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まりあ、覚悟を新たにする

翌朝。

自室で目を覚ましたまりあは、静かに身支度を整えると、そのまま日課のジョギングへと出掛けた。

何もかも投げ出してしまいたい―――そんな弱気が胸を掠める。

けれど、長年積み重ねてきた習慣(ルーティン)が、迷うまりあの体を自然と前へ動かしていた。


早朝の澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込みながら、まりあは黙々と走る。

一定のリズムで足を動かしているうちに、乱れていた思考が少しずつ整理されていく。

体を動かすたびに頭が冴え、感情が削ぎ落とされていくのが心地よかった。


―――不安な気持ちが、なくなったわけじゃない。

これからも続く試練の日々を思うと、胃はキリキリと痛むし、胸は押しつぶされそうに苦しい。

だけど、その苦しさを飲み込まなければ、先には進めない。

立ち止まっている暇などないのだ。どれだけ辛いかろうとも、足を前へ運ぶしかない。


ジョギングを終える頃には、まりあの胸には一つの覚悟が刻まれていた。

シャワーを浴びて汗を流し、リビングへ向かう。

すると、朝食を用意していたノアが気配に気づいたように振り返った。


「よく眠れた?」

「はい、ありがとうございますノア。……それから、昨日はすみませんでした」


泣いてしまった気恥ずかしさからか、まりあは視線を伏せたまま、小さく言葉を零す。


鬼龍(きりゅう)政影(まさかげ)からは、何か得るものがあったのかしら?」


朝食を並べながら、ノアがまりあへと意味ありげな視線を向ける。

シャワーを浴びたから―――というだけではないのだろう、まりあは妙にスッキリとした顔をしている。

迷いに揺れ、涙を零していた昨日とは違う。

その表情には、どこか吹っ切れたような静かな覚悟が滲んでいた。


今のまりあは、自ら選んだ答えをしっかりと背負って立っている。


「政影さんも、桔嘉(きっか)さんも……私が想像していたような悪人ではありませんでした」


まりあは、ぽつりと静かに言葉を零す。

彼らは、誰かを想い、弱きを助け、その大きな力を人のために振るっていた。

まるでそれが「力を持つ者の義務」であるかのように。


「実際にお会いしたお二人は、優しくて、強くて、真っ直ぐで……本当に素敵な方たちでした」


そこで一度、まりあは小さく目を伏せる。


「彼らは、私が自分勝手に傷つけていい人たちじゃないのかもしれません……」

「そうね……そうかもしれない」


ノアは静かに相槌を打つ。


「悪いのも自分勝手なのも、全部私です」


自分の正しさを主張するつもりはない。

父を助けたいという願いも、誰かから見ればただの我儘なのだろう。

それでも……その瞳にはもう、揺らぎはない。


「……だから、だからこそ」


―――それが、どうした。

覚悟を宿した瞳が真っ直ぐノアを射抜く。


「彼らの信念は立派です。尊敬もしています」


その言葉に嘘はない。

はっきりとそう認めた上で、まりあは静かに言い切った。


「ですが、私には関係ありません。何があろうと、誰が相手だろうと……私は、お父さんを助ける。それだけです」


それだけは、絶対に譲れない。

たとえあの魅力的な男たちに恨まれようと、軽蔑されようと、嫌われようと、それで構わない。

悪になる覚悟を―――傷付け、傷付く覚悟を、ようやく決められた。


「それに彼らは、私なんかとの出来事で人生を狂わせてしまうことなどないでしょうし」


まりあは淡々と言い切る。


「きっと傷つくとは思います。私のことを許せないかもしれません。……でもきっと、それだけです」


それで立ち上がれなくなるほど、あの人たちは弱くない。

むしろ―――私との出来事すら糧にして、あの人たちは高みへと上り詰めていく。

まりあには、そんな確信があった。


「後のことは……お父さんを取り戻してから考えます」


その言葉を聞き、ノアは小さく息を吐く。


「……本当に、強いわね」


しみじみとそう呟いた―――その次の瞬間だった。

ころり、と。ノアの表情が鮮やかに切り替わる。


「それじゃあ、そんなつよつよなまりあちゃんには、お次はドラマ出演を頑張ってもらいましょうか♡」

「……えぇ?」


ついさっきまでシリアスな覚悟を語っていた空気はどこへ行ったのか。

あまりにも唐突すぎる話題の方向転換に、流石のつよつよなまりあも、思わず若干引いた目でノアを見つめるのだった。


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