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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜【第二章スタート】  作者: 織子
第二章

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第32話ーその頃ノクティスは。


ロワナがアルカダイアを発って1週間。ノクティスは執務室に籠り、ひたすら書類を捌いていた。


コンコン。


ノック音に視線だけ扉に向ける。

「入れ」


入って来た人物を一瞥すると、すぐに視線を書類へ戻した。

「成果は?」

「これと言ってありませんでした」

ハーフエルフのライネルは淡々と報告する。

「カスティヤについてはこれ以上時間をかけても何も出てきそうにありません」


「ふむ‥‥」

では何だ?ロワナは一体何に備えているのか。

「第二王子も同じです。上げた報告書以上のことはありませんでした」

「そうか‥‥さがれ」


ライネルは一礼してすぐに出て行った。


(姫の様子をみる限り、カスティヤで何か変えようとしている)

ロワナに聞けばいいのだが、回帰前の出来事はお互いにあまり口に出さない。

(だがそうも言っていられないな。暗部が調べても何も出ないなら、まだ起きていない事だ。調べようがない)


見当がつかない何かが起こるのは恐ろしい。それもロワナが1人でなんとかしようとしているなら、なおさら。




◇◇


ノクティスはふと気付くと地べたに座っていた。狭い空間。壁に背を預け、前を向くと格子が見えた。


(懐かしいな。ここはアデラジャの牢の中か)


冷たい床の感触はない。隣の牢が騒がしい。アルカダイアの兵士が、暴れる男を牢に押し込めているところだった。


(ふ。女神も都合の良い夢を見せてくれるものだ)

ノクティスは苦笑した。茶髪の男。牢に押し込められたのはカスティヤの第二王子、ネルサンだ。


この時はとても王子だとは思わなかった。

(一国の王子の姿とはとても思えない。まるで長い間戦争をしていたかのようだ)

着ている物もぼろぼろで、ネルサン自身も痩せている。カスティヤが何処かの国と戦争中だったとは記憶にない。

(この頃カスティヤに何かあったのか)


アデラジャにロワナを迎えに行く時も、ロワナが死んだ後も、ノクティスは必死だった。朧げな記憶しかなく、隣国でもないカスティヤ情勢の事は覚えていなかった。


『おい。ここの‥‥アデラジャの王妃はどうなった?知ってるか?』

隣の牢に押し込まれたネルサンから声がする。

『死んだ』

自身から力のない声が聞こえた。

(この時会話していたのか)

『な‥‥何故だ。攻め込んで来たのはアルカダイアだろう?王妃の祖国じゃないのか』

『‥‥‥‥』


『‥‥信じられない‥』

ネルサンの悲痛な声に、ノクティスは何も感じなかった。ノクティスも茫然としていたからだ。謁見の間に押し入り、ロワナに矢が穿つと頭が真っ白になった。アルカダイアの騎士達を跳ね除け、ロワナの元へ行き抱きしめたが、ロワナに温もりが戻る事はなかった。その後、自分からロワナを引き剥がそうとする騎士達と争い、牢に入れられた。



『お前、アデラジャの者じゃなさそうだな。ここに居ても意味がない。帰った方が良い』

茫然としてはいたが、ロワナの死を嘆く者だ。ノクティスは言った。

『アデラジャはもう終わる』


『‥‥‥‥‥僕の祖国も、もうない』

視線は床に落としたままだったから、ネルサンの表情は見えなかった。



――パチッと頭の中が弾けて目が覚めた。

身体を起こすと、執務室のソファーだ。

「寝てしまったか‥‥」

ノクティスは呟きながら頭を整理する。

(どういうことだ。アデラジャの城が落ちた時、カスティヤは国家存亡が危うい程の何かがあったということか?)


ノクティスがアルカダイアを出る時、そんな話は聞いていない。カスティヤは大国ではないが、それでも短期間で国が揺らぐ程の事が起きていたとは。


(アデラジャの滅亡と時期が重なるのも気になるな)


机の上のベルを鳴らすと、すぐに暗部の部下が3人姿を見せた。1人はライネルだ。

「ここ10年のカスティヤ周辺の情勢を調べてくれ。それと、俺がアデラジャの王を討った後の周辺国の動きも」


「承知しました」

ライネルは頭を下げた。ノクティスの表情が硬いままなので、ライネルは部下を先に下がらせた。


「カスティヤは陛下が調べ尽くした国です。大きな心配はないのでは」

「これまではそうだっただろうな」 


ライネルはノクティスが常に先の未来を知っていると感じていた。先見の明が凄まじいと。しかしここ最近はそうではない。常に何か不安を感じているようだ。


「ライネル。先にカスティヤに発ってくれ。ロワナの護衛にあたれ」


ノクティスの下す任務の中でも、最も重要なものだ。

「何か心配ごとでも?」

最も重要な任務だが、今まで自分に任された事がなかった。

ノクティスの視線がライネルの瞳を向く。

「ああ。お前じゃないと安心出来ない」


ライネルは10年前にノクティスに闘技場で拾われてから付き従っている。暗部の中でも一番の古株だ。

(こんなに不安定な主を見るのは初めてだな) 


「心して遂行致します」

「ああ」



ライネルが下がると、ノクティスは大きなため息を吐いて呟いた。

「会いたいな」

 




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