仇敵
ティアはどうするべきか悩んでいた。
勿論レノの事についての悩みだったのだが、事は緊急の判断を要する。
普段あれだけ騎士団の事については即断即決をするのだが、目の前の事態に如何するべきか悩んでいた。
「ではレノ様、私と是非手合わせを」
アリスがレノに対して訓練時間に動くなどとは思ってもいなかった。
何時ものようにレノとティアの訓練が始まるとおもっていた級友達もその光景に驚いた。
一瞬だけレノも動作が止まったが、何かを考え了承してしまった。
「ティア殿は中々の腕前とお聞きしておりますが、一手私と手合わせして下さいませんか」
そして今の現状になってしまった。
どう答えるべきか。
仮にも声を掛けて来たのは隣国の王子のローラン、気軽な誘いだが断っていいのかと。
そう留学の為にやって訪れた第三王子である。
だがネレル王国から来たのは王子一人ではなく、第一王女アリスまでもが何故か訪れたのだ。
腹違いの姉弟で年齢は同じだが、王位継承権では王女の方が上、通常なら国外へ出るなど考えにくいのだ。しかも、第一王妃の子供でもあり継承権は第二位を持つ重要人物。
その第一王女が何故かレノと手合わせをするというのだ。
何故かこの第一王女がティアは気に食わなかったのだが、更にこれで警戒を強めた。
縦巻きロールの派手な髪型、そしてキツイチークにアイラインが似合ってはいるのだが、派手なのは姿だけではなく、その振る舞いや言葉遣いも違った。
そして弟のローランだが、流石に髪型はそうでもないが、服装が華美であり、何より取ってつけたような台詞が鼻についた。
そこで不思議に思うティア、何故同じようなセリフでも奴と違って鳥肌が立つのだろうと。
困った風なティアが仕方が無いと諦めかけたその時、何時もの少女が名乗りを上げた。
「フッ、姫様に相手を願おうなどと、腕前を見せてからですね。この私が相手をして差し上げましてよ!」
効果音がなりそうな程に尊大な登場を果たしたのはクリスだった。
「おや、飛び級の生徒か、口は大きいが王族には相応しき相手と言うもんがあるのだよ、腕前の問題ではないさ」
「仰って下さいましたわね、女性の年齢を間違えるなど、それこそ言語道断、それに貴方の姉であられるアリス様は私たちの学院最強とは言えど一般家庭の者と手合わせしておりましてよ。この学校では身分で相手を決めませんの、あちらは正に手ほどきでしょうから、私からも手ほどきをして差し上げましてよ!」
クリスへ下手に言い訳などをするとこうして三倍返しの法則が発動する。だがローランは懲りなかった。
「ハッハッハ、君のような小柄な子供が私に手ほどきとは、ククク」
「いいだろう、クリス、有難う、どうやらローラン殿は自信がおありのようだから、私がお相手する事にしましょう……」
眼光鋭く睨み付ける様な眼差しをローランに送るティア。
「おお、有り難いですね、まあ学年最強と言われるのが高が平民では知れているでしょうが、ご安心を、私の腕前は国でもそれなりに知られたものですから」
「そうか――では遠慮無しで行かせてもらおうか、我が学院の腕前を見てもらわねばなぁ」
その時級友達は戦争を覚悟したと後々に語っている。
ティアの怒気、学院騎士団でも見せないソレをティアが見せた。クリスもこれは止めれないと完全に体が引けている。
例え訓練用の刃引きの剣と言えども、本気のティアなら鎧を突き刺す位は容易い事を皆理解していたからだ。
「ティア――」
そこに一言だけ、たった一言でティアをレノが止めた。
「レノ――」
「まあ、腕前を見せるのは構わない、僕がこうして彼女に稽古をつけているようにね、でも僕はそんな事に使う為に君と訓練をした覚えはないよ?」
軽く王女の剣を往なしながら余裕をもってティアに話しかけるレノ。
それは完全に指導をしているだけだから、その王子に何を言われても気にするなと告げていた。
「判った、では行かせて頂こう」
「フフ、なにやら平民が囀っているなあ」
王子の態度は気に入らない、が、既に冷静になったティアは普通に剣を打ち込む、だが普通といえどティアの剣筋は鋭く連撃の速度は徐々に増していく。ティアの実力の半分少々といった所で、王子は防戦一方となってしまう、それでも耐え切っているのは自信を口にしただけはあった。
しかし、一向に手を緩めないティアに焦った王子は打ち込もうとした所で剣を見事に跳ね上げられてしまう。幾度も剣を受け止めて腕力が無くなっていた剣は弾かれた拍子に手からすり抜けて空を飛んだ。
「アッ」
「ッ!――ぁ」
しまったと、王子が声を上げ、ティアも拙いと思ったが、その方向をみて安堵した。
剣が飛んだ方向は偶々レノの方角だったのだ。
避ければ王女へ剣が当たる。
そう判断するまでもなく、レノは剣を上に跳ね上げる動作と、王女からの攻撃を見事に同時に捌いていた。
「気をつけて――この学院で剣を手放す生徒などいないので」
頭上から落ちてくる剣を掴み取りローランに差し出しながらレノはそう告げた。一瞬、レノが避けたかに見え、飛んでくる剣の恐怖でへたり込んだ王女が其処にはいたのだが、ソレばかりは致し方なかった。
「――忠告、覚えておこう、レノアール・シュランだったな」
留学生はその一日目から見事に騒動をもたらしたのだった。




