賢いほど騙される
「あぁすまんな。
相沢さん。
俺の後輩が世話になったみたいで、礼を言いに来た」
「いやいや加賀さんがいて、俺も随分楽しかった。礼を言うのはこちらのほうだ」
「そうかそうか。
それでな。
最近な、詐欺が多くてな。
こうやって知り合った人に聞いて回っているんだ」
「詐欺?そんな事にひっかかる奴がまだおるのか」
相沢殿は笑った。
「それがな。かなり頭の良い、そうだな、大学教授とかでも詐欺にひっかかってるんだ」
「そうなのか?」
「そうだ。つまりな、頭が良い人のほうが、なまじ理解力があるから、詐欺師の事を信じてしまうんだよ」
「それは怖いな」
「そうだろ。加賀にな、話を聞いていて、相沢さんは、ずいぶん頭が良いと思った。だからな、一応確認で来たんだ。ちなみにな、いろんな詐欺事件で逮捕されるのは、こういう事がきっかけなんだ」
「こういう事って、一応確認した事とか?」
「そうそう。よっぽど運がいいんだろうな。ギリギリの所で、食い止められている」
「そうか。そういう事もあるのか。それでどんな詐欺が多い?」
「最近多いのが、示談金の詐欺だ」
「示談金……」
「そうだ。示談金請求の電話の詐欺だな」
「しかし、全部の示談金請求の電話が怪しい訳じゃないだろう」
「そりゃもちろん。
ただな。
示談金請求の電話があれば、まず類似のケースで詐欺が行われていないか。
これは絶対確認するようには、した方がいい」
「ちなみに、どんなのが多い?」
「そうだな。最近増えているのが、痴漢だな」
「痴漢」
相沢殿の目が泳いでいる。
口を何度か開きそうになるが、
再び閉じる。
「しかしな。こういう事を刑事に話すのは、とても勇気がいる事なんだ」
「勇気?」
「あぁそうだろ。
考えてみてくれ、詐欺師は、発覚すると家族が問題に巻き込まれる。
そういう事を盾に、示談金を請求してくるんだ」
「そうだな。警察を信じていいのか。その男を信じていいのか、わからなくなるものな」
「それだよ。だから優しい人ほど、詐欺師側を信じてしまうんだ」
「そうか」
「これは俺らが信用されていない裏返しでもあるし、反省しなくてはいけないと思ってはいるがな。なにせ詐欺師のレベルが高い」
「そうだろうな。しかし俺はそんな事はない。安心してくれ」
「そっか。すまなかったな」
富山さんは、立ち上がる。
ワシに目くばせをして、
「行くぞ」
と言った。
「あぁ、そうだそうだ。詐欺師は金を稼ぐと、その金でさらに多くの人を騙す。だからな」
富山さんは病室を出る直前に振り返り、
そう言った。
「踏みとどまるのも勇気か……」
相沢殿は強い目で富山さんを見た。
「そうだ」
「話したいことがある……」
そうやって、
相沢殿は富山さんに一部始終を話した。
富山さんは署に連絡をし、
相沢殿に連絡をしたのは、
特殊詐欺グループだと分析され、
網は張られた。
そして俺は退院をする。
退院の日、
相沢殿はワシに会いに来てくれた。
「立つ鳥跡を濁さずというが、随分濁してしまった」
俺は呟いた。
「何を言っている。加賀さん。あんたは俺の命の恩人だ」
「相沢殿も恩人だ」
「じゃあ、おあいこだな」
相沢殿は笑った。
「じゃあ。また見舞い……、習いに来るよ」
「あぁまた来い。暇つぶしになるわ」
俺は、
退院をした。
……
加賀を連れ、
俺は署に向かう。
署は特殊詐欺犯逮捕に向けて、
動いていた。
加賀は直接の関係者ではないが、
感情が入りやすいという事で、
捜査からは外された。
そして、
末端の5名が逮捕されることとなった。
「なぜ末端しか捕まらないのでしょう」
加賀は苛立っていた。
「普通組織犯罪というのは、太いパイプでつながる。
だから芋蔓式に逮捕ができるものだ」
「俺もそれで捕まりました」
「そうか……。
ってか、そういう事は言うな」
「すみません」
「しかし、この特殊詐欺グループは、太いパイプで繋がっていないんだ」
「繋がっていない?」
「そう。繋がっていないのに、仕事はできる」
「なんでそんな事が」
「インターネットの普及だよ」
「どういう事ですか?」
「つまりな。気軽に消せる連絡手段がある事で、詐欺グループの摘発が困難になっているという事よ」
加賀は考え込んでいる。
豊臣の時代から来た奴に、
この概念の理解は難しいだろう。
「気軽に消せる連絡手段は、取り締まれないのですか?」
「取り締まってはいるが、いたちごっこでな」
「幽霊みたいなものか」
「あぁそうだな。どこからともなく現れる」
「実体はあるのか?」
「あぁ実体はある。でもそれが、動いているところから、遠く離れた所にあるんだ」
「呪いをかける呪術者のようでもある」
「そうだな。
あれは確かに現代社会の呪いだよ。
ああいう事件が増えるから、人々が疑心暗鬼になっている。
呪いがさらに闇を呼ぶ」
「平和な世になったというのに、闇はますます深くなったのやもしれんな」
「まぁそうだが、口調」
「あぁすみません。そういえば、この時代で十両と言えば、いくらくらいの感覚だ?」
「一両が十万くらいだから、百万円くらいかな」
「じゃあ、あの犯人達は、打ち首か」
「打ち首なんかねぇよ」
「打ち首がない。じゃあ釜茹でか?」
「釜茹でもない」
「じゃあ市中引き回しか?」
「それもない」
「じゃあ股割きか」
「それもない」
「切腹……」
「それもない。死刑、つまり死罪はほとんどない」
「しかし300万といえば、三十両ほどの大金。十両でも打ち首やむなしの大罪なのに何故だ?」
「犯罪者に優しい世界になったんだよ」
「なぜ?」
「更生することを期待してだ」
「更生するのか?」
「半分くらいは再犯するな※」
※対象や期間によって変動がある。
「再犯……、なるほど罪を再び起こすという事か」
「あぁ」
「それで、犯罪者はどうなる?」
「刑務所に入れられる」
「あぁそれならドラマで見た。臭い飯を食わせると」




