第33話ー襲撃者
「ロワナ様はどれになさいますか?」
「うーん‥‥」
カスティヤの末姫、サラサ王女に誘われて王都ウラヌスの人気のカフェを訪れている。
サラサ王女とは歳も近く、末姫と言うこともあり、二人はすぐに打ち解けた。
「悩むわね。サラサ様、シェアなさいません?」
「良いですね!どれでお悩みですか?」
カスティヤ王家の護衛と、ロワナの護衛のイーサクもいる。
イーサクが外の様子に気付き、ロワナに言った。
「アリアナ殿下がいらっしゃいました」
カランカラン。と軽快な音と共に扉が開いた。
「待たせたかしら?外まで可愛らしい声が聞こえてましたよ」
「お姉様」
「お、お姉様」
照れながらもロワナに習い、アリアナを「お姉様」と呼ぶサラサを2人は愛でるように見つめた。
「サラサ様、可愛らしいわ。ロワナにはこの可愛いさはなかったもの」
「あら。お姉様、どういう意味ですか」
「貴方はなんというか‥‥妹と弟の中間‥‥?のような」
2人が軽口を言い合っていると、サラサもふふっと吹き出して微笑った。
3人はそれぞれパンケーキを頼み、少しずつシェアして食べた。
(サラサ様は良い方だわ。お姉様の周りに優しい方がいて良かった)
3日後、ロワナは街の視察と言い、イーサクと護衛二人を連れてウラヌスの商店街を訪れた。本当は夜に酒場などで情報収集をしたかったのだが、王城は言わば孤島だ。昼に出ても目立つのに、夜の外出など以ての外だった。
いくつかの店を周り、二店目で感じた違和感は、三つめの店を見ている時に確信に変わった。
視線は目の前のティーカップに向けながら、ロワナは落ち着いた声で言った。
「誰かつけてきてるわね?」
「ええ。どうしますか?」
イーサクも淡々と答える。
一つ目のお店は雑貨屋さんを見た。二つ目のお店は防具屋。三つ目は薬草の店だ。ばらばらな店を巡っているのに、同じ客と鉢合う。少し離れた所から、視線も感じる。四店目は喫茶店だ。
「うーん、何処から着いて来てたのかしら」
「おそらく、城からかと。門の近くで張っていたのでしょう」
ふむ。そうだとしたら、アルカダイアから来た皇女を狙っている可能性が高い。つまり、アリアナをターゲットとしているのだ。
「じゃあ、なんとしても捕らえるわよ」
ロワナの視界にいる護衛は二人。おそらくノクティスが付けている護衛も数人いるはずだ。ロワナは青い顔をしているイーサクに、パチリと目で合図をして席を立った。
ロワナは店を出ると人気の無さそうな路地裏へ入った。イーサクと護衛二人も一緒だ。薄暗い道をゆくロワナに、護衛の一人が口を開いた。
「殿下、これ以上奥へ行くと袋小路です。ここは治安も良くありません」
ロワナは振り向いて二人の護衛に言った。
「分かってるわ。エスラ卿、コンラッド卿。鼠を駆除する為にここへ来たのですもの。イーサク?」
イーサクは自分の腰に下げていた、短い方の剣を差し出した。
たまたまこの日の護衛に付いたエスラとコンラッドは困惑している。
(イーサク・ブラウンの腰の剣‥‥ブラウン殿にしては短い剣を持っているから、おかしいと思っていたが)
イーサクだけではない。ロワナは外出の際には、自分の剣を身近な誰かに託している。
「来るわよ。1人でも多く生け捕りましょう」
エスラとコンラッド、イーサクも剣を構えた。
(5、6、7‥‥‥10人くらいか)
出て来た男たちは服装が似通っている。その辺のごろつきではなさそうだ。
奥にいる身体の大きな男が合図をすると、男達が一斉に動き出した。
ロワナと対峙した男の得物は剣ではなく槍だった。
(騎士団で槍相手の訓練もしておいて良かったわ)
男が振り下ろす一撃目を後ろに飛んで躱す。そのまま薙ぐように突かれた二撃目を剣で防いだ。
(一撃が重い。やっぱり騎士団の皆は訓練の時に加減してくれていたのね)
薄々感じていた事だが、ちょっと悔しい。
二撃目を弾いた隙にロワナは振り被った。
「ぐぁっ」
槍の男は剣を振り下ろす前に声を上げた。
「えっ」
ロワナは剣を振り上げたまま驚く。そのまま男は仰向けに倒れた。
倒れた男の前に、グレーの髪の青年が立っている。
「ライネル卿」
ノクティスの忠臣。ハーフエルフのこの青年は、若く見えて100歳を有に超えているとノクティスから聞いたことがある。
「ぐっ」「あがっ」
ライネルに気を取られていると、周りで呻き声が聞こえてくる。気付けばロワナを取り囲んでいた男達は皆地面に倒れていた。
(早い‥‥さすがヴァルグレイスの精鋭ね)
ライネルの率いるヴァルグレイスの暗部は、ヴァルグレイス騎士団の精鋭達で構成されている。
「殿下、この者達は我々に任せていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ。お願いするわ」
ライネルの問いに、ロワナは頷いた。ライネルが部下に指示を出していると、イーサクの呼んだ馬車が来た。ロワナは乗り込み、窓からライネルに言った。
「ライネル卿、ノクティスに報告しますよね‥‥‥」
「はい」
もちろんです。と言わんばかりに食い気味で答えるライネルを見て、ロワナは諦めた。
(明日から外出にも苦労しそうだわ)




