第27話ーロワナのおねだり
アリアナの誕生日パーティーから三日後、皇城ではカスティヤから訪れたアリアナの婚約者、カスティヤの王太子アスラン・カスティヤと、弟のネルサン・カスティヤ。更に妹のサラサ・カスティヤを招待し、親睦を兼ねた晩餐会を開いた。
オーガストの婚約者であるレイチェル・サザーランド侯爵令嬢と、もちろんノクティスも参加している。
ロワナがアスラン・カスティヤと会うのはこの日が初めてだ。誕生日パーティーの日も、アスラン・カスティヤは遅れて来たので挨拶が出来ずじまいだった。
(この方がカスティヤの王太子。姉様の結婚相手。回帰前には会わなかった人だわ。どんな方なのかしら)
焦げ茶色の髪に、ネルサンと同じ栗色の瞳。どこか人懐っこさを感じる。アリアナとの様子を見ていると、悪い人ではなさそうだが、アリアナに相応しいかどうかは話が別だ。じっと見ていると、ロワナの視線に気付いたアスランはアリアナに耳打ちをした。
ふふっと微笑ってアリアナが言った。
「ロワナ。そう睨まないの。アスラン殿下が、ロワナに嫌われているのではと心配されているわ」
「えっ」
慌てて視線を逸らす。
にやりと微笑ってオーガストが言った。
「睨みたくもなるさ。大好きな姉が遠くへ嫁ぐというのに」
「兄様!」
ロワナはからかうオーガストを睨んだ。
「申し訳ありません、アスラン殿下。そういう意図はなく···」
アスラン・カスティヤに弁明をする。
「大丈夫ですよ。ロワナ様。聞き及んでおりましたが、アルカダイア皇室の兄弟仲はとてもよろしいのですね」
アスランは微笑みながら言った。
にやにやとオーガストが更に言った。
「ロワナ。もっと睨んでいいんだぞ」
オーガストの悪ふざけをどうしたものか。ロワナとて他国の王族の前で声を荒げたくはない。隣に座っていたノクティスが口を開く。
「このように皇太子殿下は、妹君の婚約者である我々を執拗にからかうのです。お気をつけください」
ノクティスが場を和ませたところで、廊下が少し騒がしくなった。ガチャリと扉が開く。
「遅れてすまないな」
皇帝は入ってくるなり、立ち上がろうとしたアスランを手で制した。
「挨拶はいい。食事を続けなさい」
皇帝の表情が少し硬い。オーガストも気付いたようで、ロワナをからかうのを止めて皇帝に向き直る。
「陛下、顔色が悪いようですが、何かありましたか?」
皇帝は言いにくそうに口を開いた。
「うむ、西部地域で小競り合いが起きている。オーガスト、すまないがアリアナと同じ時期に発つのは無理そうだ」
オーガストは眉を寄せた。
「西部ですか···確かに今の時期に放っておくのは得策ではありませんね···うーん、となると」
オーガストはロワナを見た。
「ロワナ、お兄様は一緒に行けそうにない。アリアナは式の準備や王宮に慣れる為に忙しいと思うし、日程を変更してお兄様と式の前に出発しないか?」
「いいえ!」
ロワナはすぐさま返事をした。
「お姉様と一緒に出発します!1人でも大丈夫です!カスティヤの観光もしたいですし」
何より1人の方が動き易い。調べたい事がたくさんあるのだ。
「うーん···」
オーガストは言葉を濁した。
「私も1人で動くとなると心配だ」
皇帝がオーガストの味方をする。まずい。ノクティスがこの件で味方をしてくれるはずがないし、自分でなんとかしなければ。
「お兄様、私カスティヤの観光を本当に楽しみにしてたのよ。アルカダイアには海がないでしょう?カスティヤの海で遊んだり、海産物を食べたり、とても式の日程だけじゃ足りないわ!」
ロワナはオーガストの袖を掴み、上目遣いでお願いした。ロワナが知る限り、今世のオーガストがこれで落ちなかった試しはない。
「それもそうだけど···」
(もう少しだわ!)
「1人と言っても、エリシャも護衛もたくさん連れて動くから」
まだ「うん」と言わないオーガストに、藁にも縋る思いでノクティスに視線を向けた。
ノクティスは目が合うと、「仕方ないですね」と言うようにため息を吐いた。
「私からもヴァルグレイスの騎士をロワナ殿下に付けましょう。それでも心配ならば、ヴァルグレイスの私兵の騎士団も付けます」
(そ、それはやり過ぎかな)
観光に騎士団を引き連れて行ける訳ないじゃないか。ノクティスは本気の目をしている。騎士団の件は後で阻止しなければ。
「仕方ないな。なるべく早くかたをつけて私も向かうから、危ない事はしてはいけないよ」
オーガストの言葉を聞き、ロワナはオーガストに抱きついた。
「ありがとうお兄様!」
でれっと顔を崩すオーガストをノクティスが冷ややかな顔で見ている。小声で耳元で囁く。
「ノクスもありがとう」
ノクティスは微笑った。
「いえ。私に姫様を止められる訳がありませんか」
話に混じれなかったカスティヤの兄妹が、ホッとしたように口を開く。
サラサ王女が言う。
「良かったですね。ロワナ様。わたくしのおすすめのケーキ屋さんに一緒に行きましょう」
「ええぜひ」
ロワナは嬉しくてにっこり微笑う。
ネルサンも声を上げた。
「私も出来る限りロワナ殿下の護衛を務めます。おすすめの魚料理のお店も知ってますので、ご案内致します」
「ええぜひ」
これにはオーガストとノクティスが顔を歪めたが、ロワナは気付かなかった。




