第22話ー姉の誕生パーティー
会場に入ると皆の視線が集中した。
「ロワナ殿下を公式の場で見かけるのは久しぶりね」
「ヴァルグレイスの三男が爵位を継いだのは本当なのね」
「ロワナ皇女と婚約されたとか?」
「でも彼はたしか····」
会場に入る前は緊張していたロワナだが、いざ入ると落ち着きはらい、微笑む余裕すらある。
(伊達に17年も皇女やってないもの)
更に回帰前は王妃を務めていたのだ。
横目でちらりと見ると、ノクティスも人生二回目だからだろうか?涼しい顔をしている。
ロワナとノクティスは堂々と中央を進み、皇帝の前まで行くと頭を下げた。
「帝国の唯一の太陽と輝く星、皇帝陛下とアリアナ皇女殿下にご挨拶申し上げます。アリアナ皇女殿下におかれましては、心よりお祝い申し上げます」
ノクティスが口上を述べると、ロワナも頭を上げて笑顔で言った。
「お姉様。お誕生日おめでとうございます。こうして一緒にお祝いが出来て嬉しいです」
「ありがとう大公、ロワナ」
アリアナは微笑んだ。もう少しでアリアナはカスティヤ王国に嫁ぐ。なのでアルカダイアで過ごす最後の誕生パーティーだ。
カスティヤ王国の国王との婚姻が決まったのは一年前。アリアナが十九歳の時だ。この歳まで婚約者がいない貴族令嬢も珍しい。ましてやアリアナは皇族である。皇女に相応しい相手を、皇帝が厳選に厳選を重ねて選んだ相手なので、帝国内では皇帝の皇女に対する愛情を疑う者はいない。
「では、殿下。私は少し席を外します」
ノクティスはまたロワナの手にキスをした。そして壇上から降りて行く。ロワナはその姿を見送り、アリアナの隣に置かれた椅子に座った。
商談相手への挨拶周りや、高位貴族との社交。ノクティスは忙しい。その間ロワナをフリーにするのが嫌らしく、皇族席に連れて来たのだ。
「相変わらず過保護な男だ」
皇帝がノクティスの後ろ姿を見ながら呟く。
「ほんとに。まあだからこそロワナを任せることが出来ます」
アリアナが微笑いながら言う。
「お姉様、今日はカスティヤの国王様はいらしているの?」
ロワナはアリアナの婚約者に会った事がない。是非とも顔を見ておきたい。
「うーん、少し遅れていらっしゃるようなのだけど、忙しい方だから」
「そう···」
ロワナの中の好感度が下がる。忙しいとは言え、婚約者の誕生パーティーには来るべきだ。来なかったらどうしてやろう。
口をとがらせたロワナに、アリアナは困ったように微笑った。
「ふふ。心配しないでロワナ。優しくて良い方なのよ」
お父様が認めた方なのでそうなのだろうが、ロワナは口を尖らせたまま言った。
「分かっています。でもお姉様を私から奪う人なので、私が笑顔で迎えるのは難しいです」
「まぁアリアナったら」
嬉しそうにクスクス微笑うアリアナを見て、ロワナも微笑った。
回帰前ではアリアナはこの歳まで生きれなかった。アリアナの新しい暮らしが幸せであることを、ロワナは祈らずにいられない。
(私の時とは違う。お父様が、お姉様の幸せを願って受け入れた婚姻だもの)
「やぁ私の可愛い天使たち」
ロワナとアリアナは呆れた顔で振り向いた。皇女二人にこんな寒々しいセリフを吐ける人は限られている。
「お兄様」
オーガストの妹二人への溺愛ぶりは日々加速している。アリアナが冷たく言った。
「お兄様。二十歳になろうかという妹に、天使はありません」
「何を言う。幾つになろうと天使であることは変わらない。そうですよね?陛下」
矛先を向けられた皇帝は咳払いだけで返事をした。溺愛ぶりを知られる皇帝ですら引いてしまう。それが今世の皇太子オーガストだ。
「誕生日おめでとう。アリアナ」
オーガストの後ろに控えていた侍従が、箱を二つ差し出した。
「プレゼントだ。アリアナとロワナに、お揃いで準備したんだよ」
「私にもですか?」
箱を開けると、イエローダイヤモンドの大ぶりのピアスが入っていた。アリアナにはピンクダイヤモンド。デザインは同じ、石だけ変えてある。
「嬉しいわ。お兄様。ロワナとお揃いのものなんてなかったもの。カスティヤでもたくさん使うわね」
嬉しそうに微笑むアリアナを、ロワナはギュッと抱きしめた。
「私もお姉様とお揃いだから嬉しい。お兄様、ありがとう」
「くっ···!うちの天使達が可愛すぎる」
オーガストは大げさに喜び、それを見たアリアナとロワナはまた微笑った。
「ところでロワナ。カスティヤで開かれるアリアナの結婚式に出席すると聞いたが···」
「あら!ロワナ、本当に?遠いけれど来てくれるの?」
「もちろんです。お姉様の結婚式に、私が出なくて誰が出るのですか」
ふん、と鼻を鳴らしロワナは誇らしげに言った。アリアナが新しく過ごす場所を見ておかねばという気持ちもあるし、カスティヤには因縁がある。ノクティスも知らない、回帰前のロワナとの因縁が。それも踏まえて行かねばならない。
「嬉しいけれど、ロワナ。大公には伝えたの?」
「まだですが···陛下にも今朝伝えたばかりなので」
ロワナはきょとんと言った。
アリアナが視線を逸らした。気の所為だろうか。ぎこちなく微笑っている。
「そう···大公が許してくれるといいわね」
「えっ」
婚約者の許可がいる案件だったのだろうか?
「心配するなロワナ。大公が許さなくても私が連れていってあげるから大丈夫だ」
にこにこと言うオーガストを見て、ロワナは逆に心配になった。




