第24話ーカスティヤの第二王子
寝ている事に気が付くと、シオンは大きくため息を吐いた。
「はぁ·····。驚かせて申し訳ありません、貴方は?」
ロワナを抱き上げて、ネルサンに向き直る。
ネルサンは驚いているようだが、すぐに名乗った。
「私はネルサン・カスティヤ。カスティヤの第二王子です。もしや、貴方がたはアルカダイアの···」
「ええ。私はシオン・タッカー・アルカダイア。こちらはロワナ・トゥワイス・アルカダイアです。貴賓であるネルサン殿に迷惑をかけて申し訳ない」
ネルサンは戸惑っている。
「いえ、ロワナ皇女は大丈夫ですか?どこかお具合でも···」
「ご心配なさらず。姉の祝いの日に羽目を外しすぎたようです。我々はこれで失礼します」
シオンはそう言うとロワナを抱き抱えたまま扉へ向かった。が、思い直してバルコニーの下を覗く。
(このまま会場に入ったら目立つよな。庭を抜ける方がいいか)
「あの、お手伝い致しましょうか?」
シオンはネルサンを見た。確かに自分より大きな体躯を持つネルサンの方が、ロワナも安定して運べるだろう。
「いいえ。やめておきます」
シオンも姉を運べないほど子供ではない。それに寝ているロワナを他の男に触らせようものなら、ノクティスに何を言われるか。
くるりと向きをかえ柵を乗り越えようと足をかけた。そこでやはり気になっていた事を聞こうと、ネルサンに視線だけ向ける。
「失礼ですが、ネルサン殿は姉と会った事が?」
ネルサンは戸惑いながら答えた。
「いいえ。ありません」
「ふむ···ですよね」
ネルサンも何故あのようにロワナに声をかけられたのか分からないようだ。
シオンはそのまま庭へ降りた。少し高かったが、二階ほどではないのでロワナに衝撃はいかなかったはずだ。ロワナを抱えて難なく動ける事にホッとして皇女宮へ向かった。
◇◇
カスティヤ王国はアデラジャの隣に位置する。昔からよく交流があったようで、嫁いだ頃からネルサンとはたびたび顔を合わせていた。話をするようになったのは、ロワナがこっそりしていた鍛錬が見つかってからだ。
一国の王妃がドレスではなく隊服に身をつつみ、剣を振る姿にネルサンは大層驚いていた。
それからネルサンの年に一度の訪問も、少しずつ回数が増えた。当時ネルサンは弓の名手として名を馳せていたので、ロワナは弓を習うことが出来た。
ロワナの数少ない対等に接する事の出来る友人。ネルサンの存在に何度助けられたか分からない。
ロワナは、ネルサンが――···カスティヤが大変な時、力になることが出来なかったのに。
「――うっ···」
頭が重い。兜を付けて締めつけられているような感覚だ。
目を開けると、見慣れた天井が見えた。いっその事、外に居たなら愚行の挽回が出来たかもしれないのに。
視線だけずらすと、赤銅色の髪が見えた。更に少し冷めた赤銅色の瞳と目が合う。
(もう駄目だわ)
覚えている。怒られることしかしていない。むしろ記憶がなくなっていた方が精神的にも楽だったのに。
「ご、ごめんなさい」
「何に対しての謝罪でしょうか?」
ノクティスの声が怒っている。頭も痛いし、泣きたくなってきた。
「えっと、お酒を飲みすぎたのと、迂闊な事をしちゃったから····」
「――はぁ。良いでしょう謝罪を受け入れます。いいですか?二度と1人でお酒を飲み過ぎないこと。酔って知らない男性に近寄らないこと。今言った事を守ると誓うなら今回は許しましょう」
ため息を吐いたノクティスに、ロワナは大きく首を縦に振った。久しぶりに会うのに、これ以上けんかをしたくない。
「守るわ」
涙目で頷くロワナを見て、ノクティスは困ったように微笑った。
「まあ今回は、知らない男性ではなかったようですが····カスティヤの第二王子と面識が?」
「うん。アデラジャに居た頃、友人だったの」
月が隠れたのか、部屋が暗くてノクティスの表情が見えない。
「そうですか」
抑揚のない返事だけが返って来た。急に不安になり、ノクティスの手を握った。
「頭が痛いのでしょう?今日はもう寝てください。私も城に泊まる事にしてますので」
いつもの優しい声音にもどった。ロワナは安心して促されるまま横になった。
「ノクス···」
「はい姫」
「私、前はお酒に強かったのよ。だからあのくらい飲んでも大丈夫だと思ったの···」
瞼の重さと戦いながらロワナは言った。ノクティスの手が優しく頭に触れる。
「そうなのですか?回帰前と違うこともあります。オーガスト殿下を見れば分かるでしょう?」
今でも夢に見る、回帰前のオーガストの冷たい瞳。
「そうね···」
「姫、もうおやすみください。明日の朝、また伺いますから」
ん?そういえばもう夜も遅いと言うのに、何故ノクティスがロワナの私室に居るのだろう?皇帝やオーガストが許可する訳がない。
「ノクス、また忍びこんだの?」
ノクティスはニヤリと微笑った。
「心配でしたので、すみません」
「いいのよ。ノクスならいつ来ても構わないわ···」
もう瞼が限界だ。ロワナは諦めて目を閉じた。額にノクティスの唇を感じた。おやすみのキスをくれたのだろうか?目を開けたかったが、眠気に勝てず、ロワナはそのまま眠った。
読んでいただきありがとうございます。
第二章、初日は4話まで投稿しました。
また明日も投稿します。




