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家族

 始まりは突然の襲撃から始まった。平日の昼下がり授業を受けていたレノの元へと知らせが届く、面会人が訪れていると。


 外部からの連絡という事で面談室へと訪れたレノはその一報を聞いて目を細めた。

「エレオノーラが攫われた?」

 狙われたのはレノの義妹であるエレオノーラだった。事態をレノに告げたのは洋服店の店主カルロッテである。ジークとエッダの言葉を無視しての報告だった。

 既にジークとエッダは“部隊”を率いて捜索に走ってしまっている。


 娘の事だからと黙ったのだとレノは拳を握り締めながらもその行動から読み取った。


「ええ、二人には黙っているようにと言われたけどね……レノ様はそういう気性じゃないだろ」

「当然だろ、エレンは妹だぞ、狙いは――僕か」

「ええ、交換条件にレノ様一人で来るようにと」


 やってくれたと思った、優秀とは言えどまだエレオノーラは12才である。方法は不明だが一流の敵が相手だと一人で逃げ出すなど不可能だろう。


 実際この時点でエレオノーラは初等部の帰り道にレノが事故に在ったという男に連れ去られ、薬品で眠らされてしまっていた。痕跡などが無く“部隊”も届いた書面から捜索を開始してはいるが未だにその所在は掴めていなかった。


 彼らが自分の娘を助ける為に“主”であるレノを危険に晒すなど考えられる事ではない。

 だが、レノはそれが判っていても悲しかった。

 彼の“家族”はジーク、エッダ、エレオノーラなのだ。

 それは物の分別が付いたときに教えられた後も変わらなかった。


 だからレノは告げる。


「“姉御蜘蛛”王都で今探索に当たっているもの全てに伝えろ――取引に乗じて救出をする事を前提に動けと」

「――ッ承知」

 それだけ言い放つとカルロッテの返事を待たずにレノは駆け出していた。




 数分後、空き教室――

「ヨアヒム――“義賊アッシェ”用の機動術式装備この服の下につけるぞ」

「どうしたんだい急に、確かにできるし用意もしてるけど――」

「エレオノーラが攫われた、急ぎで頼むぞ」

「なっ! 狙いは君か」

「ああ、だから頼む、この通りだ」

「任せろ――」



「『夕刻、日の落ちた刻限にに一人で来い、場所は第三防壁外部南門の西のスラム撤去地にある廃屋にて次の指示をする、騎士団に届け出た場合は妹の命は無い』――と以上です、レノ様これは幾らなんでも危険です――」

「“部隊”を総動員すればなんとかなりましょう、ですから――」

 レノに翻意するように促す、だがレノはじっと二人の目を見つめて告げる。


「“父さん”“母さん”あの子はエレオノーラは僕にとって家族なんだ、だから行かせて欲しい」

 それは絶対に退かない決意、親子として育ってきた事を言葉と態度で示していた。


 ――俺はあなた達の子だろうと。


「レノさ――いやレノ、頼む……」

「――ッ頼むわレノ、あの子を助けて」

「任せて父さん、母さん……大丈夫二人に鍛えられた僕らが負ける筈がないさ」


 迫る夕闇の中へとレノは歩き出す。




 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆




「貴様一人のようだな、フッ、いいだろう付いて来い、武器も持たずに酔狂な奴だ」

「能書きはどうでもいい、妹は無事だろうな」

「ああ、別に無駄な殺しを俺たちはしない」


 これだけで犯人が複数、そして組織的に動いていると判る。油断を誘う意味でも剣やナイフの類は置いてきたのだからこれぐらいの情報を手に入れなければ割りに合わない。


 連れて行かれたのはスラムから森へと入る場所。薪などを拾う為の森である。入り込むのはスラムの住人のみ、彼らは日が昇っている間にしか森に入らない。手に持ったランタンが無ければ普通の目だと相手の後姿も闇へと消えるような闇夜になっていた。


「ここだ、待ってろ……」

「早くつれて来い」

「生意気なガキだぜ……全くさっさと始末すりゃあいいものを」


 発言から何かあるという事までは判るが兎に角優先すべきはエレオノーラの安全だと周りに注意しながら暗器を確認する。


「ハハハ、流石学院最強だねえ、この状況でもまだ余裕を崩さないとはね」

 暗闇から一人の男が声を上げた。

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