乙女突貫
天井から下の様子を伺いながらも過去を思い返していたレノはそう言えばと考えた。
――もしかしてティアが成長したのって身長だけじゃ。
などと失礼な事を考えていた。ティアが知ればそれだけじゃないと胸をはって答え、そして何がと言われてまた口喧嘩になるような話なのだが。
下の会議室で決定された内容からすれば妥当な判断だった。それも致し方無いと思うほどその決定は酷かった。思わず『頭に行く筈だった栄養が何処へいったんだ』とレノが思うほどにだ。
「では、色んな意見があったけど、この侯爵の捕縛と御用商人の捕縛は我等で済ませるわよ! そしてアッシェに目に物を見せるという意見を採用するわ」
胸を張って剣を掲げる姿は立派である。だが浅慮だとしか言えない、意見を出したのはやはりクリスティーネだった。せめて学院騎士全体ならまだしも白百合騎士団のみなんて在り得ない……
「作戦を立案した甲斐もあるというもの! これで私たちは更なる名声を得て『義賊アッシェ擁護』などという偽りの正義を抑えましょう! この私クリスティーネが先陣を仕りますわ」
もしレノが下に居れば二人の頭を張り倒していただろう。そもそもだ、アッシェから齎された情報でアッシェ擁護派に物申すとは意味が判らない。
――ああ、俺はどうやら過大評価してたか、そうかそうか、フフ、ドアホウが!
そう内心で毒づいてレノはその場から立ち去った。今度からもう少し厳しく接しようと決定した瞬間だった。
レノがアッシェとして、いや“自分達だけ”事の最後まで処理しないのは、不正などは国として裁くべき案件を“一義賊の手だけで”断じてはいけないと考えるからだ。今回は相手が侯爵の中でも大物だったので、もし普通に騎士団などに通報してもその影響力によって握り潰される可能性もありえる。そう考慮にいれて、王族として証拠を提出させれば騎士団も動くと考えた結果だったのだ。
にも係わらずだ、彼女達の結論が、高が学院騎士団それも女子のみで動くなんて愚の骨頂だった。
だが其れなりにレノも認める優秀さ故に彼女達の動きは素早かった。
それから数時間後……
「団長、バール侯爵家にダーヴィド・レハールが現れました」
「ちょうど良いわ、皆、聞きなさい、恐らくこの書類が盗み出された件でしょう。被害届を出さない程の書類と言う事だわ……白百合令嬢学院騎士団、出撃しますわよ!」
「「「はい!」」」
巡回を装って張り込みをしていた騎士からの報告を受けて全員での出撃命令が下された。
「第一部隊は機動術式付与軽甲冑壱式にて、総員5分で集合なさい!」
「我が第二部隊は盾装備と防御術式付与重甲冑弐式を装備よ」
「第三部隊は支援装備の上で特殊術式車両を表へ回して!」
様々な指示が飛びかう。
5分後に揃った騎士団へティアの指示が飛ぶ。
「総員乗り込みなさい、現場に到着後は各隊長の指示に従いなさい、刃向かう者がいれば排除せよ」
太陽が沈み夜が訪れた王都を騎士団が駆け抜けていく。数名の馬に乗った凛々しい面々と、乙女達を乗せた学院騎士団所属の移動車両がその紋章と旗を棚引かせて駆け抜ける。
重装甲騎士兵員輸送に用いられる特殊術式車両であり魔術にて駆動している。運用コストよりも運用できる人員を確保するのが大変な大型魔術アイテムだった。
学生でこの特殊術式車両の大型魔術式を駆動させる事ができるだけでも如何に上級学院の高等部生徒が優秀であるかが判る。
そしてこの特殊術式車両が走るという事は一つの事実を示している。
これから騎士団が出撃しての闘争が始まると告げている。幾ら上級市街地といえど人の好奇心は抑えられない。しかも紋章が現在人気を誇る王女所属の学院騎士団となれば正式な騎士団でなくとも見物人が出る。
様々な声援を受けて乙女達は疾走する。
そしてもう一つの事実、特殊術式車両の役割である、それは――
「特殊術式車両、突貫!」
「総員対ショック体勢」
「「「ヤァ!」」」
壁や門を全て打ち抜いての突撃任務だった。轟音が王都に響き渡る。




