乙女会議
一夜明けた翌日、白百合令嬢学院騎士団の本部、そこで熱い会議が開かれていた。参加者は自称空気を読める乙女一同のみであり、当然ながら団長のティアも副団長のクリスもいない。
何故ならば――
「ではこれより、“第一回黒装束会議”を行います!」
会議内容が内容だからである。
因みに、この集まりは時折開かれていて、呼ばれない事に気がついている二人が微妙に落ち込んでいるのだが、完全に隠しきれていると騎士団の乙女たちは思って居る。当然二人が呼ばれないのは話題が『団長の恋についての話』であり、議題はこれまで“レノアールとの交際の是非”などといった世俗な内容だったからだ。
しかし、今回は議題名だけは真面目に聞こえたが、実態はどうか――
「それで、あの化け物の攻撃を常に自分に集中させて――」
「そうそう、息もピッタリだったわ……銀の閃光と黒い軌跡のワルツよね」
「ピンチよね、レノアール殿……」
「でも相手が義賊、そして王女よ……」
「許されぬ恋……いやだからこそレノアール殿のチャンス?」
「学院No1のレノアールVS黒装束の男」
「恋を掛けて闘うのね!」
「ツンデレドSのレノ様VS謎のマスカレードにして紳士なアッシェ――やだ鼻血が」
「その妄想……ブホッ」
「危険よ! VSがXに変化したようよ」
真面目かなど、聞けば一瞬で否定できる内容だった。
だが彼女達は真剣だった。そう、王女の恋愛応援という意味で。まずこの会の主催者は第三部隊を引率している人物で、表の顔であるティアとクリスの縁の下の力持ち。
彼女の名はカタリーナ・ルービン・ヴァイザー。上級侯爵家の次女であり、第二学年の一歳年上、だがそのふんわりした雰囲気は騎士団に癒しを齎している。彼女の天然的な素質も大きいが皆に慕われている一人である。だが事恋愛に関して、そう特に、王女の恋愛に関してのカタリーナの意気込みは普段のそれとは全く異なってくる。
ふわっとした空気はいつも通りだが、レノとくっ付く様にと意見を取りまとめるのだ。
王女が好きな人物と結ばれる事こそが肝要である。
それが彼女の持論だった。
故にいつものゆるふわっとした雰囲気ではないカタリーナがこうして主導する会議でまさかの“黒装束”が議題に上がるのは異例だったとも言える。一応は義賊としなかっただけマシだが焼け石に水だった。
一部では謎の方向へ話しが流れていたし、乙女たちの妄想は止まる事を知らない。
「姫様……このカタリーナ、必ずや貴方の恋を成就させましょう!」
謎の忠誠を誓うカタリーナの瞳には炎が燃え盛っているようだった。
実はこのカタリーナ王女であるティアの信奉者であると同時に、レノアールの信奉者でもある。
彼女の場合、レノの“裏”は知らない普通の信奉者だ。
だが、高等部に入る前にレノを見知っていた一人でもあった。
ゆるふわっとしている彼女だが、実際に性格もそして振る舞いもゆるい……
所謂天然度合いでいうならばティアの上をいく彼女は上級市街地を散策して見事に中級市街地で迷子になるという、ティアと違う方法で同じようにレノアールに助けられた過去があった。もっとも、もっと小さな頃の話で、レノなど言われなければ思い出さない程の話だ。
だが、噂の一学年にして学院最強とまで言われる少年の姿を見た瞬間にカタリーナは思い出した。
あの少年こそがレノアールだと。
見知らぬ街で気がついたら柄の悪い少年達に囲まれていた所を助けられて、泣きじゃくる自分を抱えて上級市街地の守衛へと届けてくれたあの名前も知らない少年。
間違いないと確信した、そこで自分が恋に落ちず、応援するのに回ったのはレノを見つめる王女の姿にいち早く気がついたからだ。いや、淡い恋をしていたからこそ気がついた。そして二人の話を聞き、感動して今に至る。
当然、彼女もまたレノが騎士団に所属していない事を残念に思う一人である。
さらに言えば騎士団に所属して、是非とも青年学院騎士団の現団長を懲らしめて欲しいと願っていた。思い上がってしまった嘗ては幼馴染だった青年を――
そして其れは思わぬ形で実現する事になる。




