っていたが……本当にどうしようも無い程の馬鹿だから無理か。全く、口だけの王族なんて無用の長物だな」

「き、貴様!」


 ――本当に馬鹿で良かった。


 怒りと共に剣を抜き放ちローランはこちらへ向けて駆け出した。此処までは計算どおりに進む。

 そして王子が切りかかる寸前で短刀がレノに向かって闇の中から投げつけられた。


「――クッ」

 懐に潜り込もうと考えて居た所をピンポイントで狙ってくる腕前、レノは警戒度を一つ上げながら飛び退いた。



「全くローラン殿下……手を掛けさせんで下さい」

 ジャンは何事も無かった風に諫言する。

「き、貴様一つ間違えたら私に当たるではないかっ」

 レノが懐に入る所を投げ込んだのだから当然ギリギリの場所だった為にローランは腰が引けていた、それを恥じ入る事よりもその分を怒りとしてジャンを叱責する。


 だがそれでもジャンは澄ました顔で予想という事実を告げる。

「ええ、ギリギリを狙いましたからな、でなければ貴方は今頃その坊主の挑発にのって人質にとられていたでしょうなぁ」

「なっ、くそ」


 だが、これだけで十分だった。


「にいさま! もう大丈夫です」

 エレオノーラが自由になったことを告げる。

「クソッ何してやっ!?」

 ジャンが背後を振り返った時にはもう手遅れだった。


 レノの役割はこちらに注意を十二分に引きつけるだけだったのだ。上手く王子を抑えればそれで終了、そして無理な場合でも――“竜殺し”と“虎狼”が失敗などする筈が無かった。


 そしてその隙をレノが見逃す筈が無かった。


 暗い煌きを放つ術式。

 暗器を投げつけると同時にその姿が消える。

 ジャンが反応できたのは暗器までだった。

 額の上部に押し込まれるように叩き込まれる掌底。

 首はその速度から生み出された一撃に耐え切れず、衝撃は脳を伝う。

 そして首を軸に錐揉み状態で体が後方へと吹き飛ぶ。

 そしてジャンはそのまま意識を失った。


「形成逆転、と言った所だなローラン」

「貴様ァ、キサマアアア! 高が平民の分際で我が名を呼び捨てにするとは不敬であるぞ」

「何処の世界に犯罪者を敬う人間がいるのか……コイツがお前への捌きだ、受け止めろ、貴様の罪だ」


 ――実力が違いすぎる。


 その事をローランが思いだす。

 そして恐怖から逃げようと――


 レノの拳が顔面を襲う。


 ローランが体を動かそうと意識した瞬間にはもう左頬を抉るような一撃が叩き込まれていた。

 もう少し本気をレノが出していれば顔面が陥没していたであろう。

 だがそれだけでローランの左側の歯は全て折れ、拳の勢いで体が側転しながら宙を舞う。

 顔面から血を垂れ流しながらローランも意識を失っていた。


 捉えた男たちの武器を全て取り上げて特殊な縄で縛り上げ馬車に詰め込みレノは一人王城へと向かった。

 流石に一国の王子を殴り飛ばし、そのままにも出来ない。

 まして闇に葬れば国際問題になるのは確実だった。

 最悪の場合は野に下り敵国の王族全てを潰す選択も覚悟し、王城への馬車を走らせた。

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