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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜【第二章スタート】  作者: 織子
第二章

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第34話ー忍び寄る影


イーサクはロワナを部屋まで送り、階段を降りた。ライネルの率いる、暗部が捕らえた者達の尋問に立ち会う為だ。


「ブラウン卿。契約と違うそ」

尋問部屋にライネルの低い声が響く。イーサクはすぐに頭を下げた。


「申し訳ありません。私の力不足です」


「ロワナ殿下に剣を持たせる事は構わない。しかし獣や魔獣に限り‥‥だ。人と対峙する時は殿下に剣を持たせないという契約だろう」 

ライネルは眉を顰めた。普段表情の変わらない隊長を周りの部下が不思議そうに見ている。


無鉄砲なロワナの側で仕える為、公爵から言い渡された要項の中で重要な項目だ。

人との命の奪い合いを、ロワナにさせたくないのだろう。帝国の皇女なのだ。普通に暮らしていれば起きるはずのない事だ。しかしロワナは普通ではない。剣を持って真っ先に立ち向かっていく性分を持っている。その彼女に、彼女自身に気付かれぬように果たせと言われている。これが大層難しい。


イーサクは思い出し、溜息を吐いた。


ライネルも気持ちは分かる。なんせロワナの護衛をして長い。ノクティスの次に最優先で守る者だと、命令がなくても認識しているので、ロワナの心身の危機には敏感になる。


「報告はするが、閣下も分かってくださるでしょう」

ライネルはそれだけ言うと、視線を刺客に戻した。


イーサクも切り替えてライネルに問う。

「何か分かりましたか?」


「ああ。少しだが、言葉に訛りがある。カスティヤの者ではなさそうだ。おそらく、カスティヤの西の大国ガルシアの刺客だ」

ライネルはそう言うとテーブルに置かれた槍の刃先を見せた。


「独特な毒が塗ってある。命を奪う程の物ではないが、意識を混濁させる作用がある。これもカスティヤでは手に入らない」


「では、ロワナ様‥‥いえ、アリアナ皇女殿下の誘拐が目的でしょうか」

「恐らく‥‥毒の入手先も調べてみよう。‥‥ロワナ殿下はこうなってはアリアナ殿下から離れないだろうな」

ライネルは心配事が増えた気がした。イーサクも同意する。

「ええ。自分がアリアナ殿下を守るんだ!と意気込むでしょうね」


二人は溜息を吐く。

「明日からは私も護衛に加わる」

「それは頼もしい限りです」

「殿下に何かあっては、主が発狂してしまうからな」



◇◇


次の日、ロワナはイーサクの報告を聞き、尋問部屋を訪れた。


(イーサクの報告通りなら、大変だわ)

大国ガルシア。ロワナも動向を注視していた国だ。ガルシアは拡張主義国家だ。回帰前でも領土を広げる為に手段を選ばなかった。しかしそれはロワナが嫁いで10年くらい経ってからの事だった。


(ガルシアの皇帝が変わってからだと思っていたわ。やっぱり回帰前とは起こる事が違うのね)


「ライネル卿、無理をいってごめんなさいね。気になる事があるのよ」

部屋の前にいるライネルの表情は無表情に近い。だが一瞬、後ろにいるイーサクを睨んだように見えた。


「いえ。どうぞお入りください」

ライネルは扉を開けた。


「リーダーはこの男です」

ひときわ大きい体躯の男だ。後ろ手に腕を縛られ、目隠しをされ轡をつけられている。


「目隠しを外してください」

ロワナが言うと、ヴァルグレイスの騎士がリーダー格の男の目隠しを外した。

男は怪訝な目を向け、眉間に皺をよせる。


ロワナがイーサクに合図をすると、イーサクは持っていた水色の花を差し出した。


「これが何か知っている?」

男の視線が花を捉えると、瞳が見開かれた。一瞬だったが、ロワナはそれを見逃さなかった。反応としてはこれで充分だ。


「殿下、その花は一体?」

ライネルの問いに、ロワナは溜息を付いた。


(ライネル卿も知らないこの花を、ガルシアのこの男は知っている)


イーサクが持ってきた花は、イデアルの雫と呼ばれる花だ。花粉が有毒な魔素を持っている。少量では効果はないが、定期的に吸い込むと徐々に身体の機能が麻痺し、死に至る恐ろしい植物だった。


乾燥地帯で時々見かけるだけで、群生することはない為、昔から生息している花だが危険性はあまり知られていなかった。


ルカルーシュの花が論文で発表された時、イデアルの雫の花粉により魔素の緩和が臨床されたと読んだ。


乾燥地帯で咲く花が、水の都にあるのはおかしい。昨日の外出の際に、公園や並木道など、様々な所に咲いているのを見た。誰かが故意に植えたのだろう。


(思ったより多くガルシアの間者がカスティヤに入って来ているのだわ。イデアルの雫がガルシアの仕業なら、カスティヤのスタンピードも自然に発生したものじゃない)


イデアルの雫の香りは、ワーウルフが好むものだ。

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