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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜【第二章スタート】  作者: 織子
第二章

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第31話ー水の都

回帰してから、ロワナはスタンピードについての文献を読み漁っていた。しかし発生数も少なく、百年以上も前の為にろくな文献は残っていなかった。


(疫病が流行り始めて間を置かずに発生したスタンピード。関連がないとは思えないわ)


スタンピードも、流行り病も、身体の弱い姉が嫁ぐ国であってはならない。ロワナは我知らず呟いた。

「ネルサンに詳しく聞いておけば良かったわ‥‥」

「何をですか?」

「えっ」

後ろから聞こえたネルサンの声に、ロワナは驚いた。

気分転換に馬に乗って移動していたので、ロワナは慌てて手綱を握り直した。


「申し訳ありません。驚かせるつもりはなかったのですが‥‥」

「いいのよ。私がぼんやりしていたから」


ネルサンはロワナの馬に並んで進んだ。

(またバランスを崩すと思ってるのかしら)

ぼーっと乗っても大丈夫な程、馬には慣れている。ネルサンに言っても信じてもらえないだろうが。


ロワナは少し悩んだが、思い切って聞いてみた。

「ネルサン、カスティヤにはあまり出没しないと聞いているのだけど、ワーウルフの目撃情報はあるかしら?」


ネルサンは一瞬眼を見開いた。

「ロワナ殿下、何故それを知っているのです?」

「出たの?ワーウルフが?」

食い気味に聞くロワナに、ネルサンはますます怪訝な顔をする。

「出たと言いますか、私がここに来た理由がそれです。この近くで目撃情報が出たので確認しに出向きました。その帰りに貴方を見つけたのです」


「それで?見つけたの?」

不躾な問いかけに、ネルサンは丁寧に答えてくれた。


「目撃情報の近くを探してみると、二匹のワーウルフを発見しました。ワーウルフは下位の魔獣ですが、群れで行動するので厄介です。他にいないか周りをしばらく探索したのですが他には見つけられませんでした」


「そう‥‥そうよね。ワーウルフが周りに群れがいない状態で二匹で行動しているのは変ね‥」


ロワナの呟きにネルサンも頷く。

「ええ。ですので何人か傭兵を置いて来ました。彼らにはもう少し探索してもらいます」


「ワーウルフが見つかったら私にも教えてくれませんか?」

「それは‥‥」

「以前、ワーウルフについての文献で読んだのです。水辺にワーウルフが集まる時には疫病が流行ると。めいしんかもしれませんが、姉さまはお身体が強くありません。心配の種は摘んでおきたいのです」


ネルサンに問われる前に、嘘と真実を織り交ぜて答える。


「そうなのですね‥‥良ければどの書物か教えていただいても?ワーウルフは我が国にとって未知な魔獣なので、私も知っておきたい」

(相変わらず真面目ね‥‥)

「皇城図書館の物でした。閲覧禁止区域にあったのですが、ネルサンなら大丈夫でしょう。帰ったら複写して送ります」

我ながら完璧な答えだ。アルカダイアに戻ったら学者に書かせよう。


「分かりました。では殿下、そろそろ馬車へ移ってください。城下街に入りますよ」



◇◇


「わぁ。聞いていたより、ずっと美しいわ」

ロワナとアリアナは感嘆のため息をついた。



カスティヤの王都ウラヌスは、別名「水の都」と呼ばれている。上流から流れる5本の川に沿って、白と水色のレンガ造りの家々が立ち並び、海へ続く水路は人々の生活の一部となっている。馬車と同じくらい沢山の船が行交い、街も川も活気に満ちていた。



「荷馬車はそのまま行ってもらい、我々は王城へ舟で行きましょう」

ネルサンが提案すると、アリアナもロワナも喜んだ。


「舟から水の都を眺めれるなんて嬉しいわ」


二人は馬車から舟に乗り換えて、水路を進む。しばらく進むと、大きな湖が見えた。湖上の島に荘厳な城が建っている。


「まぁ‥‥!」

カスティヤ城は白い尖塔がそびえ立つ美しい城だった。舟は進み、城の下の崖下にある洞窟に入っていく。


「カスティヤ城に下から入るには、ここしか入り口がないの?」

「ええ。湖からの入り口はここだけです。地上からも、二本ある橋以外に入る方法はありません」

「なるほど」

(不審者の侵入は難しそうね。姉さまが暮らす城としては合格だわ)


ロワナが感心するとネルサンも誇らしげに言った。

「私の知る限り、賊の侵入もありません。安心してお過ごしください」



◇◇


「高いわね‥‥」

窓を開けて下を見下ろした。


ロワナに充てがわれた客室は、カスティヤ城の最上階にあった。アリアナも結婚式が終わるまでは客室で過ごすらしい。おそらく同じ階にいるはずだ。



「今、何してるかな‥‥」


ロワナはぽつりと呟いた。頻繁に会っていたという訳ではないが、ひと月会えず、すぐに会えない場所まで来たのは婚約してから初めてだ。会う度に優しく微笑む赤銅色の瞳を思い出すと、心細く感じた。


とはいえ、ここにノクティスがいれば、心配性の彼の事だ。ロワナは自由に動けないだろう。

 

(ノクティスが来るまでには、調べたい事は済ませておかないと)


カスティヤでの心配事を自分1人でどうにかしようとは思ってはいない。忙しいノクティスになるべく負担をかけないように、ある程度情報を掴んで力を借りようと思っている。


回帰前の事は、未だに話すと辛い。ノクティスもそうだろう。


ロワナは暗い湖を長い時間眺めていた。









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