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王女の矜持

 特殊術式車両の突撃、そして侯爵邸の門と壁が貫かれた轟音が王都に響き渡る。


「総員降車! 制圧に向かうぞ、第一部隊は共に内部へ突入」

「第二部隊、周辺を完全封鎖せよ!」

「第三部隊、周囲の状況確認、直ちに向かえ」



 ――うん、まあ、全員術式装備なのは合格点かな。それにしても派手な突貫だな。


 まさに性格が出ていると言っていい行動だった。確かに確実に敵の意表をついての行動は理に適っているのだけれど、もう少し破壊する際に加減も考えて欲しいものだとレノは思う。


 何故なら門だけ突き破れば済むのにも関わらず、勢いだけで壁も全壊させている光景が見渡せたからだ。レノは侯爵邸の屋根の上に潜んで一部始終を見ていたのだ。素直に侯爵達が投降する筈も無いと考えていたからこそ、この場で待機していた。彼女達がどういった方法を取るのか見極める為に。




 悪事を働く人間はそうそう諦める訳がない。

 まず私兵達は突然の突入に抵抗を示した。彼らの多くは傭兵だ、金さえ出ていれば善悪の有無は関係が無い。それよりも、金を受け取った傭兵がそれぐらいで雇い主を裏切れば次の雇い先など見つからなくなる。



 証拠さえ消えてしまえば良いのだからと考えたのだろうか、侯爵の命令は排除命令であっ為に、突入後の庭では剣戟の音が響き渡っていた。


 そして邸内へと突入したティアの率いる第一部隊は数名の護衛と共に侯爵と対峙していた。

「観念しろ! こちらには貴様たちの不正の書類が証拠としてある」

「ハハハ、何を言っているのやら分かりませんな、書類一つ如きでこの私を拘束しにいらしたと?」

「これは参りましたな、何を証拠に仰っているのやら」


 開き直りにしては随分と堂々とした態度であるが、書類を見る商人の顔には脂汗が垂れていた。

「ふむ、知らぬ存ぜぬで通した場合、罪が発覚した際に更に不利になるが構わんのだな」

「ええ、そもそもその書類とやらに見覚えが御座いませんので、宜しければ拝見致しましても?」

「そうか、申し開きは王城でしてもらおう」


「フハハ、いやいや困りますなあ」

「ええ、まったくもって困りますが、そんな物は最初から無かったとしたら問題も御座いませんな」

 余裕の表情で大げさな態度をとる侯爵と商人。


「この手にあるのに無かったなどと言い訳が通ると思うか」

「いえいえ」

「そんな事を言っている訳ではないのですよ、オイ、そろそろ出番だぞ」

 手を打ち鳴らし侯爵が配下を呼び寄せる、だが誰も出てこない。じっと隣室への扉を見つめる侯爵と商人。だが扉には何の変化もない。


「出番とは用意していたとでも言う事なのか」

 実際に侯爵と商人は書類が盗まれた後に様々な手を打った。騎士団への圧力や投書に来るものが居ないかを無頼を雇って見張らせたりと積極的に動いた。そして最終手段が歴戦の傭兵達を雇う事だった。

「オイ! 高い金で雇っているのだから早く出て来い」

 思わずお互いに顔を見合わせる侯爵と商人。

「クソ、どうなっている」

「出合え出合え!」

 だが幾ら叫ぼうとも隣から傭兵はおろか、使用人達さえも現れない。


「……ふむ、抵抗するならば相手をしよう」

 ティアは剣を構えると侯爵と対峙した。

「どうなってるんだっ」

「侯爵様!?」

 傭兵の現れない事に癇癪を起こす侯爵と事態に慌てる商人。



 だが、現れないのであれば自分の手で倒してくれようと侯爵は自らのサーベルを抜いた。

「判らぬ、が、もはやこれまで……ならば姫を人質に交渉すれば良いだけの事」

「団長、ここは私が……」

 クリスティーネが出ようとするのをティアは止めた。

「いいえ、これ位の相手なら問題はないわ」


「舐めるなよ小娘!」

 侯爵は激高して襲い掛かるが、それ以上に腹を立てていたのはティアだった。

「貴族としての義務も弁えぬ愚か者がっ」


 侯爵とて貴族として剣や魔術はそれなりに嗜んでいた。だがその嗜み程度でティアに適う筈が無い。

 高が学院騎士団と油断した結果であった。剣を打ち合わせる事も無く勝負がついてしまう。

 剣を取り落として剣の腹で打ち抜かれる侯爵が倒れる。


「貴様も刃向かうのならば剣を抜くがよい」

「ヒィ、いえ滅相も御座いません」


 そしてティアは先程二人が気にしていた扉の向こうが不意に気になった。

 ティアが其方へと向かうと商人は少しだけ期待をした、もしかすれば部屋の向こうに傭兵が待ち構えているかもと。


 だが結果は全く異なっていた。

 そこには打ちのめされて倒れる傭兵たちの姿だけが残されていたのである。見事に全員が気絶させられていて、床に転がっていた。だが、それを為した者の姿は見当たらない。出入り口がこの扉しか無いのにである。


 所謂詰め所のような場所であり、ここで待ち構えて居たのだろうが、何故か一人残らず倒れ、そして机の上には一枚の紙がナイフで留められていた。


『親愛なる姫騎士へ、誠にもって嘆かわしい事だと言わざるを得ない、騎士である前に己が何者であるかを考えて欲しい』


 明らかにこの傭兵たちの始末をしたのがアッシェであるとしか思えない気障な台詞付の手紙。


「在り得ない……そんな馬鹿な、何時の間に?」



「アッ! 貴様何をっ」

「そ、そんな……侯爵様な、なぜ」

 まさかアッシェに助けられたなどと思わなかったティアがその部屋に居た隙に事は起こった。

「TUMI―INI―SILIGO―IKU―IRE――IGO――NIKU」

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