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嫉妬

「貴様がレノアール・シュランか、学院最強などとはおこがましい、よって決闘を申し込む」


 何時もの如くレノとティアが詰まらない言い争いをしている所へ突然現れた青年がレノへ決闘を申し込んだ。

 学院最強など自ら名乗った事のないレノにはいい迷惑な話だが、ティア絡みで幾度か上級生などを返り討ちにし続けた結果呼ばれるようになっていたのは事実だった。彼是入学から三ヶ月程が経過して既にその手の話は終わったとばかり思っていた矢先の話だった。


「これだから――」

 レノはうんざりして、今の言い争ってた内容もこんなのが嫌だからだと告げる。

「いや、この事態は違う――と言っても説得力がないか」

 其れに対して一緒にして欲しくはないと、ティアは言い返したが、少々分が悪いと言葉尻も表情も暗くなった。



 しかし、幾ら落ち込もうとも、勿論この様な事に正義を掲げるティアが黙っている筈が無かった。

「せめて決闘を申し込むならば名前と正当な理由を述べよ」

 知っている相手だとしても、これは言わずには居られなかった。

「青年学院騎士団所属、ヴィンツェンツ・ルービン・ヘルツ。学院騎士団長として、数々の王女殿下への無礼許しがたし、学院最強などと言われ、平民が調子に乗っている事は明白、よって此処に制裁の為決闘を申し込みました由、何卒お聞き届けを」

「従兄弟殿……何を勘違いしているのか知らぬが、レノの態度は私自身が許したもので、彼の才能は惜しみこうして頼みはしているが、飽くまで本人がそういった事は決めるものだ、其れを何故貴方が咎めれるのか」


 ヴィンツェンツは2学年上の最上級生であり、彼がカタリーナの幼馴染であり、そしてティアの母親の兄の長子、ヘルツ上級侯爵家の跡取りである。貴族の中には血は濃いがヴィンツェンツを時代の女王の伴侶に押す動きもあり、ティアが断っていなければ恐らくは婚約者であった人物でもある。


 そして実際にヴィンツェンツは従姉妹のティアを愛していた。

 故に、レノという存在を許せなかったのだ。詰まりは完全な嫉妬からの行動だった。高等部へと進学した際に正式に婚約の申し込みがされたにも関わらず王家からの返事は彼の期待とは違っていた。従姉妹に相応しい騎士になるべく日々努力を重ね青年騎士団の団長になるまでになったというのにである。


 にも関わらず、レノはその愛する従姉妹の関心を買うだけでは飽き足らずに拒み続けている。もしやと思った彼はレノについて調べた。普通の平民それも今では下級市民街にある孤児院の人間。過去にティアとの繋がりがあったことも許せなかった。それだけで決闘を申し込むには十分だった。


 彼が下したレノの評価は低かった、それなりの学院での上級生達を悉く返り討ちにしている件は把握できたが、出てきた情報は其れ()()しかなかった、そして彼はたったそれだけでレノの評価を下してしまった。当然ではあるがレノの出生について数多くの守護者が存在するし、普通の学生や貴族が調べようとして旧シュミット家の諜報機関に敵う筈がない。そう例え王家でも手を出せない無理な話だった。


「この人はティアの従兄弟なんだね? で、僕が気に入らないってのが本当の所かな、まあ()()と心配なんだろうし、やらないと引っ込みも付かないだろうけど……でもね決闘なんて言われたら――手加減出来ないよ?」


 ティアが一瞬怯んだ程の殺気がレノから漏れ出した。


――もし、もしも決闘したら、本当にヴィンツェンツは間違いなく死ぬ。


 瞬時にティアは悟った。戦わせてはいけないと。


 今までの返り討ちの件は全てレノが手を抜いている。謂わば学生同士の喧嘩だった。相手も武器と言っても木剣などしか使っていない。だが今回は違う、決闘を申し込んでいるのだ。


 そして、レノはこうした出来事にもうんざりしていたが、相手がヘルツ家と言うならば話は別だと受けてやってもいいとさえ思っていた。だからこそティアがもしもレノの殺気に気がつかなければ――


「待てヴィンツェンツ、それにどうか待ってくれ……レノ、決闘などすればどちらかが死ぬ事だ、それは許可しないから」

「あらあら、まあまあ、ヴィンツェンツったら強くなったからって、お茶目ねー」


 ティアの頼みと同時にカタリーナも声を出す、流石に決闘など学生の間で認めさせる訳にはいかない、それに、ティアの態度に違和感を覚えたのだ。だから態と軽い態度を取って場を和ませた。



 だが、その殺気を感じ取れなかったヴィンツェンツの態度は尊大だった。

「フン、王女殿下と令嬢に助けられたな……だが、訓練ならば良いのでしょう、王女殿下、私も団長まで勤める者として学院最強など言われている人物とは是非手合わせ願いたい」

「学院の認める試合ならば問題はないでしょうが……」

 こうなれば致し方なかった、決闘に比べれば試合の方が怪我ぐらいはあるだろうが、死なない分遥かにましだとティアは述べた。


 だがそれに気を良くしたヴィンツェンツの言葉はこの場でもっともレノが聞きたくない類のものだった。

「レノアール・シュラン次の学院主催の大会にエントリーしろ」

「……」

「どうした怖気づいてエントリーも出来ないのか」

 返事をしないレノが怖気付いたかと煽ってしまうヴィンツェンツ、これを聞いたティアは目を瞑った、何てことだと――済まないという謝罪の意味を込めて。


「いいですよ、大会、エントリーしましょう」


 レノも事此処に至ればやるしかないと返事をする。だが先程の殺気はもう漏れていなかった。


「フッ、俺に当たるまで負けるなよ……」

 そう捨て台詞を吐いてヴィンツェンツは立ち去った。


 後に残ったのはレノとティア、そしてカタリーナだったが、問題は彼らが直前まで何を話し合って揉めていたかだ……


「面倒な事に……」

「ご、御免なさいレノ、無理やりになってしまった」

「あら、もしかして」

 そしてカタリーナも気がつく、何を彼らが話し合っていたのかに。


「ああ、大会にはエントリーなんてする予定は無かった、断っていた所だ」

「それで言い合いになっていたんだが……つい試合ならばと言ってしまった」

 既に泰然とした態度のレノと完全に沈み込み憮然としたティア。


「あらあら、でもレノアール様が出ない今大会など楽しく御座いませんもの、私も楽しみにさせて頂きますし、何か問題があったのならご協力いたしましょう」

 出場する事で仕事などの問題があればと軽く提案したカタリーナ。

 その提案を在り難く受け止めながらも、正直な気持ちと問題点をレノは話した。


「問題か……カタリーナさん、手を抜けなくなる時点で大問題ですよ」

 一応は年上だからか、ティアに対するよりも多少は丁寧な口調であったが問題は其処ではないのだとハッキリと告げた。


「え?」

「普通に練習試合で闘うだけなら衆目を多少集めようが、正式なものじゃありませんよね」

「ええ」

「それがこの上級学院の主催する大会となればどうなりますか?」


 レノの説明と問いかけを考え想像するカタリーナ、そして脇で聞きながら更に落ち込んでいくティア。

「多くの将来有望な騎士を探しに来る方の目にも留まりますし、場合によっては王家の方々にも」

「ええ、なのに仮に優勝者が騎士に成る心算がなく、孤児院を引き継ぐ心算だとどうなるかお分かりですか」

「あっ」

 そこで漸くカタリーナも理解した、確実に優勝するであろうレノがどのような事態に巻き込まれるか……



「なので断っていたんですが……」

「本当に、本当にすまないレノ」

 大きさが一割も二割も縮んだようなティアが謝った。

 説明されて、本来の言い争いどころか自分の浅慮を恥じていた。とは言えど、レノを騎士にしてという計画を諦めないのはティアらしい所であり、それがまた問題を引き起こすのだろうが、今は本当に小さくなっていた。

 だからこそ、レノはこう答えた。

「いいさ、最終的に勝負を受けたのは僕だから、それに早めに当たればその後は上手にやる」


 夫々に疲れた表情となり、大会の事を考えた。きっと……碌な事にならないだろうと。

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