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大会

 大方の予想通り、大会に関しては碌な事にならなかった。


 まずヴィンツェンツ・ルービン・ヘルツの実家ヘルツ上級侯爵家が動いた。

 実際に動いたのは当主である祖父ではなく、その息子であったが、現王妃の兄であり将来の宰相とまで言われているヘルムート・ルービン・ヘルツの圧力で予選の組み合わせから全てが決定された。


 学院騎士団長であるヴィンツェンツがシードになる事などある意味当然であって問題も無い。しかし、それ以外の出場者の中で実力のありそうな人物が悉く予選からレノの対戦相手として当たるようにされたのは確実にレノの力を疲労させ息子との対戦前に削げるだけ削ぐか、もしくは対戦自体が無くなっても構わないという思惑が見えた行いである。


 勿論、これは学院でそれなりの実力を示した事を知ったヘルムートの指示である。

 通常ならば同じ学年同士で闘う予選からしてこのようなスタートをきった。それだけでも十二分に面倒な事態だったのに加えて、将来の婚約者として名乗りを上げさせる為なのか、特別に王妃へと招待状をだして、甥を応援するようにと図ったのである。その結果は予想外の事態を齎した。


 国王であるヘルマン・フランツ・ディアマント・バルツァーの天覧試合となったのだ。勿論そこに王妃であるアレクシア・ヘルツ・ディアマント・バルツァーも訪れる事になる。途端にこの大会の持つ意味が変わってしまった。そう、この大会で名を知らしめるような戦いを披露すれば将来の道が開けるのである。


 国王と王妃が訪れるというのはレノの存在があった為でもある。

 レノの出自や正体は無論知られていないが、娘が思いを寄せるという青年の出場と聞いて、興味を持ってしまったのであった。だが本当の原因はそういう意味でいうと、ティアにあった。


 ティアは例の出場の話について心苦しく思いながらも、もしも優勝すればレノとの将来が――

 という身を焦がすような思いに抗えなかった。なので母である王妃から次回の大会について尋ねられた折に、自分の注目する人物が出場すると嬉しさを表して答えたのだ。


 相手が平民出身と聞いた二人は悩んだが、その人物が過去にもティアを救った少年と聞くと俄然興味を示した。もしも娘の婿足りえる人物ならば――騎士に取り立てても良いのではないか、ならば直に見定めようと。仲睦まじい国王と王妃だが、その過去には一つの出来事があった、それだけにたった一人の娘には甘くもあった。


 そして事態は加速していく。




 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆




「済まないレノ、まさかこんな事になるだなんて……」

「いや、構わないさ」


 ――そう、今の国王は仇では無いのだから問題は無いのだ、もう()()人物は天寿で他界してしまっている。それに試合はフルフェイスだから、見られる事位は問題無い。


「しかしだな」

「だから言っただろう、これは僕の選択だから、ティアに責任はない」


 自分で決定した事だからとレノは取り合わなかった。

「それじゃ、行ってくる」

 一言だけを残しレノは試合会場へと歩みだした。



 第一回戦の対戦相手はシードで選ばれた青年騎士団の副団長。そして彼の装備はとても学生が個人で用意出来る物では無かった。この装備という問題もレノには降りかかった。


 多くの学院騎士の装備は通常は学院の用意した物が使用されている。だが実力があり将来が見込める場合は勿論貴族や商家から専用の物が用意されている。今回の大会に際して特需になった程だ。

 と言っても出来合いの物ぐらいならば問題は無い。だが副団長クラスの猛者ともなればフルオーダーの一品を揃えてくる。


 勿論この対戦相手もフルオーダーの術式付与鎧を装備していた。

 それに対してレノの装備するのは普通の訓練用の物である。


 それだけの違いと思えそうだが、この差は非常に大きい。訓練用と一般の新作鎧だけでも魔術式も違い過ぎる。魔術の仕様まで考えると、自力が同じならば、確実に一般の新作鎧を装着した方が勝つと言われる程にである。それがフルオーーダーともなれば一つの鎧で複数の術式が込められているなど当たり前となってしまう、なのでレノが苦戦するだろう未来をティア達は思わずにいられなかった。


 それだけにティアは心苦しかった。

 なぜ鎧を贈る事も許さないのかと――


 そして試合が始まってしまった。

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