第35話ーアリアナの行方
「イーサク。ネルサン殿下にお願いして、街中のイデアルの雫を処分しなければ」
昨日の散策の際に、見つけたものはすべて処分したが、まだまだありそうだ。
「私は姉さまに渡したルカルーシュの花を分けて貰ってくるわ」
土と花の状態を見て、植え替えられたのは最近だろう。長期で吸い込んだ住民はいないと思うが、念のためだ。
「では私がお供します」
名乗り出たライネルとロワナは、アリアナのいる城の最上階を目指した。
◇◇
「いない?」
ロワナの問いに、アリアナの部屋で衣装の片付けをしていた侍女は不思議そうに答えた。
「ええ。ロワナ殿下と花を植えるのだとか‥‥?お会いになりませんでしたか?」
「場所は聞いていないの?」
ロワナが慌てて聞くと、侍女は戸惑いながらも首を振った。
「申し訳ありません‥‥」
そう簡単に城内にガルシアの手の者が入れるとは思えないけれど、嫌な予感がする。
「護衛は?」
ライネルが鋭い声で聞く。
「城内ですので、護衛騎士をお一人と、侍女をお一人付けて行かれました」
「少ないな。ロワナ殿下、急ぎましょう」
◇◇
「アリアナ殿下、こちらにも植えますか?」
「そうね半分そこに植えてちょうだい」
アリアナは城の中核にある温室を見渡した。昨夜、婚約者であるカスティヤの王太子アスラン・カスティヤに、妹のくれた花を植えたいが、どこかいい場所はないかと聞いたところ、温室を勧められた。
(綺麗な場所。またロワナと一緒に来ましょう)
ロワナを誘いに部屋へ向かったのだが、ロワナは留守だった。
(全く。何を忙しくしているのやら)
アリアナとロワナは、性格が全く違う。破天荒で活発な妹を、アリアナは羨ましく思っている。
幼い頃、ロワナがアリアナと一緒に観劇に行きたがっていた時期があった。大きな爆発事故が起きてから、恐ろしくなったのかロワナは一緒に行かなくなった。アリアナはそれが少し寂しかった。
(カスティヤにも劇場があるし、久しぶりにロワナを誘って行こうかしら。式が終わるとそんな時間は取れないだろうし)
でも、妹ならカスティヤに嫁いだとて頻繁に訪れてくれるだろう。快活で身軽なあの子なら。
「大公が許せばだけれど‥‥」
じれじれとした執着の目を、ロワナに向けるノクティスを思い浮かべてアリアナは微笑った。
「おい‥‥早く‥‥」
温室に、誰か入って来たようだ。アリアナは思考を止めて声の方へ歩いた。
(アスラン殿下かしら?)
「おい、早く植えろ。誰か‥‥っ?」
「あら?」
男が二人。庭師のようだ。手元の籠に水色の花が見えた。
「ごめんなさい、邪魔したわね」
去ろうと向きを変えると、背後から伸びた手に口元が覆われた。
「‥‥っ?」
咄嗟に肘で掴まれた男の脇腹を打ったが、頭がくらりと揺れてアリアナの意識は途切れた。
◇◇
ロワナは期待を込めて自室に戻った。アリアナがロワナを待ってくれているのではないかと。
しかしロワナの部屋には誰もいなかった。鍵をかけて侍女もいなかった為、アリアナが訪れたかどうかも分からない。
「ロワナ皇女?」
名を呼ばれ振り向くと、立っていたのは王太子アスランだった。
「殿下!あの、姉を‥‥姉さまを知りませんか?」
ロワナの剣幕にアスランの眉間に皺が入る。
「アリアナなら‥‥おそらく中央庭園の温室でしょう?何があったのです?」
「行きながら説明させてください」
ロワナは一刻も早く姉の姿を確認したかった。アスランは頷く。
「分かりました。案内しましょう。温室はこちらです」
◇◇
温室に着くと、護衛騎士が駆け寄って来た。
「ロワナ殿下、アリアナ殿下を見ませんでしたか?つい先程までそちらで花を見ていたのですが‥‥」
温室は騒然として、消えたアリアナを探していた。
「何があった!」
アスランが叫ぶように声をあげた。侍従が報告する。
「殿下、今呼びに行こうとしていた所です。アリアナ殿下の姿が見えなくなりました」
アスランの顔色が曇る。
「すぐに城内の扉を閉めろ。誰も城から出さぬよう手配しろ」
侍従も顔色に焦りが見える。
「は。すぐにネルサン殿下も呼んで捜索を始めます」
アスランは額を左手で覆った。
「いや、ネルサンは呼び戻さなくて良い。別件ですぐには戻って来れない。‥‥城の者は皆、作業を止めアリアナの捜索に当たってくれ」
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書いてすぐに投稿しているので誤字脱字があったら申し訳ありません。
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