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襲撃

「――ッ」

 突然目を開いたレノは突然アレクシアへと飛び掛って引きずり倒した。

「アッ」

 突然の出来事に対処できない王妃は馬車の中にうつ伏せに倒れる。

 だがそれから口を塞がれただけでレノは何もしない。


――えっ、えっ?

 王妃は倒された事でパニックに陥る、もしや殺されるのかと。

 だがベルトを外しているのを見て一瞬だけ王妃は心臓が跳ね上がった。

 しかし心配すべきは()()では無かった。



 レノは只単に警戒しただけだった。

「王妃様……様子が変です、暫くこのままで」

 レノのその様子に嘗ての恋人の顔を王妃は思い出していた。

「え、は、はい」


 何故か護衛の姿が見えない、そして王城へ向かう筈の馬車は第三防壁を出ていた。


 どちらを狙ったのかが不明だった。

 あるいは両方同時になのか……


 兎も角護衛が消えているなど異常事態でしかなかった。


 ――つくづく運が悪いな、俺は。


 何に関してとまでは考えなかったが、ティアといいトラブルを運んでくるのは簡便して欲しいと思ってしまうのも仕方ない。


 馬車毎建物に突っ込む訳でもないと判断したレノは王妃に伏せるように指示を出すとベルトの先端の仕込み刃の鞘を外して馬車の扉から天井へ逆上がりの要領で登った。

 ギョッとしたのは御者である。

 気が付くにも早すぎるのだ。そしてまさか只の少年が車内から屋根へ移りすぐさま攻撃してくるなどと思わなかった。


「テメェ」

 仕込みの刃が肩口に刺さり苛立ち吼える男。

「王城の御者にしては、口が悪いな、で――誰に雇われた」

「言うと思うか……クソ、予定の場所に行く前に始末しなきゃならないなんてな」


 肩口を押さえながら同じ屋根の上に立とうとする御者だったが、レノはそんな甘い人間ではなかった。

 手を掛けた瞬間に手の甲をベルトで打ち砕いた。

「別に誰かなんて後で調べるさ……それに喋らないんだろ?」

「只のガキかと思っていたのに、これじゃ割りにあわねえぜ、此処でおさ――」

「行かせる訳がないだろう?」

「ナッ」

 飛び降りようとする事ぐらい見越していたとばかりに身を投げ出した瞬間に男の後頭部を蹴りぬいたレノ。

 受身も取れず走る馬車から落ちる御者は車輪にも巻き込まれて地面に転がった。


「さて……運転するしかないな」




「王妃様、取り合えず何者かが命を狙っているようですが、心当たりは?」

「心当たりですか……」

 馬車を止めて方向を変え、追撃を考慮にいれて警戒をしながらレノは伝達用の御者窓を開けて王妃に尋ねた。

 心当たりと言われると様々思い浮かんでしまうのは王族故に仕方が無い。

「ありすぎますわね、私以外に王妃を迎えないあの人に娘をと望む貴族は多いのよ」

「でしょうね……」


 こればかりはどうしようもない、容疑者はそれだけで権力を望む貴族全てになる。だが今日の事を知っているなら限られないかとレノは気が付く。


「ところで今日の外出を知っているのは?」

「侍女を含めると数名ですが、まさか」

「可能性は高いかと思いますよ」

 寧ろそれしか考えられないだろう。


「調べるのは難しいでしょうから、後ろに括り付けた男が白状するのを期待するしかありませんけどね」

「ええ、親子で助けられてしまったわね」

「構いませんとは言いませんが、仕方が無いですね、もしかすれば自分も標的だった可能性も高いですし」

「どうして」

 王妃は礼に対して気にするまでも無いと言いながら異なった内容の予想を軽く告げるレノにその理由を尋ねる。


「まず、王妃様だけを狙ったのならば、孤児院に寄らずにそのまま馬車を事故に見せるなり、こうして王都の外へ連れ出したでしょう。にも関わらず僕も連れ去ったからですよ。態々正騎士でないと言えど子供を追加するのはリスクが高いでしょう」

「そうね、そう言われると確かにそうだわね」

「ですからお気になさらないように」

「やっぱり――」


 王妃の言葉は最後までは聞こえなかった。だが目だけはその内容を克明に伝えていた。


 王都の城門で衛兵を借りて更に王城まで馬車を走らせたレノはそのまま王城の私室へと通された。

 待ち構えていたのは心配な顔をした国王とティアだった。


「おお、アレクシア! 心配したぞ。話を聞いた時には心臓が止まるかと思った。レノ君良くぞ――良くぞ妻を守ってくれた。このとおり」

「レノ! 無事!? その、私は心配はしてなかったけわ、貴方だから絶対に大丈夫とは思ってても……心配したわ!」

 詰め寄って礼を述べる国王にも驚いたが、それ以上にレノはティアの格好と態度に驚いていた。その為意味不明な照れ隠しも耳に入らなかった。


「ティア、その格好であまりくっ付かない方が……」

 顔が触れ合うような距離、抱きついていると言い換えても良い程の接近だった。

「キャアアアア!」

「驚きすぎだよ!」

 驚いて後ろ下がった瞬間に裾を踏んで倒れそうになったティアをレノが腕を回して支えた。


「だ、だって、ち、近いわレノ!」

「そんなこと言っても今離したらひっくり返るじゃないか」

「あらあら」

「うむうむ」

「「ハッ!」」

 二人の遣り取りを微笑ましいと見守る国王と王妃、その視線に漸く気が付いたが慌てて離すわけにも離れるわけにもいかず二人は顔を赤くした。

 結局レノが更に手を深く引き込んでから立ち上がらせたのだが、お茶を用意していた侍女が一人ガッツポーズをしていた。勿論ティアの侍女アンネであった。

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