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深夜の舞踏

「レーノーアーァールーゥー! 貴様、なんて真似を!」

 空気を読まない代表、クリスティーネである。

 だがそんな彼女はレノに突っかかって口でも勝てた事は無かった。


「ん、この姿が見えないのに偉そうでフルネームを呼ぶ感じ――さてはクリスティーネ」

「少しは伸びた! というか背は関係ないだろう」

 当然揶揄うと言うよりも既にネタとして定着した扱いだった。最初に独活の大木とクリスが言ってからレノはこう返すようになっている。途轍もなく次元の低い争いだった。


「いや冗談だ、気にするな」

「気にしてる事を言われて気にしない奴がいたら私の前につれて来い!」

「ここにいるぞ? ほれ」

 そう言ってティアを指差すレノ。そして示された通りにティアは気にしているよりも如何すべきかを真剣に考えていた。


「いや、良いんだ、確かに言われて私は判る事が多いんだクリス」

「姫様! 悪いのはそいつです」

「そうだ、クリスティーネ達に頼んで警護も増やせば良いじゃないか、白百合学院騎士団なら“優秀”だろ」

 認めるティアに非難するクリス、それを見事に無視してレノはティアに“提案”をする。


「フフ、判っているではありませんかっ、そう私たちは優秀ですの!」

「ふむ……確かに良いアイデアかもしれん、将来の働き先の見学にもなるしな」

 クリスは毎回こうして言いくるめられてしまうのだが、周りもまたかと思っているが口には出さないのは、その様子が可愛いからだ。

 そしてティアは提案を実際に検討してみて悪くないと思った。

 頭を叩かれてよくよく考えれば至極もっともな諫言である、言葉遣いも態度も諫言と言うには程遠いが。


 こうして白百合令嬢学院騎士団が訓練の名前の下で警護に当たることになった。

 王族の警護に加わるとなれば名誉ある事と団員が気合を入れたのは当然で、一番気合が入っていたのがクリスだったのも既定のような物だったのは言うまでもない。




 そして数日が過ぎたある日。漸くレノの部隊から情報が齎された。王妃の暗殺を請け負った闇組織の情報を得たのである。


「それで、貴様誰に雇われた」

「チッ、何で“竜殺し”がこん件に居やがる」

「ほう、俺を知ってるのか、そうかそうか……テメェこの国の組織じゃないな?」

「――ッ」


 単なる引っ掛けに過ぎない、だがある意味推測に基づいた質問に首領の男は見事に引っかかった。

 “竜殺し”確かに王都の闇の世界で知らないものは居ない名ではある。が、それを姿を見ただけで判断する事が出来るのは、ジークが暴れた隣国などの人間でないと無理だった。そして時折混ざる微妙な言葉の違い。

 滅多に部隊を率いて出ないジークを知っているのならばと“かま”をかけた事にまんまと引っ掛かった。


 それだけで依頼人を聞きだすには十分だった。国を割り出して後は報復を匂わせるだけで男は全てを吐いた。



 そして、深夜の上級市街地。

 黒い装束で身を包んだレノがフーバー上級侯爵家へと忍び込んだ。疑うには十分な貴族であった、丁度王妃に適した年齢の令嬢とティアの王配へ当てる事ができる子息がいて家格も申し分ない、が念には念を入れなければならない、証拠は高が闇組織の頭目の言葉と割符のみ。


 故に今回は何時もの義賊としてでは無かったが、割符を探し出す為に、書類からなにから全てを総浚いした。


 そして、何時もの通り騎士との逃走劇は行わず、レノは王城へと忍び込んだ。目標は国王と王妃の寝室へ訪れ書類を残す為だった。




 水路を利用し闇に潜みながら忍び込んだレノは城の外れにある庭園から内部へと侵入を果たした。かって知ったると記憶の通りに部屋を目指すが、彼女達が部屋の前に詰めていた。


「やあ、ご機嫌は如何かな、お嬢さん《フロイライン》いや、この場であれば王女様(プリンツェッスィン)とお呼びしたほうが相応しいですね」

「――ッ! アッシュ!? 貴様どうやって此処へ」

「フフ、ソレは勿論歩いてですが、そんな事よりも中々素晴らしい警備ですね、本当は寝室へとお邪魔しようと思いましたが、諦めましたよ」

「義賊の貴様が暗殺者とはな、誰の依頼か――吐いて貰うぞ!」


 一閃される刃を躱レノだったが、この警備ならば問題はなさそうだと関心していた為に言い方が悪かったと反省をした。


「おっとこれは失礼を、王女様、“義賊アッシェ”はそんな為に刃は振るわない、ソレぐらいは信じて貰っていたと思っておりましたが」

 レノは書簡を取り出すとティアの剣撃を掻い潜りながらソレをティアの空いた手に握らせ一気に距離を開けた。

「言葉が足りませんでしたね、“黒装束”として、今夜の目的は間違いなく“その”書類をお届けする事ですよ」



「これは――」

「そちらに今回の事件の首謀者の不正と暗殺者との契約の書類も入ってますよ」

「なっ」

「いや盗みに入ってそんな物が出てきましたからね。どうせ騎士団には見つけ出せない書類、もしも握り潰されて証拠を消されたら笑いも出来ない、だから直接お渡ししたかったのですが、フフ、王女様へお渡しすれば十分ですね――これでお暇させて頂けると、深夜に散歩迷っただけで済むのですが?」


「迷うか……確かに王城は広い。迷わず帰られよ“黒装束”殿」

「貴女との本当の舞踏だけならもっと続けたかったのですが、ではこれで失礼を――」

 何時もの気障な口調でレノは挨拶をしたレノは部屋から覗く国王と王妃を一瞥してその場を去った。



 即時にフーバー上級侯爵と内通者が捕縛され、書類を突きつけられて罪を認め断罪されたのは翌朝を迎えるまで掛からなかった。彼は当初罪を否認し続けたが隠してあった筈の割符と書類を突きつけられた瞬間に驚きを露にし気を失った。

 こうして王妃襲撃の事件は決着した。

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