以心伝心
「仲良しねえ」
「レ、レノ、庭を案内してあげるわ!」
空気が少し仄々としたものから揶揄うモノになりそうなのを察してティアはレノの手を引いた。
「フフフ、引っ張り回し過ぎないようにね?」
「大丈夫よお母様」
「では国王陛下、王妃様――」
「ああ、いいからね、ゆっくりと楽しんできて欲しい」
ソファに腰掛けた二人はにこやかに手を振って若い二人の初々しい態度に目を細め見送った。
「いい青年だな――」
「ええ、そうですわね――」
ティアに引っ張られたレノはされるがままに庭園へと出た。
「それで、そのレノはまたあると思う?」
「ある――だろうな、歴代でも妃が一人しかいない国王はいなかっただろう、それに今王位継承権をティアだけだからなあ」
先王の子供は複数いたが、男子は少ない上に身分的な問題や素行問題が多く、後継者レースに発展するまでも無く終わった程だった。先王の御世に既に継承権を放棄させられており、再度王位継承権を持つには王の承認が必要なだけにありえない。そうして兄妹の王位継承権を剥奪するのは当然の行為だった。そして必要が生じれば復権させれば良いのだ。
現王も、多少は考えた事だ。そして――
結局諦めた件でもあった。
先王には5人の王子がいて、長男は戦狂、次男は浪費家、三男の現王、四男は男色家、五男人格破綻と酷い内容だった。よくぞ現王が普通に育ったと思わずにいられないラインナップだった。
既に長男は死亡、次男は一代公爵ではあるが貴族からも呆れられている、四男は有能で実際に政策にも意見を求める程だが、同性愛者であり子供が出来ない時点で候補から外れてしまう、そして五男は危険な男だった、一言何を考えているか判らないとしか云えない、故に今だに若い彼は一代公爵ではあるが辺境貴族に食客預かりとなっている。
王女もそれこそ王子の四倍もいたが、貴族に降嫁した者や他国に嫁いでいる為にその選択肢も取れそうな傑物はいなかった。
そうした理由で王位継承権を持つのがティアだけになってしまったのだが。
女王となれば王配となれるのは一人だけになるのだ。
競争は勿論激化する。
ならばどう考えるか。
ヘルツ家と同じ権力を得るならば王に王妃を差し出せばいい。
だが王妃は一人だけと決めている王。
ならば消せ――と短絡に考えたのだろう、更に王配の可能性も考え同時にレノを消そうと。
二人が考えたのは大よそ同じで結論まで辿り着いた。
だが少しだけ大きく違った点がある。
馬鹿らしいと王配の可能性を一笑に伏したレノと、もしかしたらと夢を見たティアという点だった。
「侍女かどうかは不明だけど、今回の件は王妃様の行動を知っている人物に限られるから注意がいる」
庭園に咲く花々を見ながらするような色気のある会話は一切ない。
後方で控えるアンネが会話の内容を知れば二人を張り倒したかもしれない。
が、レノもティアも真剣だった為に夢のない会話が続く。
「と言っても全員を尋問するのも憚られる……」
「利用されている可能性もあるからな、一応家族の事なども調べてみるといいよ」
「有り得ない話ではないわね」
「後は城だからって安心も出来ないよ。手を出したなら」
「ええ、暫くはずっと王城へ帰る事にするわ。幸い王家は元々寮生活免除だから」
一見すれば距離も近く仲睦まじげに見える。アンネは「そこで手を」「なぜ寄りかからない」「そこで躓くのです」と距離を取りながらもモヤモヤとしながらも小声で呟いていたのだが。
「と、とッとこ、と」
アンネとの打ち合わせ通り、このまま部屋へ。
その為にティアは気力を全てつぎ込み、いやつぎ込みすぎた。
「と……とっとと、じゃないな『ところで』?」
だが普段からのティアを知るレノはその様子から何かあるのだと察する。
正解を見事に引き当てるレノに続きをなんとか言おうと頑張るティア。
「! おちゃちゃをちゃを、これ」
遂に、言葉ではなく身振り手振りでお茶を入れたり飲んだりと……
どこかの宴会芸のようになりつつある会話。だがレノはソレぐらいでは動じない。
「『お茶を』?」
仕草から正解を引き当ててくれた事に喜び、ならばいっそ身振りだけで伝えるティアの図。
背後でアンネが突っ伏した。
「!? こう!」
「用意してると?」
まさかの正解を聞いてティアは喜びアンネは驚愕した。
どうして言葉が通じたかいや、仕草だけで通じたのか、それは互いに、いやレノがティアを良く観察しているからか。
兎に角「ところでお茶を用意してるのだが」というティアの想いは伝わった。非常に情けない形でだが。
「じゃあ、お茶にしようか……ティアの両親の前だと気を使って喉が渇いてたんだ」
「ウフ、フフフ」
「仕方が無いだろう、普通の庶民だ」
「いや、そういう事ではなくてだな、じゃあ、その、なんていうか、行こう!」
自室にレノを誘う緊張からなんとか立ち直ったティアだったが、照れ隠しに言動が怪しくなっていた。
そして、何処に行くとも告げずになんとか自室まで辿り着いたのだが。
「で、この可愛らしい部屋は?」
「こここ、ここ」
「ここってもしかして、自室じゃないのか?」
「シューゥ」
「え? お、おいティア?」
そしてティアは限界を迎えた。
『可愛らしい』自分という図式が出来上がったからだが。
その奔放な性格と正反対に乙女なティアにはこれが限界だった。




