7つの言葉
鏡に映る真っ黒な怪異は、口こそ見えないものの笑って見えた。
「なるほど...」
何かを分析した九条は怯えた顔をした神代を見てから、決意した面持ちで話す。
「紡。詳しい話は後で話す。まずはこの怪異に向けて「仲間に入れる」と言うんだ」
「...!!」
「あとは俺が何とかする」
話し終えると九条は左手で神代の肩を抱き寄せる。
怪異に向き直り真剣な眼差しをした九条を見て、神代は口を開けた。
「仲間に...いれてあげる」
すると一瞬にして鏡から無数の黒い手が伸び、神代を鏡に引きずり込む。
肩を抱き寄せていた九条にも力が入る。
「っ...」
「────」
九条が神代の腕に伸びていた黒い手に右手を添えて呪文を唱える。
唱え終わると同時に鏡の中の怪異は煙のように消えていた。
「.........」
「大丈夫か?」
ペタっと踊り場に座り込んだ神代の隣に九条がしゃがみこむ。
「実は俺が唱えている言葉...呪文は、対象の怪異に触れないと効果がないんだ。
今回は鏡の中だったから、実体を持ってもらうために紡に怖い思いをさせてしまった。すまない」
悔しそうな顔をする九条を見て神代はカバンからノートを取り見せる。
《でも九条くんが助けてくれた。ありがとう》
続けてノートに文字を書き、顔の前で九条に見せる。
《これからも助けてくれるんでしょ?》
「!!」
驚く顔の九条を見て恥ずかしくなった神代は、荷物をまとめ手をバイバイと振って階段を下りていった。
バイバイと手をヒラヒラさせた九条は、頼られたことに嬉しさを覚えていた。
そんな一部始終を、1つ上の階から見ていた人影があったことを2人はまだ知る由もなかった。
―――――――――
「柊おはよ!!」
「樹か、おはよう」
「今日一緒に昼飯食べね?」
「いいのか?」
「もちろん!」
朝練から帰ってきた長谷川は九条と親しげに話す。
長谷川の後ろから明るい声がひょっこりと顔を覗かせた。
「私もいいかな?」
ショートヘアの元気そうな女子高生。
「琴葉お前くっつくなー!!」
「私、橘 琴葉〜
九条くんよろしくね!」
「お前話聞けよ!!」
目の前で繰り広げられるわちゃわちゃに困惑する九条。
「よ、よろしく。樹、その子は...」
「俺の幼なじみー
学校でくっつくなって言ってるだろー」
「だってー」
目の前で騒ぐ2人を横目に、九条は登校してきた神代に挨拶しようと顔を向ける。
神代は席に着き黒板の方を見ながら右手で前髪をはらい、横髪を耳にかけた。
その一連の動作が古い九条の記憶を呼び起こした。
―――――――――
着物姿の女の子が深い森の中でしゃがんで何かしていた。
同い年くらいの着物姿の男の子は後ろから女の子に声をかける。
「何してるの?」
「!!えっとね、その...」
驚いた女の子がしどろもどろしていると男の子は女の子の右隣に同じようにしゃがんだ。
「これみてたのか?」
「う...うん......」
少し赤くなった女の子が恥ずかしそうに見る先は小さなありの行列。
「これの何が面白いの?」
「えっと...面白いじゃなくて、元気が貰えるの」
「元気?」
「こんなに小さいのにずっと動いて、ご飯とか運んでるんだよ!!
私も頑張らなきゃって思うんだ...」
悲しそうな表情をしながら俯いた女の子は垂れてきた横髪を右手で耳にかけた。
悲しいことなんて無かったかのように男の子に微笑みかけたその顔は────
―――「柊?大丈夫か?」―――
ハッと我に返り思い出から覚める。
「あ、あぁ、すまない」
「ぼーっとして大丈夫か?」
「大丈夫だ、何か話してたか?」
少し心配そうな顔をする長谷川と橘は顔を見合わせ、九条を見た。
「昼飯のことだけど、屋上で集合な」
「わかった」
「体調悪かったら無理すんなよ?
あと、一緒に食う人いたら連れてこいよ!!」
にっこり笑う長谷川は親指を立てて見せた。
「じゃあ私クラス帰るわ!」
「おう!!また昼な」
じゃあねーっと軽い足取りで帰っていく橘を見送ると、九条は神代の方を見て息を吸った。
学校のチャイムが鳴り出す。
いつもと何も表情が変わらない神代を見ながら、九条は顔を前に向けた。
今回は少し微妙なところで終わりになりますが、読んでくださりありがとうございました!!
文字数的にギリここがカットどころかなと思い...
今後もこのような感じで続けていきたいのでよろしくお願いします!!
追記
古い記憶とその後の九条の反応に修正を加えました。




